12月に入ると、SAPIXの小6は「あと何日」という空気に包まれ、下位層の子ほど「今から新しいことをやらなければ間に合わない」と感じてしまいます。けれど、直前期に成績を左右するのは、新しく手に入れた知識の量ではありません。すでに一度解いたことのある問題を、本番でもう一度落とさないかどうかです。この記事では、冬期講習と正月特訓の熱気に流されず、1月を「今まで間違えた基礎問題の解き直し」だけに使う戦い方を、具体的な手順と一緒にお伝えします。新しい問題には手を出しません。その決断が、いちばん得点に直結します。
冬期講習・正月特訓の熱気が下位層を削る理由
この時期の教室は、上位クラスの子たちの集中力と、「ここが最後の追い込み」という大人たちの空気でできています。講師の声も、配られるプリントの量も、1年のなかでいちばん熱を帯びています。
その中に、偏差値40台や下位クラスの子が入るとどうなるか。たとえば、こんなパターンがよくあります。
- 授業で出た難しい問題が解けず、「自分だけ取り残された」と感じる
- 家に帰ると、新しい解説プリントと宿題が山になっている
- 親も不安になり、「せめて宿題だけは全部」と夜遅くまで付き合う
- 肝心の基礎問題を見直す時間が、どこにも残らない
これは子どもの努力不足でも、親の管理不足でもありません。集団授業は、クラスの平均的な理解度を基準に進みます。直前期はその基準が「入試で戦える子」に合わせて引き上がるので、下位層ほど授業と自分の実力のあいだにすき間ができます。構造上、そうなりやすい時期なのです。
なお、冬期講習や正月特訓の日程・コマ数・料金・弁当の要否などは、年度や校舎で変わります。わたしが細かい数字を書くより、お手元の最新の案内を確認していただくのが確実です。この記事で大事にしたいのは、案内が何であれ変わらない「1月の時間の使い方」のほうです。
直前期に「新しい問題」を足してはいけない理由
結論から言うと、直前期の新規学習は、足した分の得点より、崩れる分のほうが大きくなりやすいからです。
数か月前に解けた問題が、解けなくなっている
中学受験の指導者や教育系の解説では、直前期に問題集へ手を広げるより、解いたことのある問題の解き直しのほうが効果的だという考え方が、広く共有されています。理由はシンプルで、数か月前に解けていた問題が、いつのまにか解けなくなっていることが多いからです。
下位層の子の場合、これはさらに顕著です。授業で一度「わかった」と感じた単元でも、定着する前に次の単元へ進んでいます。つまり、手元には「一度は解けたのに、今は不安定な問題」が山ほど眠っているのです。新しい問題を探しに行く前に、まずここを掘り起こすほうが、はるかに効率的です。
弱点ばかり見ると、本番の自信が削れる
日能研系の解説では、直前期に弱点の補強ばかりを続けると、「できていない」という悪いイメージを抱えたまま入試に向かうことになりかねない、という趣旨の指摘があります。そして、すでに解ける問題の完成度を上げるほうが、得点効率がよいとも述べられています。
わたしもこの考え方に賛成です。直前期の目的は、苦手を消すことではありません。取れる問題を、確実に取れる状態にすることです。苦手を全部つぶそうとして、全体の自信を落とすのがいちばんもったいない失い方です。
1月の勉強は「基礎の解き直し」だけに絞る
ここからが本題です。やることを、思い切って減らします。
解き直しの対象は3種類だけ
解き直す問題は、次の3つに限ります。
| 対象 | 例 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| 過去の授業・復習で間違えた基礎問題 | 計算、一行問題、基本の文章題、知識問題 | 一度でも×をつけたもの |
| 組分けテスト・復習テストの失点問題 | 取れたはずの問題、基本レベルの失点 | 正答率が高い問題の失点 |
| 志望校の過去問で落とした基本問題 | 誰もが取るべき小問 | 難問は対象外 |
逆に、解き直さないものも決めておきます。
