
小説「本日は、お日柄もよく」のあらすじをネタバレ込みで紹介!ガチ感想も!
原田マハさんによるこの作品は、スピーチライターという仕事を軸に、言葉の力が人間模様をどう揺さぶり、どう変えていくのかが描かれた物語です。平凡なOLが、天才的な“言葉のプロ”との出会いをきっかけに、人生の大転換を体験していくストーリー展開が魅力的なんです。
しかも政治の世界にまで飛び込むことになるので、会社勤めの苦労や恋愛模様だけでなく、国政を左右する駆け引きまで味わえるという多層構造。最初は「自分には関係ないかも…」と感じても、読み進めるうちに知らず知らずのうちに引き込まれ、終盤では登場人物の心情に深く共感してしまう、そんな力を秘めた一冊だと思います。
読後には「言葉でこんなに世界が変わるなんて!」と驚かされるはず。ときにクスッとなる場面も挟みながら、あたたかさと熱量に満ちた物語を味わってみませんか?
小説「本日は、お日柄もよく」のあらすじ
物語は、平凡なOL・二ノ宮こと葉が幼なじみの結婚式に出席する場面から始まります。どうにも浮かない気分での参列だった彼女ですが、そこで伝説的なスピーチライター・久遠久美と出会うんです。式の祝辞を任された久美は、会場の空気を一変させるほどの巧みな言葉選びで、祝福ムードを最高潮にまで盛り上げます。初めて触れる言葉の魔力に、こと葉は心を奪われてしまうんですね。
その衝撃的な体験をきっかけに、こと葉は久美の下で“言葉を紡ぐ技術”を学ぶことになります。当初は「本当に自分なんかにできるの?」という不安を抱えながらも、地道な努力と久美の指導を受けて、結婚披露宴などでのスピーチ原稿づくりに関わるようになっていくんです。彼女にとっては初めての挑戦でしたが、言葉が人を動かす瞬間を目の当たりにするたびに、自分の可能性を知る大切さを学んでいきます。
そして物語は、政治の領域にまで発展していきます。実は久美は政界をも巻き込むほどの実力者であり、こと葉は彼女の仕事を手伝ううちに、選挙や議会に関わるスピーチにも携わることに。幼なじみである今川厚志の政治家としての道も交錯し、こと葉は“あまりに大きい舞台”への戸惑いと責任感に揺れることになります。会社員とスピーチライター見習い、その掛け持ちの苦労もなかなか壮絶です。
しかし、言葉を磨き上げる過程で自分自身をも見つめ直し、こと葉はいつしか「自分が本当にやりたいことは何なのか」という核心にたどり着きます。作中では結婚式やお葬式、政見演説など、多彩な場面に出てくる言葉の数々が印象的です。あくまで“言葉で人の心を動かす”という一点を軸に、登場人物たちの人生が鮮やかに交差していく様子が見どころ。最後には大きな決断が下され、新しい未来へと進む瞬間が描かれます。
小説「本日は、お日柄もよく」のガチ感想
ここからは、作品全体を読んだうえで感じた率直な思いをたっぷり綴っていきます。ストーリーの大筋や結末に触れる部分も多いので、未読の方はご注意くださいね。
まず、この作品の大きな魅力のひとつは「言葉への向き合い方」が徹底して掘り下げられているところだと思います。日常生活において私たちは、自分の想いを言葉にして伝えようとしますよね。でも、その言葉は相手にどれほど届いているのか、そして相手を動かす力があるのかを、意外と深く考えたことがない人も多いのではないでしょうか。この小説では、スピーチライターの久遠久美や、見習いとして奮闘すること葉を通して、言葉が持つ力を実感させてくれるんです。
特に、物語序盤で描かれる結婚式の祝辞がとにかく印象的でした。あのシーンでは、式の雰囲気が一変するほどの強烈なインパクトをもたらすスピーチが登場します。実は結婚披露宴って「形式的にこなすイベント」として流れてしまうことも多いのに、久美の言葉は新郎新婦とゲストの心をあっという間につかんでしまう。その瞬間に巻き起こる感動や、心をわしづかみにされたような衝撃は、文字面だけの情報なのに不思議とこちらまで胸が熱くなってくるんです。「言葉の使い方ひとつで、こんなにも人の心は動くのか…」と驚かされました。
そして、そのスピーチの在り方を本格的に学び始めること葉の姿は、読んでいて素直に応援したくなります。彼女はもともと“ごく普通のOL”として生活していて、出世欲もあまりなく、むしろ安定志向だったように描かれています。でも、久美の目に留まり才能を見出されたことで、思いも寄らなかった世界へ足を踏み入れることになっていく。ここで描かれるのは、「自分が想像しなかった未来との遭遇」や「未知の才能への目覚め」という、胸躍るドラマです。
中盤以降は、こと葉がスピーチライターとしてだけでなく、政治の世界にも巻き込まれていく展開が目を引きます。幼なじみの厚志が出馬する選挙活動に協力する流れで、彼女は単なる“応援団”ではなく“言葉を提供する側”として関わるわけですよね。選挙の演説となると、一文字違うだけでも有権者の印象がガラリと変わる。政党同士の駆け引きが生々しく描かれる一方、こと葉はあくまで「伝えたい思いを言葉にする」ことに情熱を注いでいきます。対立候補陣営の動向にもハラハラさせられますが、彼女や久美、そして周囲の人々が作り上げていく“メッセージ”がどこまで人々の心に届くのか、その過程がスリリングなんです。
