「春の小夜」の超あらすじ(ネタバレあり)

「春の小夜」は、桜が散る春の終わりから始まる物語です。

この小説では、商店街の小さな本屋「鍵田書店」を舞台に、ふっくらとした高校生の少女「九重さよ」と店主鍵田の交流が描かれています。さよの家庭事情や、彼女がどのようにして本屋で働きながら成長していくのかが、詳細に描かれています。

この記事では、物語の各章を詳しく紹介し、ストーリーの展開や重要なポイントをネタバレを交えてお伝えします。

この記事のポイント
  • 「春の小夜」の物語の全体的な流れ
  • 主人公九重さよの背景と家庭環境
  • 鍵田書店の店主とさよとの関係
  • さよのアルバイトや日常的な活動
  • 物語の主要な出来事やキャラクターの動機

「春の小夜」のあらすじと超ネタバレ

桜が散り、春の終わりを迎える5月のことです。商店街に面した「鍵田書店」という小さな本屋に、桃のようにふっくらとした少女がやってきました。彼女の名前は「九重さよ」で、学校の帰り道に立ち寄ったようです。

さよはグレーのワンピースに白いベストを着て、紺色の学校指定カバンを肩から提げています。鍵田書店の店主、鍵田はレジの奥で注文伝票を数えなおしていましたが、店の天井に取り付けられた球面鏡のおかげで、店の隅々まで見渡せます。

さよは文庫コーナーに向かい、何冊かの本を手に取りました。彼女は3冊ほどの本を一度に掴み、ベストと胸の間に隠しました。声をかけるタイミングは、店の外に出た瞬間です。女性の客に体に触れるわけにはいきませんから、鍵田は声をかけることができませんでした。

後に確認したところ、さよが取った本は谷崎潤一郎の「細雪」、スティーブン・キングの「ミザリー」、フランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」でした。鍵田は学生証を確認し、高校2年生であることがわかりました。名前の「さよ」は、万葉集から取ったもので、夜に吹く強い風を意味しているそうです。

さよの家庭には、母親がうつ病で長期間入院しており、父親は北海道で出会った女性と一緒に帰ってこない状況でした。そのため、さよは自分でお金を稼がなければならなくなりました。

次の日、さよは雑巾とエプロンを持参し、「鍵田書店」での労働を始めました。彼女は店の外の看板を拭いたり、店内の床を掃いたりしました。踏み台を使って高い棚の上もきれいにし、店内をピカピカにしてくれました。

その間、スカートの裾からちらりと太ももやふくらはぎが見えることもありましたが、さよは無邪気に作業を続けました。鍵田は、彼女の姿に視線を逸らそうと努力しましたが、さよは気にせず一生懸命に働いていました。

さよは週に1〜2回、定期的に店に来て掃除をしてくれるようになりましたが、本当の目的は本棚からお気に入りの1冊を取って読むことでした。鍵田にとっては、さよが店番をしてくれることで、銀行や郵便局での雑事を済ませたり、配達にも行けるので大助かりでした。

夏休みが始まる前には、さよは隣町の工場で働く予定です。それまでには、正式にアルバイトとして契約を結ばなければなりませんでした。

鍵田は、父親から相続した土地と建物で長年商売をしてきました。しかし、その夫に対して「度胸がない」と責めていたのは妻の「みさお」です。みさおは、古くさい本屋よりも、コンビニエンスストアを開くことを望んでいました。店を閉じてアパートに建て替え、1階を貸し店舗にしてテナント料で大儲けしようと考えていたのです。

みさおは、その計画が実現しない鍵田に見切りをつけ、1年前に都心に部屋を借りました。しかし、みさおが戻ってきた時、さよと鉢合わせてしまいました。

勘の鋭いみさおは、鍵田とさよの関係性をすぐに察知しました。ボストンバッグから取り出したのは離婚届で、鍵田が署名すると、わずかに残っていた荷物を詰め込んで立ち去っていきました。

さよはこれで結婚できると喜んでいましたが、17歳のため法律的には結婚できない年齢です。しかし、成人向けの雑誌や大人びた書物を読んでいたさよでも、23歳の鍵田から見るとまだ子どもに見えました。

ある日、さよは急に高校生に戻ったかのように、ケンタッキーを食べに行こうと提案しました。脂っこい食べ物が苦手な鍵田も、さよのお願いに応じました。

その後の2週間、さよの姿を見ない日が続き、鍵田にとっては開店から閉店までの時間がとても長く感じられました。恋に浮かれている自分を少し恥ずかしく思いながらも、店の前にスーツを着た40代くらいの男性が現れました。

その男性は名刺を差し出し、「九重保」と名乗りました。勤め先は札幌市内の運送会社で、手には新千歳空港で購入した銘菓を持っていました。男性は丁寧に頭を下げましたが、鍵田は未成年に関わることで警戒感を解きませんでした。

親族会議では、さよの母親の入院費は実家の兄が負担することになり、さよは2学期が始まる前に札幌に転校することになりました。九重保は病院にお見舞いに行くため、ひと足先に札幌に戻る準備をしました。

さよは明日には飛行機に乗る予定で、彼女の表情は明るいものでした。卒業後にこの店に戻ってくると言っていますが、新しい場所ですぐに年の近い友達や恋人ができるでしょう。

さよは、店舗の2階に一晩だけ泊めてほしいと頼みました。鍵田はその申し出を静かに受け入れました。

「春の小夜」の感想・レビュー

「春の小夜」は、心に残る感動的な物語です。この小説では、商店街にある「鍵田書店」を舞台に、ふっくらとした高校生の「九重さよ」が中心となって展開します。さよは家庭の事情で、うつ病の母親と北海道で新しい家庭を作った父親のもとを一人で支えなければなりません。そのため、彼女は「鍵田書店」でアルバイトを始めます。

物語は、さよの高校生活や仕事、そして鍵田店主との交流を通じて、彼女がどのように成長していくのかを描いています。さよは最初、本を盗むような行動をしますが、次第に真面目に働くようになります。その姿はとても健気で、読んでいると彼女の努力が伝わってきます。

また、鍵田書店の店主である鍵田は、最初はさよに対して警戒心を持っていますが、彼女の真摯な姿勢に感心し、徐々に支援するようになります。このような人間関係の変化が、物語に深みを加えています。

さらに、さよの母親の入院や、父親の新しい家庭に関するエピソードも、さよの苦労と成長をリアルに描いています。みさおというキャラクターが鍵田との離婚を持ち出すシーンでは、人間関係の複雑さがよく表れており、読み応えがあります。

全体的に、「春の小夜」は、感情豊かで、登場人物たちの成長や変化を丁寧に描いています。さよの努力や鍵田との関係の変化を通じて、家族や仕事、人とのつながりの大切さを感じさせてくれる作品です。

まとめ:「春の小夜」のあらすじと超ネタバレ

上記をまとめます。

  • 物語は春の終わりの5月から始まる
  • 「鍵田書店」という本屋が舞台である
  • 主人公の九重さよは高校生である
  • さよは家庭の事情で本屋でアルバイトを始める
  • さよの母親はうつ病で長期間入院中である
  • 父親は北海道で新しい家庭を築いている
  • さよは本を隠して持ち去り、後に返却する
  • 鍵田はさよに対して警戒しながらも助ける
  • みさおが鍵田との離婚を持ちかける
  • さよは札幌に転校し、将来の計画を持っている