「十円札(芥川龍之介)」の超あらすじ(ネタバレあり)

芥川龍之介の「十円札」は、英語教師であり作家でもある堀川保吉が、貧しい生活に苦しみながらも自尊心を保とうとする物語です。

ある日、ポケットに六十何銭しかない彼は、友人との食事を諦めざるを得なくなりますが、海軍学校の教官・粟野廉太郎との出会いが彼の運命を少し変えるきっかけとなります。粟野から贈られた十円札が象徴する友情と保吉の内面的な葛藤が、物語の中心に据えられています。

この作品は、貧しさとプライドの狭間で揺れる保吉の心の動きを細やかに描いた物語であり、彼がどうやって自らの尊厳を守ろうとするかが見どころです。

この記事のポイント
  • 主人公・堀川保吉の貧しい生活
  • 保吉と粟野廉太郎の関係
  • 十円札が持つ象徴的な意味
  • 保吉が抱える内面の葛藤
  • 結末における保吉の決断

「十円札(芥川龍之介)」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章: 六十何銭の憂鬱

堀川保吉は、初夏のある曇った朝、駅のプラットフォームでポケットに六十何銭しかないことに不満を抱いていました。保吉は英語教師として月額六十円を得ていましたが、小説の執筆で得る原稿料はごくわずか。さらに、生活欲を抑えきれず、頻繁に東京に足を運んでいました。そんな贅沢な生活により、彼は借金を重ね、質入れするものも尽きてしまいました。

保吉は翌日の日曜日、東京で友人たちと晩飯をともにする予定を諦め、憂鬱を紛らすためにタバコを買おうとします。しかし、物売りの態度にいら立ち、結局タバコを買うことなく立ち去ります。それでも、物売りを一蹴したことで少しの満足感を得て、ポケットのわずかな銭のことも忘れてしまいました。

彼は、ナポレオンがワグラムの一戦で大勝したような気分になり、誇らしげに歩き続けました。この時点で彼の憂鬱は一瞬だけ和らぎましたが、根本的な問題は解決していませんでした。

第2章: 粟野との会話

その後、保吉は海軍学校の教官であり、語学の天才と称される粟野廉太郎に出会います。保吉は粟野に対して強い尊敬の念を抱いており、粟野が彼に語りかけると、自然と礼儀正しく対応しました。粟野との会話で、彼は自分が東京に行けないほどの貧乏であることを打ち明けました。

粟野は、「それは大変ですね」と同情を示し、保吉の原稿料がいかに安いかを熱心に聞いていました。保吉も、あたかも自分の苦労話を誇張し、話し込んでしまいました。いつの間にか、二人が歩いていた場所は荒々しい町並みへと変わっていきました。

保吉は話をしながら、自分が置かれた貧しい状況に感傷的になっていきます。そして、とうとう自分がポケットに六十何銭しかないことを告白してしまうのでした。

第3章: 十円札の贈り物

保吉が学校の教官室で教科書の調査をしていると、ふと巻きタバコを買い忘れたことに気づき、またもや六十何銭しか持っていないことを思い出します。その時、粟野が保吉にそっと四つ折りの十円札を差し出し、「東京行きの汽車賃に使ってください」と言いました。

保吉は最初は戸惑い、借金をすることに躊躇しましたが、次第にその好意を無下にしてしまったことを気にするようになります。悩んだ末、結局保吉は粟野からの借金を受け入れる決心をします。教官室での沈黙の中、自分の行動と粟野の好意について考えを巡らせます。

最終的に、保吉は粟野の親切心に感謝し、その十円札をしばらく大切に保管しようと心に決めました。

第4章: ヤスケニシヨウカ

日曜日、保吉は汽車に乗り、翌日には十円札を返すつもりで使わずに持ち続ける決意をしていました。粟野に対して社会人としての威厳を保ちたいという思いが、借金を返さねばならないという強い義務感に変わっていきます。

汽車の中で、保吉は雑誌社からの原稿依頼を思い出し、印税でなんとか借金を返す計画を立てます。自分の頭の中で、経済的な不安を抱えながらも、何とかなるだろうと安堵しました。

その夜、保吉は粟野からの十円札に「ヤスケニシヨウカ」という落書きを見つけ、粟野への感謝と、十円札を眺めながらもう一度思いを巡らせるのでした。

「十円札(芥川龍之介)」の感想・レビュー

「十円札」は、主人公・堀川保吉の心の葛藤と、それに対する周囲の人々との関わりを通じて、貧しさとプライドの狭間で揺れる人間の姿を繊細に描いた作品です。保吉は、英語教師として働きながらも贅沢な生活を送ろうとするため、常に経済的に苦しんでいます。彼の生活には不安がつきまとい、六十何銭しかないという現実が彼の心に重くのしかかります。しかし、この物語の真の魅力は、保吉がどのようにしてその困難に対処しようとするかにあります。

物語の中で保吉が最も強く感じるのは、彼の尊敬する粟野廉太郎との関係です。粟野は語学の天才であり、保吉にとっては憧れの存在です。しかし、保吉は粟野に対して自分の弱さを見せたくないという思いが強く、そのために借金をすることに対して強い葛藤を抱きます。粟野がさりげなく十円札を差し出す場面は、友情と好意が込められた心温まる瞬間ですが、同時に保吉にとっては自尊心との戦いでもありました。

この作品は、金銭的な苦労が描かれていますが、それ以上に人間関係の中での「威厳」や「プライド」といったテーマが重要です。保吉は貧乏ながらも、粟野に対しては自分を立派に見せたいと考え、最終的には借金を受け入れる決意をします。この過程で彼が見せる心の動きは、読者に深い共感を呼び起こすでしょう。

また、物語の終盤で保吉が見つけた「ヤスケニシヨウカ」という十円札の落書きが象徴的です。彼がこの小さな落書きを見つけた時、単なる金銭のやり取りではなく、そこに粟野との友情や信頼が宿っていることに気づきます。この瞬間、保吉の心に少しの安堵が訪れるのです。

「十円札」は、金銭的な問題に直面する人々の苦悩と、それをどう乗り越えていくかという普遍的なテーマを描いた作品です。

まとめ:「十円札(芥川龍之介)」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 保吉は英語教師で月収六十円である
  • 保吉は贅沢な生活で借金を抱えている
  • プラットフォームで六十何銭しかないことに不満を抱く
  • タバコを買おうとして物売りとトラブルになる
  • 粟野廉太郎に尊敬の念を抱いている
  • 保吉は粟野に貧しいことを打ち明ける
  • 粟野が十円札を差し出すが最初は断る
  • 保吉は悩んだ末に借金を受け入れる
  • 保吉は十円札を使わずに返す決意をする
  • 十円札には「ヤスケニシヨウカ」という落書きがある