辻村深月「クローバーナイト」の超あらすじ(ネタバレあり)

辻村深月の「クローバーナイト」は、現代の社会問題を鋭く描きながら、家庭やキャリア、親子関係に奮闘する家族の姿を描いた物語です。35歳の公認会計士・鶴峯裕と、その妻で起業家の志保が直面するのは、保育園入園を巡る「保活」やママ友との競争、家族内の葛藤など、現代の共働き世帯が抱えるリアルな問題の数々。

この物語では、夫婦の絆や親としての成長が丁寧に描かれると同時に、育児やキャリアの狭間で悩む多くの家庭に共感を呼び起こすテーマが巧みに織り込まれています。本記事では、「クローバーナイト」の詳細なあらすじ(ネタバレあり)を通じて、物語の魅力や辻村深月が描く家族の姿について深掘りしていきます。

この記事のポイント
  • 物語の構造: 「クローバーナイト」の主要キャラクターやエピソードの概要。
  • テーマの理解: 作品で取り上げられる家庭内の課題、育児、競争などの重要なテーマ。
  • キャラクターの成長: 鶴峯夫婦が困難に立ち向かいながら、どのように成長するか。
  • 社会問題への洞察: 物語を通じて見える育児や仕事のリアルな社会問題。

 

辻村深月「クローバーナイト」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章 – 過酷な保活に苦しむ知人夫婦

物語の主人公である鶴峯裕は、35歳の公認会計士です。大学時代の親友・荒木とその父親が経営する小さな会計事務所で働いています。妻の志保とは大学時代の同級生でサークル仲間でもあり、今は二人の子供、5歳の長女・莉枝未と2歳の長男・琉大の父親です。

裕の妻である志保は第一子を出産した翌年、31歳でオーガニックコットンのアパレルブランド「merci」を立ち上げ、経営者として成功しています。テレビや雑誌で「ミセスCEO」として注目されるほどの起業家で、仕事に忙しい日々を過ごしています。そのため、家族の面倒を見る時間の融通が利く裕が子供たちの世話を主に担当し、保育園で「イクメン」として周囲からも評価されています。

裕と志保は共働きのため、5歳の長女・莉枝未と2歳の長男・琉大を区立の認可保育園・ゆりの木保育園に預けています。夫婦は気さくな性格で、保育園に通うママ友たちとも仲良く過ごしており、定期的にママ友たちのホームパーティーに参加することもあります。

ある日、裕は取引先の社長から妻が1歳の娘の保活に悩んでいるため、相談に乗ってほしいと頼まれます。保活とは保育園入園活動の略で、近年、働きたくても子どもを保育園に預けられず働けないという問題がニュースで取り上げられるようになり、その厳しさが社会全般に知られるようになっています。

裕は取引先の社長と社長夫人のため、妻の志保と共にレストランで会う機会を設けます。社長夫人はキャリアのある通訳として働いていましたが、現在は1歳の娘の保活に悩み、憔悴した様子です。彼女は、保活に失敗すればこれまで積み上げてきたキャリアが崩れてしまうのではないかと不安に駆られていました。

対照的に社長は、保活問題について他人事のような態度を見せ、裕はその様子に疑問を抱きます。心配した裕は社長に、志保の連絡先を渡していつでも相談できるよう働きかけます。しかし、社長はその連絡先を妻に渡すこともなく、それ以降、社長夫人から連絡が来ることはありませんでした。

しばらく経ってから、裕は仕事で社長と会う機会があり、その際に社長から保活のために「偽装離婚」を考えていると打ち明けられます。都会の保活は激戦で、親たちは様々な手段を駆使し、苛烈な競争を繰り広げています。偽装離婚は、その最終手段として使われることもあり、両親が揃っていない家庭は育児が困難だと判断され、保育園入園のポイントが高くなり優先的に入園できるからです。

裕は社長の話を聞いて、社長が偽装離婚を考える理由は本当に保活のためなのか疑問を抱きます。常々不倫の噂がある社長が、保活に追い込まれた妻を言いくるめ、これを機に不倫相手と一緒になろうとしているのではないかと裕は考えます。