特に印象に残るのは、厚志の家庭事情や、彼が背負っていた父の存在。政治家の家系だからこそのしがらみやプレッシャーがあり、時にはそこを突かれて苦悩を深める場面も出てきます。こういった背景が物語に厚みを与え、読者であるこちらも「ああ、政治家というのは華やかだけじゃない苦労も山積みなんだな」と実感するんですね。その一方で、厚志自身が弱さもさらけ出しながら成長していく姿に共感し、応援したくなる気持ちを自然と抱かせてくれるところが巧みだと思います。
さらに、本書で密かに大きな役割を果たすのが「祖母・二ノ宮キク代」という存在です。俳人として名を馳せた彼女が、こと葉を陰ながら見守りながら、時には力強い言葉で背中を押す。その言葉の底にある人生経験の重みと、「人に寄り添うあたたかさ」が相まって、読む側の胸にじわっと染みてくるんです。作中では決して長々と活躍するキャラではありませんが、キク代が放つひと言がこと葉の気持ちを支え、転機をもたらす場面が多いのも特徴的です。
終盤、こと葉たちが関わる政局はクライマックスに向けて混迷を深めていきます。ときには“政治って結局汚いものなのでは”と嫌気がさしそうな場面も出てきますが、それでも彼女は言葉を尽くして人の思いに寄り添おうとします。ここにこそ、原田マハさんの作品らしい「人間への希望」があるように思えるんですね。読み終えたとき、私自身は「言葉が未来を変える可能性って本当にあるんだな」と実感して、不思議なエネルギーをもらいました。何か新しいチャレンジをしてみたくなるような、そんな読後感とでもいうのでしょうか。
また、ラストシーンに至るまでには、お仕事小説のような高揚感と、人間ドラマとしての熱さが融合していて、最後まで退屈しません。大切な人を思う気持ちや、自分の進むべき道を信じ抜く勇気も、読み手にしっかりと伝わってくるはず。結末そのものは意外にも爽快感があって、「人生何があるかわからないな」という小気味いい驚きを味わえるんです。政治やスピーチといった題材に興味がない人でも、いつの間にかぐいぐい引き込まれる展開が魅力ですね。
個人的には、「スピーチライター」という仕事そのものにも注目してほしいです。普段の生活では縁遠い職業だと思われるかもしれませんが、「大切なメッセージを必要としている人」のそばで言葉を紡ぐ姿勢は、意外とどんな仕事にも通じる部分があるんじゃないかな、と考えさせられました。人と向き合うとき、ただ事務的に言葉を選ぶのではなく、相手が何を求めているかを深く想像し、その心を動かすフレーズを見つける――そのプロセスは、たとえばプレゼンや営業トークなど、私たちの身近なシーンでも応用できそうですよね。
そうした「発見」が随所に盛り込まれているため、ただの“熱い青春ストーリー”にとどまらず、「実用的な学びすらある小説」として読み応えがあるのも本書のいいところ。原田マハさんというとアート系の作品が目立つ作家さんというイメージがあるかもしれませんが、こんな形で政治やスピーチというテーマに切り込む作品も書かれるんだなあと、新鮮な驚きがありました。筆致は柔らかいのに、テーマはしっかりと芯が通っているという絶妙さを感じます。
また、読み手によっては「こんなに上手くいくものかな?」と突っ込みたくなる場面もあるかもしれません。でもそこは小説としての“気持ちよさ”を優先した展開が多く、読後に嫌な後味が残ることはありません。むしろ登場人物たちの奮闘ぶりを最後まで楽しく見届けたあとは、ほっと温かい気持ちになって本を閉じることができるはず。だからこそ、読み物として純粋に楽しめる一冊だと言えます。
この作品は「言葉の力」「人との繋がり」「未来を切り開く勇気」といったテーマがぎゅっと詰まっています。結婚式のスピーチから政治家の演説まで、いろんな場面で言葉が使われるたびに、私たちの心を大きく揺さぶってくれるんです。もしも読後に「自分も少しでも人を励ます言葉を届けたいな」と思えたら、それこそがこの小説のエッセンスをつかんだ証拠かもしれません。
まとめ
ここまで「本日は、お日柄もよく」の魅力を語ってきましたが、やはり一番の見どころは「言葉が運ぶドラマ」です。
単なる恋愛小説やお仕事小説にとどまらず、政治の世界まで巻き込んだスケールの大きい展開が用意されながらも、どこか身近さを感じられるのが不思議なところ。平凡だったはずのOL・こと葉が、伝説的なスピーチライターと出会い、その才能を開花させる過程には、人生を変えるきっかけがどこに転がっているかわからない面白さが詰まっています。読みやすい文章とテンポの良さで、思わずページをめくる手が止まらなくなる一冊です。
読後には言葉の大切さや、人の心を動かす喜びを再認識し、自分自身の可能性に目を向けたくなるかもしれません。誰かの背中をそっと押してくれる、そんな魅力あふれる作品だと思います。