- 正答率が低く、授業でも解説を聞いただけの難問
- 志望校で出た例がほとんどない特殊な単元
- 初めて見る応用問題や新しい塾外の問題集
「難問は捨てる」と言うと勇気がいります。でも、合格に必要な得点は、全問題を解くことではなく、取るべき問題を落とさないことで作られます。ここは覚悟を決める価値があります。
解き直しは「赤ペンで写す」のではなく「自力でもう一度解く」
解き直しの方法については、正答を赤ペンで書き写すのではなく、自分の力でもう一度解くことが大切だという指摘があります。写しただけでは、「見た」だけで、解ける状態にはなっていないからです。
具体的には、次の流れにします。
- 間違えた問題に、日付の入った印をつける
- 解答を隠して、ゼロから解き直す
- 解けたら◎、途中で詰まったら△、できなかったら×
- ×と△は、数日あけてもう一度解く
- 2回連続で解けたら、その問題は「卒業」
この「卒業」の仕組みが肝です。やることが減っていく感覚が、子どもの気持ちを支えます。新しい問題を足し続けると、永遠に終わりが見えません。
間違いノートは、作りすぎない
間違えた内容と短い解説を残しておくと、自分が何を理解できていないかを後から確認しやすくなる、という考え方があります。一方で、ノートに時間をかけすぎて、本来の勉強時間を削るのは本末転倒だという意見もあります。
直前期はこう割り切るのがおすすめです。ノートは新しく作らず、問題集やテキストに直接印をつけ、「卒業」したものにはチェックを入れます。清書に使う30分があるなら、その30分で1問でも多く自力で解き直すほうが、得点に近づきます。
教科別・1月の解き直しの進め方
教科ごとに、何をどう解き直すかを整理します。下位層の子は、教科ごとに「ここだけ取る」と決めたほうが気持ちも安定します。
算数:計算と一行問題の完成度がすべて
算数は、難問に時間を使うほど、基本問題の取りこぼしが増えます。1月は次の順に回します。
- 計算問題:毎日10分、同じ種類の計算を速く正確に
- 一行問題:過去に間違えたものだけ。新しい一行問題集は買わない
- 文章題の基本形:和差算、旅人算、割合の基本など、典型の型だけ
大問の後半に出てくる難しい問題は、手を出さないと決めます。大問1・2の小問群を確実に取る。それだけで、点数は思った以上に安定します。
国語:漢字・語句と、読めた文章の復習
国語は、新しい文章を大量に読むより、すでに読んだ文章の「なぜその答えになるか」を言葉にするほうが力になります。
- 漢字・語句・慣用句:間違えたものを繰り返す。これは確実に点になる
- 記述が白紙だった問題:模範解答を見て、使われている「材料」を線で引く
- 選択肢問題:×にした理由を一言で言えるようにする
記述が苦手な子は、自分で長く書けなくても大丈夫です。まず、問われていることに答える短い一文を作る練習から始めます。
理科・社会:知識の抜けを、短時間で何度も
理科・社会は、一度に長く取り組むより、短い時間を何度も重ねるほうが定着します。
- 間違えた用語・数値・語句だけを、1日15分でも毎日
- 正答率が高いのに落とした問題は、最優先で回収
- 歴史の年号や細かい人物名は、全部を覚えようとしない
「全部覚える」は目標にしません。落とした問題のうち、同じ失点を二度としないことが、直前期の現実的なゴールです。
1日・1週間のスケジュール例
実際にどう組むのか、イメージしやすいように例を表にします。講習に通う日と、通わない日で分けます。あくまで一例なので、お子さんの体力に合わせて削ってください。
| 時間帯 | 講習のある日 | 講習のない日 |
|---|---|---|
| 朝 | 計算10分+漢字10分 | 計算10分+漢字10分 |
| 午前 | 講習 | 算数の解き直し(60〜90分) |
| 午後 | 講習 | 国語・理社の解き直し(各30〜40分) |
| 夕方 | 軽い休憩、散歩 | 過去問の基本問題だけ(時間を区切る) |
| 夜 | 当日の講習で×だった基礎だけ解き直し | 翌日の準備、早めに就寝 |