その考えを、自分の上司であり社長をよく知る荒木に話すと、荒木は社長に一喝するよう忠告します。後日、反省した様子の社長がやってきて、離婚の考えを改め、妻と娘のために別の方法で保活に励むつもりだと伝えました。裕はその言葉を聞いて安堵するのでした。

第2章 – 競争するママ友たち

裕と志保の生活は、保育園のコミュニティで築かれた「ママ友」たちとの付き合いに彩られています。彼らの長女・莉枝未が通う「ゆりの木保育園」は、裕の住むエリアでは評判の高い保育園です。裕と志保は、他のママ友やパパ友たちとも親しくなり、互いに情報交換や協力をし合っています。しかし、保育園の入園状況が激戦であることから、ママ友たちの間で競争や葛藤が生まれることもしばしばです。

ある日、ママ友の一人である小林夏美が、ホームパーティーを開催すると知らせてきました。裕と志保は、夏美の夫である直樹とも親しく、よく互いの家庭を訪問し合っていたので、二人は参加することにしました。ホームパーティーには、他のママ友たちも参加し、会場は賑やかな雰囲気に包まれていました。

パーティーの最中、裕は偶然、夏美と他のママ友数名が何やら深刻な話をしているのを耳にします。彼女たちは子供たちが将来進学する小学校について話し合っており、それぞれが希望する学校や受験対策について情報を交換していました。裕はこの会話から、彼女たちの間に競争心が芽生えていることに気付きます。

その一方で、夏美の夫である直樹は、妻が保育園のコミュニティ内で他の母親たちと競争し、子供にプレッシャーを与えていると感じており、裕にそのことについて相談します。直樹は、夏美が他のママ友に負けまいとするあまり、家計に影響するような高価な教育グッズや塾の費用を惜しまず使うことに対して不安を抱いていました。

裕は、直樹の悩みに耳を傾けるとともに、志保にもその状況を伝えます。志保もまた、ママ友たちの中で芽生える競争心がいかに子供たちに負担をかけるかを理解し、子供の将来よりも今の幸せを大切にするように直樹に助言しました。志保は、競争を煽るよりも、家族の絆を重視する考えを持つことが重要だと考えていたからです。

その後、夏美と直樹は家族の将来について真剣に話し合い、競争に過度に執着するのではなく、子供たちの健全な成長を第一に考えることを決めます。裕と志保の助言が功を奏し、彼らの家庭に平穏が戻るのでした。

このように、裕と志保は、自分たちの家族だけでなく、ママ友たちとの関係にも誠実に向き合い、悩みを共有しながら家庭生活を築いています。互いの価値観や考え方を尊重し合うことで、コミュニティ全体の絆が深まり、子供たちの成長を見守る温かな環境が整っていくのでした。

第3章 – 志保の挑戦とキャリア

志保は、夫の裕と共に子育てと家庭のバランスを取りながら、自分のキャリアにも力を入れていました。彼女は仕事に対して強い情熱を持っており、自分のスキルを高め、より多くの経験を積みたいと考えていたのです。

志保は長い間、広告代理店で働いていましたが、最近、新しいプロジェクトに挑戦する機会が訪れました。会社は、新しいブランドの立ち上げを任され、志保はこのプロジェクトでリーダーシップを発揮するよう依頼されたのです。このプロジェクトは、彼女のキャリアの中でも特に重要なものとなりそうでしたが、同時にそれは多大な責任を伴うものでした。志保は、家庭と仕事の両立に対する不安を感じつつも、この挑戦を受け入れることを決意しました。

志保はプロジェクトチームを編成し、メンバーと共に市場調査や戦略の策定に取り組み始めました。チームのリーダーとして、彼女は各メンバーの意見を尊重しながらも、プロジェクト全体の方向性を示し、進捗状況を細かく管理していました。志保の指導力と情熱は、チームの士気を高め、全員が一致団結してプロジェクトに取り組む雰囲気を生み出していました。

プロジェクトが進行する中で、志保は時折、子供たちとの時間を減らす必要があると感じる瞬間もありました。仕事の責任が増すにつれて、どうしても家庭に十分な時間を割けないことがあったのです。そんな時、夫の裕が彼女を支え、育児の負担を分担することで志保を助けてくれました。裕は、彼女がキャリアのために努力していることを理解し、パートナーとして互いに支え合う姿勢を大切にしていたのです。

