「赤い砂を蹴る」の超あらすじ(ネタバレあり)

「赤い砂を蹴る」は、母を亡くした主人公・千夏が、母の友人である芽衣子さんと共にブラジルを訪れ、芽衣子さんの家族が開拓した香月農場を目指す物語です。

旅の途中で、千夏は母や亡き弟との過去を振り返り、芽衣子さんもまた、アルコール依存症だった夫との思い出や家族との絆に向き合います。物語は、過去の悲しみや苦しみを受け入れ、生と死を肯定して新たに生きる決意を描いた感動的な作品です。

ネタバレを含む詳細なあらすじを知りたい方におすすめです。

この記事のポイント
  • 「赤い砂を蹴る」の主要なストーリーライン
  • 主人公・千夏の旅と心の変化
  • 芽衣子さんの家族や夫との過去
  • 生と死を受け入れるテーマ
  • あらすじの詳細とネタバレの有無

「赤い砂を蹴る」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章: ブラジルへの旅路

千夏は、母の友人である芽衣子さんと一緒にブラジルに来ました。サンパウロの空港からバスに乗り、九時間もかけて香月農場を目指します。この農場は、芽衣子さんの家族が何世代も前に開拓した場所で、芽衣子さんにとっては特別な場所です。

千夏の母は画家で、美大で教鞭をとっていましたが、二年前に肺癌で亡くなりました。千夏には父の違う弟、大輝がいましたが、彼は幼い頃にお風呂で亡くなってしまいました。この出来事は千夏と母にとって大きな悲しみをもたらしました。その後、千夏と母は二人で暮らしてきたのです。

芽衣子さんは、もともと日系ブラジル人で、二十歳のときに日本に来て、雅尚という男性と結婚しました。日本で四十年も暮らしてきましたが、雅尚は後にアルコール依存症となり、芽衣子さんに暴力を振るうようになり、最終的には亡くなりました。芽衣子さんは日本に帰化しようと考えており、そのために一度ブラジルに戻って必要な書類を作成する必要があったのです。

芽衣子さんは以前、千夏の母をブラジルに誘っていましたが、母が亡くなった今、その誘いを千夏にしたのです。千夏はその誘いを受け、ブラジルに来ることにしました。

香月農場は、芽衣子さんの親の代で日本人たちが入植して開拓した農場です。芽衣子さんは七人兄姉の末っ子ですが、実は彼女は次女が産んだ私生児でした。それを祖父母が自分たちの子どもとして育てたのです。

第2章: 過去の回想

ブラジルに着いた千夏と芽衣子さんは、香月農場のゲストハウスに宿泊します。そこで二人で寝ながら、千夏は今年の春、もし母が生きていたなら七十歳になっていたことを思い出します。その誕生日を、千夏は芽衣子さんと一緒に祝ったのでした。

さらに千夏は、弟の大輝が亡くなってから母と距離を置くようになったことを思い出します。大学三年生の頃、母が湯川という小説家の男性を同居させたことで、千夏は家を出ることにしました。湯川は生活がだらしなく、母も彼を追い出すことになりましたが、それは芽衣子さんの助言があったからです。

また、母が闘病中に芽衣子さんに頼んだことを千夏は思い出します。母は「自分の死後、千夏の父が近づいてくるかもしれないから、気をつけてほしい」と頼んでいました。実際に母の死後、千夏の父から香典が送られてきましたが、千夏はそれを受け取ることを拒否しました。

千夏はまた、大輝の父との記憶もよみがえります。大輝が亡くなった後、母は千夏を連れて彼を訪ねました。千夏が中学一年生の夏のことでした。ある夜、大輝の父が忍び寄ってきて、千夏のパジャマを脱がせようとしましたが、千夏はすぐに逃れました。

第3章: 現地での出来事

ブラジルでの滞在が続く中、芽衣子さんは三女のエツコさんに書類の記入を頼みます。エツコさんは面倒だと文句を言いますが、最終的に手伝ってくれました。芽衣子さんは出生証明書を取るために、エツコさんの夫と一緒に役場に行きました。幸いにも、滞在期間中に証明書が手に入る見込みが立ちました。

エツコさんは、芽衣子さんが帰化しようとしている気持ちを理解しています。芽衣子さんは日本に四十年も住み、子や孫も日本にいるからです。その後、芽衣子さんの背中の痛みを和らげるために、エツコさんは彼女を占い師のところに連れていきます。

道中、二人は香月農場から派生した明生農場に立ち寄り、ザボンを収穫します。エツコさんとの会話の中で、香月農場を開拓した祖父、香月功の話題が出ます。香月功は昔ながらの強い性格の男性で、周囲を力で支配するような人でした。彼は料亭で火事に遭い、亡くなったのですが、そのときは彼の悪口を言う人も少なからずいたようです。

