SAPIX偏差値30台はお客さん状態。アルファベット下位からの撤退戦

SAPIXで偏差値30台が続いているなら、問題は努力の量ではありません。授業の速さと宿題の量が、今の子の持ち物に合っていないのです。席には座っているのに内容が頭に入らない、いわゆる「お客さん状態」は、このズレが長く続いたときの自然な結果です。

この状態でよくある親の反応は、「もっと宿題をこなさせる」「授業の復習を増やす」です。ところが、土台が抜けたまま量だけ足すと、子どもは作業としてこなすだけになり、さらに分からなくなります。

この記事では、アルファベットクラスの下位で苦しむ小4〜小6の家庭に向けて、授業内容への未練を断ち切り、基礎トレとAテキストだけに絞る「撤退戦」の考え方と、今日から自分たちで動かせる手順をお伝えします。

SAPIXの偏差値30台とアルファベット下位が意味するもの

まず、数字の意味を整理します。SAPIXのクラスは、上位の「αクラス」(α1、α2、α3……)と、その下の「アルファベットクラス」(A、B、C……)に分かれます。校舎の在籍人数によって、αの数もアルファベットの最後の文字も変わります。1クラスはおよそ15〜20人の少人数だと言われています。

大事なのは、SAPIXの偏差値はSAPIX内の相対評価で、一般的な模試の偏差値より低めに出やすいと言われている点です。他塾の模試の偏差値とは単純に比べられません。「30台」と聞くと目の前が暗くなりますが、その数字だけで子どもの力や将来を決めつける必要はありません。

同じクラス名でも、校舎が違えば学力層が違う

クラス名は校舎の中での位置を示すもので、全国共通の物差しではありません。人数の多い校舎のBクラスと、小さな校舎のBクラスでは、周りの子の層が違います。ですから、まず見るべきは「校舎内で今どのあたりにいるか」と「点数の中身」です。

偏差値30台の子に起きていること

このタイプの子に共通するのは、点数が取れていないことそのものより、「授業の前提となる知識が穴だらけのまま、次の単元に進んでいる」ことです。たとえば小5の算数で、割合の前提になる分数・小数の計算や、単位の換算が不安定なまま「比と割合」に入ってしまうケースはよくあります。

この状態で授業を聞いても、先生の説明の半分は意味が取れません。だから、ノートは写しているのに、家で問題を開くと手が止まります。子どもが怠けているのではなく、構造上そうなっているのです。

「お客さん状態」を生む、塾の構造

SAPIXは、復習を軸にした学習法で知られています。授業ごとに「デイリーサピックス」「デイリーサポート」といった教材が配られ、その一部が宿題に設定されます。宿題の範囲は、直近のマンスリーテストと、数か月後の組分けテストの範囲に関わってきます。

また、αクラスとアルファベットクラスは、基本的に同じテキストを使い、使う範囲と宿題の量が違う、と説明されています。つまり、下位クラスでも教材の設計は「ある程度の理解力を前提とした」ものです。基礎固め向けの教材も用意されていますが、一定の理解力を前提とした内容なので、学力に余裕がない時期には難しく感じる、という指摘もあります。

週ごとに新しい単元が来る

授業は進みます。先週の単元が分からないまま、今週の新しい単元が始まります。家に持ち帰る宿題は、分かっていない単元の上に、さらに分からない単元が積み上がります。これが、「全部やらなければ」と思うほど子どもが沈む理由です。

組分けテストとマンスリーテストの二重の波

テストは定期的にあり、結果でクラスが入れ替わります。クラス落ちは特別なことではない、とも言われます。ただし、テストのたびに順位が見えるため、親は焦ります。焦った親が宿題の量を増やし、子どもはテストの点より「怒られないこと」を目標に動き始めます。ここまで来ると、授業は「出席するだけの時間」になります。

撤退戦の基本方針:何を捨て、何を残すか

撤退戦の目的は、塾をやめることではありません。塾に通い続けながら、家庭で何を最優先にするかを、はっきり決めることです。中途半端に全部を追うのが一番危ない。残すものを絞り、それ以外は意図して手放します。

教材・取り組み 扱い 理由
基礎トレ(基礎を固める練習) 最優先で残す 取れる問題を確実に取る力の土台になる
Aテキスト(基本が中心のテキスト) 残す。ただし基本問題から 理解の土台を作る範囲だけに絞る
応用・発展の問題、難度の高い設問 手放す 今の土台の上には乗らない
授業内容そのものへの完全な追従 手放す 全部を理解しようとすると全部が中途半端になる
宿題の全問制覇 手放す こなすこと自体が目的になりやすい

※教材の名称や範囲は、学年や年度によって変わることがあります。お子さんが実際に手にしている教材で、「基礎にあたるもの」と「基本が中心の部分」がどれかを、塾の先生に確認しておくと確実です。

手放すことは、諦めではない

「応用を捨てるなんて、中学受験をやめるのと同じでは」と感じるかもしれません。違います。入試は、全問正解を求める試験ではありません。入試は、基本から標準レベルの問題をどれだけ落とさないかが、得点の土台になります。志望校の出題傾向は、過去問で確認してください。

今の子にとって、応用問題に使う時間は、ほとんど得点につながっていません。その時間を基礎の定着に回すほうが、結果として得点に直結します。これは敗走ではなく、戦力を集中させるための撤退です。