志保のプロジェクトは、幾度かの試練を乗り越えながらも、最終的に成功を収めました。彼女が率いた新ブランドは、顧客のニーズを的確に捉え、市場で高い評価を得ることができました。志保のリーダーシップは、会社内でも評価され、彼女のキャリアはさらに飛躍することとなりました。

このプロジェクトを通して、志保は仕事と家庭の両立について多くのことを学びました。裕の支えと家族の協力がなければ達成できなかったと感じ、彼女は改めて家族の絆の大切さに感謝しました。仕事への情熱と家庭への愛情を両立させる志保の姿勢は、彼女の人生における新たな価値観を生み出すきっかけとなったのです。

第4章 – 夫婦の絆と理解

プロジェクトが成功し、志保のキャリアが充実する一方で、夫婦関係には新たな課題が浮上していました。裕は、志保の仕事に対する情熱と努力を理解し、家庭でのサポートに努めていましたが、自分の役割や立ち位置に対する不安を感じるようになっていました。

裕は建築業界で働いていましたが、仕事の忙しさが増すにつれて、彼もまた家庭と仕事のバランスを取るのに苦労していたのです。彼は自分自身に対して、父親としての役割や、志保との関係をしっかり維持できているか疑問を抱くようになりました。

裕は、志保とじっくり話し合うことでこの問題に向き合おうと決めました。ある日、二人は時間を作り、静かなカフェで向かい合い、お互いの気持ちを正直に伝え合いました。裕は、自分が志保のサポートに全力を尽くす一方で、自分自身のキャリアや家庭内での役割に疑問を感じていることを打ち明けました。志保は驚きつつも、裕の正直な気持ちに感謝し、彼の気持ちをしっかり受け止めました。

志保は裕に対し、彼のサポートがなければ自分がプロジェクトを成功させることはできなかったと伝え、感謝の意を示しました。そして、彼の役割を軽んじているわけではなく、家庭における彼の存在がどれだけ重要かを改めて強調しました。裕はこの言葉に安心し、夫婦としてお互いを支え合う関係を再確認することができました。

この話し合いの後、二人は互いに役割を見直し、家庭内の責任をより公平に分担することを決めました。裕は仕事と家庭の両立に対する自信を取り戻し、志保もまた、夫婦の絆が強まったことを実感しました。彼らは週末に家族で出かける時間を作ったり、互いにリラックスする機会を提供し合うようにしました。

夫婦の絆が強化されたことで、二人の関係は以前よりも穏やかで安定したものとなり、子供たちもその変化を感じ取っていました。裕と志保はお互いを尊重し、共に家庭とキャリアを支え合うパートナーとして、これからも困難に立ち向かう準備ができていたのです。

第5章 – 新たなチャプターの始まり

裕と志保が夫婦の絆を再確認したことで、家族全体の雰囲気が和やかになり、新たな問題にも団結して立ち向かう姿勢が生まれました。志保は新たなプロジェクトに挑戦し、裕も仕事のスキルを磨き、家族での時間をより充実させようと努力しました。

志保は新しいプロジェクトにおいて、今まで以上にリーダーシップを発揮し、多くの部下たちと信頼関係を築きながら進めていきました。彼女は、裕からのサポートが自分のモチベーションにつながっていると感じ、仕事においても自信を持つようになりました。新たなプロジェクトが成功に向けて進む中で、彼女はチーム全体をまとめる力を発揮し、そのリーダーシップが一層評価されました。

一方で、裕も自身のキャリアにおいて新たな挑戦を見つけ、これまで以上にやりがいを感じていました。志保との協力体制が整ったことで、仕事に専念しながらも、家庭での役割をしっかり果たすことができるようになったのです。子供たちと共に過ごす時間を増やすことで、彼の父親としての存在感も一層高まりました。

家族としての一体感が強化されたことで、週末にはアウトドア活動を楽しんだり、料理や手芸といった新しい趣味を一緒に楽しんだりするようになりました。彼らは互いにサポートし、成功を共に祝うだけでなく、困難な状況においても励まし合いながら乗り越える姿勢を育みました。

