「鼻に挟み撃ち」の超あらすじ(ネタバレあり)

この記事では、「鼻に挟み撃ち」のあらすじを詳しくネタバレ解説します。

高度経済成長期の日本で、貧しさを美徳とする家庭に育った主人公が、ゴーゴリの短編「鼻」に影響を受けて物語の世界に引き込まれます。文芸家・後藤明生との出会いから始まり、舞台出演の恐怖や心の病との向き合い方、そして社会に対する訴えまでを描いた物語です。

それぞれの章で、主人公の成長と葛藤が描かれています。

この記事のポイント
  • 「鼻に挟み撃ち」のあらすじと主要な内容
  • 主人公が「鼻」に影響を受けた経緯
  • 文芸家・後藤明生との出会いと影響
  • 舞台出演時の恐怖や心の病との向き合い方
  • 社会に対する主人公の訴えや行動

「鼻に挟み撃ち」の超あらすじ(ネタバレあり)

1965年頃の東京、押上に住むわたしの家族は、決して裕福ではありませんでした。父・田中隆一は、左翼系政党である日本社会党の職員として働いており、貧しさを美徳と考えていました。母・田中光子は、毎朝トースターで焼いた1枚の食パンを用意し、それがわたしと弟の朝食でした。たまに、ベーコンや目玉焼きがつくこともありましたが、それは特別な日だけでした。

そんなある日、わたしはロシアの文豪、ニコライ・ゴーゴリが書いた短編小説「鼻」に出会いました。この物語の舞台はロシアのペテルブルクで、登場人物のイワン・ヤーコウレヴィッチという理髪店の男が、朝食のパンの中から切断された人間の鼻を見つけるという不思議な話です。この物語にすっかり夢中になり、わたしは母の焼いたトーストを食べることができなくなってしまいました。

その後、自分でも物語を書いてみたいという強い思いに駆られました。そして、ついに初めての本を出版することができました。しばらくして、わたしのもとに日本文芸家協会から1枚のはがきが届きました。このはがきには、「後藤明生」という名前と電話番号が記されていました。わたしは、この名前に強く惹かれ、勇気を出して電話をかけることにしました。

後藤明生さんは、日本文芸家協会に所属する作家で、その作品は内向的でありながら非常に深い内容を持っていました。彼の代表作の一つである「ハサミウチ」は、1945年8月15日、終戦の日を朝鮮半島の永興で迎えることになった中学生・赤木の物語です。この作品では、戦争と戦後民主主義という二つの大きなテーマに挟まれた赤木の苦悩が描かれています。

わたしは、最初はこの作品を理解できると思っていましたが、読み進めるうちに、その深さに圧倒され、自分がまだまだ未熟であることを痛感しました。後藤さんとの対話を通じて、彼の文学に対する姿勢や考え方に強く影響を受けました。特に、「小説家は常に門外漢であれ」という言葉は、わたしの心に深く刻まれました。後藤さんは、文学に対して非常に真摯で、独自の視点を持っている作家でした。

わたしは、学生時代からお笑いコントをやっており、そのメンバーの中でも特に大竹正義という友人が中心的な存在でした。大竹は毎年、自分が主催する舞台に出演するメンバーを集めており、今回もわたしに声をかけてくれました。わたしは、小説家としての活動を続けながらも、大竹の誘いに応じることにしました。

しかし、舞台の本番が近づくにつれて、わたしの心拍数は異常に高まり、劇場へ向かう電車の中でも汗が止まらなくなりました。わたしは、実は神経症を患っており、医師からパニック障害と診断されていました。人前に出ることがとても怖かったのです。その不安を大竹に打ち明けると、大竹は「やれるところまででいい」と優しく励ましてくれました。

わたしは、舞台のリハーサルでも不安に苛まれ、掛け布団の中に潜り込んでセリフの読み合わせをするほどでした。最終的には、強い安定剤の力を借りて、何とか公演をやり遂げることができました。大竹の言葉と、彼の支えがあったからこそ、わたしはこの困難を乗り越えることができたのです。