「未練」を断ち切る具体的な線引き

未練は、「せっかく授業で扱ったのだから」「周りはやっているから」という気持ちで生まれます。そこで、線引きを事前に決めてしまいます。たとえば次のとおりです。

  • 家庭学習に使える時間の上限を、平日と休日で先に決める
  • 上限に達したら、残りの宿題が残っていても終わりにする
  • 基礎トレとAテキストが終わっていない日は、他の宿題に手をつけない
  • 授業の内容は「聞いて分かった範囲だけ」でよしとする

これを決めるのは親ですが、子どもにも一緒に伝えます。「今は、ここまでやれば十分」と言葉にしてもらえると、子どもは息ができるようになります。

基礎トレとAテキストに絞る、1週間の動かし方

では、具体的にどう動かすか。ここからが実行の部分です。1日の学習時間は家庭によって違うので、あくまで型として使ってください。

曜日 やること 目安
塾のある日 当日の授業の基礎トレだけ。帰宅後は見直し程度 30分前後
塾の翌日 前日分のAテキストの基本問題を解き直す 40分前後
平日の他の日 基礎トレの前週分を再度解く(間違えた問題だけ) 30分前後
休日 1週間で間違えた問題の総点検。できるまで繰り返す 60〜90分
予備日 何もしない、または疲れた日の調整 0分でも可

基礎トレは「時間を測って」解く

基礎トレは、量をこなすほど効果が出る、という性質の教材ではありません。大事なのは、解く速さと正確さです。毎回タイマーを使い、前回より速く、ミスなく解けたかだけを見ます。親が見るのは正答数ではなく、前回との比較です。

1回で全問解く必要もありません。間違えた問題に印をつけ、翌日にもう一度解きます。2回目で正解したものは終わり、まだ間違えるものは翌週にもう一度。この繰り返しで、取れる問題が確実に増えていきます。

Aテキストは「基本問題の型」を身につける場所

Aテキストでは、最初から最後まで全部解く必要はありません。各単元の最初の数問、つまり基本問題を完全に解けるようにします。解説を読み、同じ型の問題を自力で解けるかを確認します。

ここで大切なのは、答えが合っていたかより、「なぜその式になるのか」を子どもが自分の口で言えるかです。たとえば小5の割合なら、「もとにする量はどれか」を言えれば、数字が変わっても対応できます。言えないまま答えだけ写していると、テストで同じ型の問題が出たときに止まります。

テストの前は、新しいことをやらない

マンスリーテストや組分けテストの前に、焦って新しい問題を足すのは逆効果です。テスト前は、基礎トレとAテキストで一度間違えた問題の総復習だけにします。新しい問題を解いて間違えると、子どもの自信が削られます。テスト前日は、できた問題を確認して寝る、で十分です。

数字の見方を変える

偏差値だけを追うと、親子とも苦しくなります。撤退戦の間は、見る数字を3つに絞ります。

  • 基礎問題の正答率(落としてはいけない問題を取れたか)
  • 解き直しで正解に変わった問題の数
  • 宿題を決めた時間内に終えた日の数

偏差値はその結果としてついてくるものと割り切ります。数週間は上がらなくても、この3つが動いているなら、土台は積み上がっています。

親の声かけが「お客さん」を「参加者」に戻す

お客さん状態を抜けるには、授業中の態度を直すより、家庭での「できた」の数を増やすほうが近道です。子どもは、できる問題が増えると、授業で先生の話が耳に入るようになります。理解できる単語が増えるからです。

叱るのではなく、「減らした」と伝える

撤退を決めたとき、子どもに「あなたのために宿題を減らした」と伝えると、「できないから減らされた」と受け取る子もいます。言い方は、「やる内容を絞って、確実に取れる問題を増やそう」で十分です。減らしたのではなく、狙いを定めた、という説明にします。

間違いは「そこが伸びる場所」

間違えた問題を見つけるのは、悪いことではありません。次に正解に変わる問題を見つけた、ということです。間違いに○をつけ直す、解き直しの回数を記録するなど、目に見える形で進歩を残すと、子どもは自分の成長を実感できます。

兄弟や周りの子との比較を避ける

SAPIXは、周囲との相対評価が目に入りやすい塾です。クラス名や偏差値が、保護者同士の会話にも出ます。ただ、撤退戦の間は、他の子の話を家庭に持ち込まないほうがうまくいきます。比べるのは、昨日までのその子自身だけです。

それでも回らない家庭へ:最初に自分たちでやること、外に出す選択肢

まず、この記事で書いた手順を、2週間だけ自分たちで試してみてください。やることは3つです。

  1. お子さんの手元の教材から、基礎トレとAテキストの基本問題を決める
  2. 家庭学習の時間の上限を、親子で話して決める
  3. 週末に、その週の間違いを数えて、前の週と比べる

これだけでも、学習の「重さ」は変わってくるはずです。

ただ、現実には、この取捨選択を毎週続けるのが難しい家庭もあります。共働きで平日の確認ができない、きょうだいの世話で時間が取れない、親が教材の中身を把握しきれず、どこまでが基本問題か判断がつかない。そうした場合、教材の取捨選択や進み具合の確認を、家庭の外に出すという手もあります。親が全部を抱え込まないほうが、子どもへの声かけに余裕が出る家庭もあるからです。

まずは、自分たちで動かせる範囲を試し、そのうえで負担が大きすぎると感じたときの選択肢として、頭の片隅に置いておいてください。

※テキスト管理をプロに任せる場合の選び方はこちらの記事で解説しています