江戸川乱歩「人間椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

江戸川乱歩の作品「人間椅子」は、日本の推理小説の巨匠による不朽の名作として、今なお多くの読者を惹きつけています。この物語は、一見平凡な日常から始まりますが、やがて読者を予測不可能な心理的深淵へと誘い込む、独特の雰囲気を持っています。女性作家の佳子と、彼女の人生に突如現れた謎の椅子職人の交流を通じて、人間の内面に潜む闇や欲望、愛と孤独を巧みに描き出しています。

この記事はあらすじから感想・レビューに至るまで、「人間椅子」の魅力を余すところなく紹介します。初めてこの作品に触れる方も、何度も読み返している方も、新たな発見や深い洞察があるかもしれません。江戸川乱歩の描く、奇妙で不可思議な世界に一歩踏み込んでみましょう。

この記事のポイント
  • 「人間椅子」の基本的なプロットと、物語が展開する主な章立て。
  • 物語の中心人物である女性作家の佳子と、謎の椅子職人の心理的背景。
  • 物語のクライマックスに向けての心理的な葛藤と、それに伴うサスペンスの構築。
  • 江戸川乱歩が描く人間の内面の闇や狂気、そして美への憧れに関する深い洞察。

江戸川乱歩「人間椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章:日常の中の異変

この章は、女性作家の佳子の日常と、彼女の生活に訪れる予期せぬ出来事を中心に描かれます。佳子は、毎朝のルーティンとして夫を見送った後、二人が共有する豪邸の書斎にこもり、執筆活動に没頭します。この日課は、彼女にとって創作の源泉であり、平穏な生活の象徴でもあります。

佳子は、一流の女性作家として、読者からの熱烈な支持を受けています。その証として、彼女の元には未知の崇拝者からの手紙が数多く届きます。彼女は、これらの手紙を仕事を始める前に一通り目を通すことを日課にしており、読者とのつながりを大切にしています。

ある日の朝、いつもとは異なる一通の手紙が佳子の元に届きます。この手紙は、一見するとかさばる原稿のように見えました。佳子は興味を引かれ、手紙の封を開けて中身を確認することにしました。封を開けると、そこには「奥様」という言葉で始まる長い手紙がありました。最初は何気なく目を通していた佳子ですが、次第に手紙の異常な内容に気づき始めます。手紙の筆者は、自らを醜い容姿の椅子職人と称し、人間界から姿を消し、ある意味で悪魔のような生活を送っていることを告白しています。

この手紙を読むうちに、佳子は不穏な気配を感じ取りますが、好奇心が彼女を手紙の内容に引き込んでいきます。手紙の中で、職人は自らが直面している心の葛藤や、佳子に聞いてもらいたいと願う深い懺悔を綴っていました。この予期せぬ告白は、佳子の日常に亀裂を入れ、彼女の心に影を落とします。

こうして第1章は終わりますが、この章は後の展開を予感させる序章となります。読者に対しては、佳子の平穏な生活がこれからどのように変化していくのか、そして彼女がどのようにしてこの不思議で不気味な告白に対峙していくのか、大きな期待を抱かせる内容となっています。

第2章:椅子職人の告白

第2章では、手紙の主である椅子職人の人生と、彼が胸に秘めていた夢、そしてそれがどのようにして彼を現在の状況へと導いたのかが語られます。椅子職人は、生まれながらにして他人から避けられがちな容姿を持っていましたが、内心では甘美で贅沢な生活を夢見ていた男です。

彼は、もっと豊かな家庭に生まれていたら、もっと才能があったらと常に思い悩みながら、家具職人としての親譲りの仕事に従事していました。彼の専門は椅子を作ることで、彼の作る椅子はどんなに難しい注文であっても顧客を満足させるものでした。次第に彼の名声は高まり、より条件の良い仕事が舞い込むようになります。

椅子職人は、自らが作った豪華な椅子に最初に座ることを楽しみにしており、その椅子がどんな素晴らしい人物に使われるのか、どんな豪華な邸宅に置かれるのかを想像しながら過ごしていました。しかし、この妄想はやがて現実への帰還を困難にし、彼を深い虚無感に陥れていきます。「こんな生活を続けるくらいなら、死んだほうがましだ」とさえ考えるようになりますが、その一方で、死を選ぶ代わりにもっと別の方法を探求するようになりました。

職人の心の中には、恐ろしいアイデアが芽生え始めていました。彼は、自分の容姿や現状に対する絶望から逃れるために、現実から逃避する何かを求めていました。そして、この時期に大きな転機が訪れます。外国人が経営するホテルから、大きな椅子を作る仕事が舞い込んできたのです。

