『何食わぬきみたちへ』は、東京の大学に通う伏見裕也が夏休みに実家に帰省し、高校時代の友人・大石真と再会することから始まります。
彼らは母校を訪れ、かつてのかるた部や古川辰巳との思い出を振り返ります。一方、精神的な問題を抱える坪井敦子は、兄の勝男や古川との関わりを通じて成長を遂げます。
再会した3人がそれぞれの過去と向き合い、新たな思いを胸に別れていく姿が描かれた物語です。
- 伏見裕也の帰省と高校時代の友人との再会
- 母校訪問でのかるた部の思い出
- 古川辰巳との過去の出来事
- 坪井敦子の家族と精神的な問題
- 再会した3人の過去との向き合い方
「何食わぬきみたちへ」の超あらすじ(ネタバレあり)
伏見裕也(ふしみ ゆうや)は、東京の大学に通っており、夏休みになると実家に帰省しました。彼の実家は地方にあり、久しぶりに家族と過ごすために電車を乗り継いで帰ってきました。途中、伏見はバス停で少し奇妙な男子と遭遇しました。彼は何か不思議なことを話していましたが、伏見には意味がわかりません。その後、伏見は長身でスラリとした女子高生に声をかけられました。彼女は伏見の出身高校の後輩、佐藤花音(さとう かのん)でした。花音は、伏見のことを覚えていたようで、短い挨拶を交わしました。
家に帰ると、家族と夕食を共にします。食事の間、母親が伏見の高校時代の友人である大石真(おおいし まこと)の話題を出しました。大石は東京の別の大学に進学しており、伏見は最近彼と再会したことを家族に話しました。その時、大石が明石真央(あかし まお)さんの話をしていたことを思い出しました。明石さんは、高校の同級生で、伏見と同じ美術の授業で何度か一緒になったことがありました。彼女はクレヨンで力強い絵を描くことで有名でしたが、大石は彼女のことを覚えていないようでした。
翌日、伏見は大石と一緒に母校を訪れることにしました。二人は高校時代、かるた部に所属していました。母校に向かう道中、伏見は大石と高校時代の思い出話をしました。特に、クラスで浮いていた古川辰巳(ふるかわ たつみ)について話が及びました。古川は一度、分教室の生徒たちをからかったことがありましたが、それを見た大石が彼を注意し、二人は喧嘩になりかけました。伏見はその時の大石の行動が正しかったと感じ、彼の勇気を尊敬しました。
二人が母校のかるた部の部室に着くと、そこはすっかり変わっていました。昔の記憶と今の現実との違いに、二人は少し戸惑いながらも、その場に立ち尽くしていました。
伏見は高校時代の出来事を思い出していました。ある日、古川辰巳が学校に来なくなったことがありました。その前の夏、体育の授業中に大石が怪我をしてしまい、伏見は彼を保健室へ連れて行くことになりました。その途中、二人は分教室の前を通りかかり、そこから聞こえてくる女の子の歌声に大石は視線を落としました。大石の気分が沈んでいたのは、古川とのいざこざが原因だったのです。
また、伏見は美術の授業で一緒だった明石真央さんのことも思い出します。最初は普通に話していた彼女が、3回目のスケッチの時から急に無口になったことが気になっていました。明石さんは、分教室の生徒「かっちゃん」の絵の才能を認めており、「かっちゃん」というのは、分教室に通う勝男(かつお)くんのことを指していました。
現在に戻り、伏見と大石は母校のかるた部に入りますが、そこはすっかり変わっていました。かつてのかるた部は、実際にはオタクたちのたまり場で、あまりかるたをしている様子はありませんでしたが、今は少し真面目な部活のように見えました。しかし、伏見はその部室で昔のことを思い出します。分教室の生徒が来ない日、古川が分教室に忍び込んで、机に何かを入れるところを目撃したのです。そこに大石が現れ、古川を注意し、二人はまたもや喧嘩寸前になりました。伏見は古川が机に入れたものを取り出してみました。それは古川が勝男くんに宛てた手紙で、「お前と会えて、なんだか安心した」といった内容の、友情の告白のような手紙でした。
坪井敦子(つぼい あつこ)は精神科に通院しています。彼女は高校にほとんど通っていませんが、小学生の頃から精神科には欠かさず通っていました。ある日、先生が次回から薬を変えるので、親と一緒に来るようにと言われました。帰宅してそのことを母親に伝えると、母は少し面倒くさそうな様子を見せました。しかし、敦子が今日学校に行くと言うと、母はとても喜びました。自称小説家の父親も喜んでいました。実は、敦子は教師から単位が危ないという連絡を受けていたため、仕方なく学校に行くことにしたのです。