大竹の舞台で大役を務めたわたしは、心の病と共存する方法を学びました。わたしの心の病は、時折再発することがありましたが、舞台を通じて得た経験から、自分の限界を理解し、それを受け入れることができるようになりました。

わたしは、無理をせず、自分のペースで日々を過ごすことが大切だと感じるようになりました。後藤明生さんや大竹正義さんといった人々との出会いと、彼らから受けた影響が、わたしの人生にとって大きな支えとなりました。彼らの言葉や行動が、わたしを前向きにし、心の病と向き合う勇気を与えてくれたのです。

2013年4月27日、日曜日の夕方、わたしはお茶の水駅近くの聖橋のたもとで演説を行うことにしました。この場所を選んだのは、下を流れる隅田川が、ニコライ・ゴーゴリの「鼻」で描かれたネヴァ川に似ていたからです。

この10年間、世界はウイルスや環境問題に直面し、人々はマスクを手放せなくなってしまいました。わたしの演説も、そうした社会の現状に対する訴えでした。わたしの話に賛同してくれる人が少しずつ増え、最終的には横断歩道まで人が溢れかえるほどになりました。

しかし、事前に集会やデモの申請をしていなかったため、警察が介入し、わたしは道路交通法違反で拘束される可能性がありました。赤いランプをつけた装甲車がゆっくりと近づいてくる中、わたしはマスクの上から自分の鼻が無事かどうか、恐る恐る確認しました。この瞬間、わたしは自分が物語の中にいるかのような感覚を覚えました。

「鼻に挟み撃ち」の感想・レビュー

「鼻に挟み撃ち」を読んで、まず感じたのは、主人公が成長していく過程が非常にリアルで共感できる点です。高度経済成長期の日本、特に昭和40年代の社会背景が細かく描かれており、その中で育った主人公が、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリの短編「鼻」に出会い、物語の世界に引き込まれる様子がとても印象的でした。

主人公が文学に興味を持ち、自ら物語を書くようになるきっかけが描かれている点も興味深かったです。特に、日本文芸家協会から届いたはがきに記された後藤明生という作家との出会いが、彼の人生に大きな影響を与える描写は、文学の力と人とのつながりの重要性を強く感じさせました。

後藤明生の作品「ハサミウチ」を読んだ主人公が、その深さと難しさに直面し、自分がまだまだ未熟であることを痛感する場面も、文学の奥深さを考えさせられました。後藤の「小説家は常に門外漢であれ」という言葉は、主人公だけでなく、読者にも深い印象を与える一言です。

さらに、主人公が舞台に立つ恐怖と向き合いながらも、友人である大竹正義の支えを受けて乗り越えていく姿は、心の病とどう向き合うかというテーマに対しても非常に誠実に描かれていました。特に、パニック障害という難しいテーマを扱いながらも、それを克服する過程がしっかりと描かれている点に感心しました。

最後に、社会への訴えを演説という形で表現する主人公の姿は、物語全体の締めくくりとして非常に力強く、感動的でした。物語の中で描かれる社会問題や人々の不安に対する洞察が深く、読後には多くのことを考えさせられました。

全体を通して、物語の進行とともに主人公が成長していく姿が丁寧に描かれており、読者としても一緒に成長していく感覚を味わうことができる素晴らしい作品だと思いました。

まとめ:「鼻に挟み撃ち」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 主人公が高度経済成長期の日本で育つ
  • ゴーゴリの短編「鼻」に強い影響を受け
  • 文芸家・後藤明生と出会う
  • 後藤明生の作品「ハサミウチ」に感銘を受ける
  • 自身も物語を書くようになる
  • 舞台出演の恐怖と向き合う
  • パニック障害に悩むが舞台を乗り越える
  • 大竹正義の支えを受ける
  • 心の病と共存する方法を学ぶ
  • 社会への訴えを演説で表現する