第4章: 人生の終末と死の受容

占い師に診てもらった芽衣子さんは、亡くなった義母と夫の霊が背中に乗っており、「生前悪いことをした」と謝っているという話を聞きます。占い師が芽衣子さんの背中をさすると、まるで煙が立ち昇ったかのように感じられました。

その後、香月農場に戻ったとき、長男で農場の現代表であるヨウイチが交通事故で亡くなったという知らせが入りました。皆がショックを受ける中でも、二十四時間以内に葬儀を行わなければならないため、全員が忙しく動き回ります。

その夜、停電が起き、農場の外に出ると星空が美しく輝いていました。その間に、千夏は昔の出来事を思い出します。弟の大輝が死にかけたとき、千夏は人工呼吸を試みましたが、知識が間違っていたために効果がなく、大輝は亡くなりました。千夏の母が、妻子のある男性との間に大輝を産み、女手一つで育てたことが、大輝の死の原因であると非難されたことも思い出されます。

そして母が癌になり、容態が急変して亡くなった日のことも、千夏の記憶に強く残っています。

第5章: 生と死を超えて

千夏は、母が亡くなったときのことを思い返します。母の容態が急に悪化し、医者からは「あと一、二週間の命だ」と言われましたが、実際にはその三日後に母は亡くなりました。亡くなる前夜、看護師から「帰らない方がいい」と言われたため、千夏は付き添いました。芽衣子さんもその場にいて、母は最後に千夏に「自分は好きなように生きたから、あなたも自分の人生を好きに生きなさい」と伝えたように思います。

千夏は、母の死を否定するのではなく、受け入れて自分自身を肯定して生きていこうと決意します。一方で、香月農場では、ヨウイチの葬儀が無事に行われました。

芽衣子さんは、夫の雅尚や義母の思い出を千夏に語ります。雅尚は最後の頃こそアルコール依存症に苦しみましたが、彼が若い頃、バックパッカーとして農場に来たときの思い出が鮮明に蘇ります。結婚生活には辛いこともたくさんありましたが、芽衣子さんは「彼が生きていれば、ブラジルに一緒に来られたのに」と初めて自分の本当の気持ちに気づきます。

芽衣子さんもまた、夫や義母の死を受け入れ、全てを肯定して生きていこうと決意します。物語は、香月農場に久しぶりの雨が降り、すべてを新たにするかのように幕を閉じます。

「赤い砂を蹴る」の感想・レビュー

「赤い砂を蹴る」は、千夏という主人公が母の死を乗り越え、人生を再び歩み出すまでの過程を描いた感動的な物語です。千夏は、母の友人である芽衣子さんと一緒にブラジルを訪れますが、この旅が彼女にとって心の癒しと成長のきっかけになります。

物語は、千夏の過去の記憶や、弟・大輝の死、母との関係に焦点を当てています。母が肺癌で亡くなった後も、千夏は心の中に母との思い出を抱え続けています。しかし、この旅を通じて、彼女は母の死を悲しみだけでなく、母が生前に示した愛情や教えとして受け入れていくようになります。

一方で、芽衣子さんの過去も重層的に描かれています。芽衣子さんは、アルコール依存症だった夫・雅尚との辛い思い出を抱えながらも、彼との幸せだった日々を忘れずにいます。彼女が夫を愛し続け、ブラジルに一緒に来たかったという気持ちに気づくシーンは、非常に心に響きました。

物語全体を通して、過去を否定せず、すべてを受け入れることで新たな一歩を踏み出す姿勢が強調されています。千夏と芽衣子さんが、それぞれの過去を抱えながらも、前向きに生きる決意を固める様子は、読者に勇気を与えるでしょう。

最後に、香月農場に降る雨のシーンは、過去の悲しみを洗い流し、二人に新しい始まりを告げる象徴的な場面として非常に印象的です。この物語は、生と死、そして愛と失うことについて深く考えさせられる作品です。読後には、心が温かくなると同時に、自分の人生についても見つめ直す機会を与えてくれます。

まとめ:「赤い砂を蹴る」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 主人公・千夏の母の死が物語の出発点である
  • 千夏は母の友人・芽衣子とブラジルを訪れる
  • 旅の目的は香月農場を訪れることである
  • 千夏は旅の中で母や弟の過去を回想する
  • 芽衣子はアルコール依存症の夫との思い出に向き合う
  • 物語の舞台は香月農場とその周辺で展開される
  • 香月農場は芽衣子の家族が開拓した農場である
  • 生と死の受容が物語の中心テーマである
  • 千夏と芽衣子がそれぞれ過去を受け入れる姿が描かれる
  • 物語は雨が降る象徴的なシーンで締めくくられる