そして、ある日曜の夜、裕と志保は子供たちが眠りについた後、リビングで穏やかに話し合いました。彼らは今後の目標や夢を共有し、新しいチャプターを始めるための計画を立てました。志保は次なるプロジェクトで更なる成長を目指し、裕は職場での昇進に向けた準備を進める意欲を示しました。家族全体としても旅行や趣味を通じて、新たな思い出を作り続けることを誓いました。

この新しいチャプターの始まりは、夫婦の信頼と理解がさらに強まり、家族全員が互いにサポートし合う姿勢を固めた瞬間でもありました。困難な状況を乗り越え、志保と裕は、共に新しい未来に向かって進むことに自信を持っていました。

辻村深月「クローバーナイト」の感想・レビュー

「クローバーナイト」は、辻村深月が現代の共働き家庭を取り巻く問題や家族の絆を描いた傑作です。物語の主人公である鶴峯裕とその妻・志保は、保活、ママ友との競争、夫婦間の葛藤といったリアルな社会問題に直面しながらも、二人の子供たちと共に新たな未来に向かって進んでいきます。

まず印象的だったのは、辻村氏が共働き夫婦の日常とその葛藤を非常にリアルに描いている点です。裕が「イクメン」として子育てに奮闘しながらも、自分のキャリアに対する不安や、志保のサポートに注力することで感じる葛藤が細やかに描かれています。一方で、志保も起業家としてのプレッシャーに加え、夫婦間での役割分担や義母との確執に悩む姿が、現代のキャリアウーマンの苦悩をリアルに反映しています。

物語の中で特に印象に残ったのは、第1章の保活を巡るエピソードです。取引先の社長夫人が保育園入園活動に苦しむ様子は、保育園入園競争が激しい都市部での現実を象徴しています。裕が助言しようと試みるも、夫婦間でのコミュニケーション不足や偽装離婚のアイデアが持ち上がる中、保活のプレッシャーがどれほど家庭に影響を与えるかが痛感されます。

また、第2章ではママ友たちの間に生まれる競争心が強調されており、子供たちの将来に不安を抱く母親たちが互いに情報を交換し、子供に負担をかけてしまう姿が描かれています。特に、ホームパーティーでの小林夏美夫婦のエピソードを通じて、親のプレッシャーが子供たちにも影響を与える現実が浮き彫りにされました。

第3章以降では、志保のプロジェクトリーダーとしての成長と、それに伴う家庭での役割分担の見直しが焦点となります。志保が新しいブランドを成功させる姿は、女性起業家としての彼女の強さと情熱を感じさせます。しかし、家庭での負担が増える中で裕が感じる葛藤や、志保との関係に生じるズレが夫婦の絆に試練をもたらします。ここでは、仕事と家庭の両立がいかに困難かを深く感じました。

最後の章で、夫婦の関係を見直し、互いにサポートし合うパートナーとしての姿勢を再確認した裕と志保が、新たな目標に向かって進んでいく姿は感動的でした。家庭としての一体感が強まり、子供たちと共に新たなチャプターを開く姿は、現代の共働き家庭に勇気と希望を与えます。

全体的に、「クローバーナイト」は、現代の共働き夫婦が直面する問題をリアルに描きながらも、家族の絆の重要性と夫婦としての成長を描き出した、非常に読み応えのある作品です。家族やキャリア、社会問題に興味のある読者にとって必見の一冊です。

まとめ:辻村深月「クローバーナイト」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 鶴峯裕は公認会計士であり、妻の志保と二人の子供を育てる
  • 志保は第一子を出産した翌年にオーガニックコットンブランド「merci」を立ち上げた起業家である
  • 裕は取引先の社長夫人が保活に苦しんでいると知り、助言を試みる
  • 社長夫人が保活に失敗することを恐れ、偽装離婚のアイデアが持ち上がる
  • ママ友同士の競争が激しく、裕と志保も影響を受ける
  • 志保はプロジェクトで成功し、リーダーシップを発揮する
  • 志保のキャリアが充実する一方、夫婦の絆に課題が浮上する
  • 裕と志保は夫婦の関係を見直し、互いにサポートし合う決意をする
  • 家族全体としての一体感が強まり、新たな目標と夢を共有する
  • 裕と志保は新たなチャプターに向けて家族と共に進んでいく