学校では、生き物係の同級生と少し話をしただけで帰宅しました。帰宅すると、兄の勝男がシンクで嘔吐しており、父親に叱られていました。知的障害のある兄には特定の行動へのこだわりがあり、台所で嘔吐することや、風呂場で排泄することがありました。父親はそのことでストレスを感じており、母親も疲れた様子を見せていました。敦子はこれが普通ではないことを理解していながらも、家族との生活を大切に思っていました。また、敦子自身にも日常のルーチンを崩すことができないというこだわりがありました。
その後、敦子は古川辰巳に連絡を取りました。彼は、以前勝男をいじめたとして高校を中退した過去を持っています。彼は当時、謝罪の手紙を持って敦子の家に来ましたが、父親にはねのけられてしまいました。それ以来、敦子は何度か古川と会い、彼はしだいに読んだ本の話をするようになり、敦子の心に少しずつ変化をもたらしました。
敦子は中学生の時、通学途中に道路工事が行われていたものの、心理的な問題から迂回することができず、その場で嘔吐してしまいました。この出来事で、敦子が普通ではないことがバレてしまい、友達が離れていきました。敦子は、実は古川辰巳が好きだったのですが、自分が普通ではないため、彼にその気持ちを伝えることができませんでした。敦子は自分を守るために、「好きになることは普通ではない」と自分に言い聞かせていましたが、本当は自分の異常性がバレるのが怖かったのです。
ある日、学校からの帰り道で古川が待っていました。彼は、自分を責め続ける敦子に対して「普通じゃなくてもいい」と言ってくれました。その言葉に救われた敦子は、古川と付き合い始め、やがて体の関係を持つようになりました。それから二年が経ち、敦子は薬の変更のため、母親と一緒に精神科を訪れました。診察が終わった後、敦子はもう一度先生のところへ行き、先日、勝男が大学生といるところに出くわした時、自分が兄と他人のふりをしてしまったことを告白しました。先生は、「自分をもっと許してあげなさい」と言ってくれました。
伏見裕也と大石真が母校のかるた部を訪れていると、突然、季節外れの入部希望者がやってきました。その女子生徒に付き添っていたのは、坪井敦子でした。敦子は、伏見と大石がかつての分教室のことを忘れているように見えることに対して、少し不満を感じていました。しかし、彼女は直接そのことを責めるのではなく、三人はそれぞれが自分の思いを胸に抱えつつ、別れることになりました。伏見、大石、そして敦子は、それぞれに異なる思いを抱えながらも、何かを乗り越えるような気持ちでその場を後にしました。
「何食わぬきみたちへ」の感想・レビュー
『何食わぬきみたちへ』を読んで、過去と向き合うことの難しさや、人間関係の複雑さがとてもリアルに描かれていると感じました。主人公の伏見裕也が、大学生活から一時的に離れて実家に帰省し、久しぶりに再会する友人の大石真とのやり取りが印象的です。二人が母校を訪れるシーンでは、かつてのかるた部の思い出や、クラスメイトの古川辰巳との出来事が語られ、過去の出来事が今でも二人に影響を与えていることがよく伝わってきました。
一方で、坪井敦子のキャラクターも非常に印象深かったです。彼女が抱える精神的な問題や、家族との関係がリアルに描かれており、特に兄の勝男との関係性が興味深かったです。敦子が兄の特異な行動に悩みつつも、家族としての絆を感じている姿が共感を呼びました。また、敦子と古川の関係が、彼女の成長と変化を象徴しており、二人の交流を通じて敦子が少しずつ自分を受け入れるようになる過程が感動的でした。
物語の最後で、伏見、大石、敦子の三人が再会し、それぞれが過去と向き合いながらも新たな道を歩み始める姿には、希望を感じました。特に、敦子が伏見と大石に対して抱いていた不満が、言葉にすることなく静かに解決されていく過程が、自然で心に響きました。この物語は、過去と向き合うことの大切さを教えてくれると同時に、人と人とのつながりがどれほど重要であるかを改めて考えさせてくれました。
全体を通して、登場人物それぞれが抱える問題や悩みが丁寧に描かれており、誰もが共感できる要素が詰まっている作品だと感じました。
まとめ:「何食わぬきみたちへ」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 伏見裕也が東京の大学から実家に帰省する
- 伏見が奇妙な男子と後輩の女子高生に出会う
- 家族との会話で高校時代の友人・大石真の話題が出る
- 伏見と大石が母校を訪問し、かるた部を懐かしむ
- 古川辰巳との過去の出来事を思い出す
- 坪井敦子が精神科に通院している
- 敦子の兄・勝男が特異な行動を繰り返す
- 敦子が古川と関係を持ち、成長していく
- 伏見、大石、敦子が再会し、それぞれの過去と向き合う
- 敦子が伏見と大石に対し不満を感じつつも別れる