大切なのは、講習のある日に「復習を完璧にやろう」としないことです。講習の宿題がすべてこなせない日があっても、構いません。取捨選択の基準は、いつも同じです。基礎問題の解き直しに使えるかどうか。使えないものは、後回しにするか、見送ります。
熱気の中で、子どもと親の心を守る
直前期は、勉強の内容より、気持ちの管理で崩れる子のほうが多いと感じます。
周りと比べない、を具体的な行動にする
「比べない」と言葉で言っても、教室にいれば比べてしまいます。だから、行動で距離を取ります。
- 帰り道に、他の子の進み具合を聞かない
- 掲示や配布物の順位表に、親も一緒になって一喜一憂しない
- SNSやママ友の情報は、冬期講習の期間だけ見る頻度を減らす
下位層の子が「自分はできない」と感じる原因の多くは、できないことそのものではなく、周りと並んだときの落差です。その落差を目にする回数を減らすだけで、気持ちは変わります。
親が言う言葉を、3つに絞る
直前期の親の声かけは、増やすほど子どもを追い込みます。わたしがおすすめするのは、次の3つだけです。
- 「今日は何を解き直した?」
- 「ここ、解けるようになったね」
- 「今日はここまでで十分だよ」
「どうして間違えたの」「なんでこんな問題ができないの」という質問は、親が不安なほど出てきます。気持ちはよくわかります。ただ、それを口に出す前に、深呼吸を1回はさんでみてください。
睡眠と体調は、勉強時間より優先する
冬の直前期は、風邪やインフルエンザが流行る時期でもあります。睡眠が削られると、昼間の解き直しの精度が目に見えて落ちます。夜の勉強は、遅くとも決めた時刻で打ち切り、翌朝に回してください。
1月の最後に、過去問を「解き直す」
志望校の過去問は、年明けには一度は解いている家庭が多いと思います。ここでも、新しい年度に手を出すより、数か月前に解いた年度をもう一度解くことが、自信につながるという指摘があります。合格最低ラインを超えていれば、解き直しがしっかりできている証拠になるからです。
過去問で見るのは「点数」ではなく「落とし方」
過去問を解いたら、点数より先に、失点を3種類に分けます。
| 失点の種類 | 例 | 対応 |
|---|---|---|
| 取るべきだった問題 | 計算ミス、知識の抜け | 最優先で解き直す |
| 時間があれば取れた問題 | 途中まで合っていた | 同じ型を数問だけ復習 |
| 今の実力では厳しい問題 | 難問、見たことのない設問 | 手をつけない |
1つ目だけを、徹底的につぶします。2つ目は時間が余ったときだけ。3つ目は、見ないふりをして構いません。この線引きが、直前期の勉強を軽くします。
当日の持ち物と気持ちの準備に時間を使う
入試が近づいたら、解き直しの量より、本番に合わせた生活リズムのほうが大事になります。起きる時間、食事、筆記用具の確認。ここに少し時間を割くだけで、当日の落ち着きが違います。
最後に:まず自分たちでここまでやってみる
ここまでの内容を、今日から始められる最小の形にまとめます。
- 12月のうちに、間違えた基礎問題に印をつけて、解き直しの対象を決める
- 解き直さない問題(難問・特殊な単元)を、親子で声に出して決める
- 1日の解き直しの時間枠を、算数・国語・理社で分けて紙に書く
- 解けた問題には「卒業」のチェックをつけ、減っていくのを見える化する
- 週に一度、残った×の数を数えて、増えていないか確認する
まずはこの5つを、1週間だけ試してみてください。それだけで、冬期講習の熱気の中でも、自分たちの軸が持てるようになります。
それでも、仕事や家事の合間に「どれが基礎問題で、どれが難問か」を毎日判断し続けるのは、想像以上に重い作業です。テキストが山のようにあるこの時期は、とくにそうです。続けられないと感じたときは、問題の取捨選択や進み具合の確認といった管理の一部を、外に任せる選択肢もあります。全部を親が抱え込まなくても、直前期は乗り切れます。
※テキスト管理をプロに任せる場合の選び方はこちらの記事で解説しています