この章は、椅子職人がどのようにして自分の運命を受け入れ、そして変えようと試みたのかを深く掘り下げます。彼の過去の経験、夢、そして現実との葛藤が、後の章で語られる彼の行動の動機と深く結びついています。職人の告白は、彼自身の内面の旅とも言えるものであり、読者に彼の心情を深く理解させるものです。

第3章:椅子の中の生活

第3章は、椅子職人が外国人経営のホテル用に特注された椅子を作る仕事を受け、その椅子の中で隠れて生活するに至った経緯と、そこでの体験を中心に展開されます。彼のこの決断は、普通では考えられないほど奇妙なものでしたが、彼の心の中にある絶望と願望が生み出した結果です。

椅子職人は、この大きな仕事に没頭し、夜昼を問わずに椅子の製作に励みます。完成した椅子は、彼のこれまでの作品の中でも特に美しく、彼はかつてないほどの満足感を味わいました。この椅子と共にどこまでも行きたいという強い願望を抱いた彼は、椅子の中に自分が隠れられるスペースを作り出し、そこに潜り込む決意をします。

当初、彼の目的はホテルが閉鎖された後に盗みを働き、裕福になることでした。しかし、実際に椅子がホテルのラウンジに置かれ、そこに人々が座るようになると、彼は全く予期していなかった感情に包まれます。人が椅子に座るたびに感じるぬくもりと、その不思議な感触に溺れていく自分に気づくのです。

椅子の中から世界を観察するうちに、彼はこれまで経験したことのない種類の愛情を感じ始めます。彼のように外見が原因で人との接触を避けられがちな男が、美しい人々とこんなにも密接に関わることができるとは思ってもみませんでした。彼は椅子の中で、声を聞いたり、肌に触れたりすることによって、彼らに接近できることに酔いしれます。

また、彼は、世界的な詩人や有名なダンサーが自分の作った椅子に座る姿を見て、彼らの存在が自分の作品を通じて自分と関わっていることに誇りを感じます。このようにして、椅子職人は椅子の中で過ごす日々を通じて、自分だけの秘密の愛情を育てていきます。

この章では、椅子職人が直面する孤独と願望、そして彼が見つけた奇妙ながらも心の拠り所について詳細に語られます。外界との接触を絶っても、彼がどのようにして心の充足を見出そうとしたのか、その心理的な葛藤が深く掘り下げられます。

第4章:椅子とともに

第4章では、椅子職人の隠れた生活が新たな局面を迎えることになります。これまでの彼の経験が次第に変化していき、椅子と共に過ごす時間が彼の人生において新たな意味を持ち始めるのです。

椅子職人が潜んでいた椅子は、外国人経営のホテルに置かれ、そこで彼は多くの人々が椅子に座るのを感じてきました。彼は、この椅子に座る人々、特に世界的な詩人や有名なダンサーに対して、彼らの存在が彼の作品を通じて自分と関わっていることに深い誇りと満足を感じていました。

しかし、ホテルの経営者が変わると、彼の椅子を含む多くの家具が日本人の会社に譲渡されることになり、新しい経営方針のもとで旅館としての営業が開始されます。この変化により、椅子はその雰囲気に合わないと判断され、大手の家具屋で競売にかけられることになりました。

椅子職人は、数か月にわたる椅子の中での隠れた生活を通じて、特に外国人客との間にある種の恋愛感情に似た経験をしてきました。しかし、彼は自身が日本人であるため、肉体的な魅力は感じるものの、精神的なつながりにおいては何か物足りなさを感じていました。

このような状況の中で、椅子職人は、自分の椅子が日本人に買い取られ、新しい環境に移されることを期待し始めます。彼の願いは叶い、椅子はすぐに買い手を見つけ、ある豪邸の書斎に置かれることになりました。

新しい環境において、椅子職人は佳子という夫人と共に過ごすことになります。彼女との関係を通じて、彼はこれまでにないほどの愛情を感じるようになります。佳子の存在が彼の心を満たし、彼女に認識され、愛されることを切望するようになります。

この章では、椅子職人の心情の変化と、新たな環境での彼の体験が詳細に描かれます。椅子と共に過ごす日々が、彼にとってどれほど意味深いものであったか、そして彼が新しい愛情を見出す過程が深く掘り下げられています。椅子職人の隠れた生活は、外見ではなく内面に基づいた真の愛情を求める彼の願望を映し出しています。

第5章:真実の告白と結末

第5章では、椅子職人の佳子への手紙を通じて明かされる真実と、それがもたらす影響を中心に描かれます。椅子職人がなぜ佳子に手紙を書き、何を懺悔したいと思っていたのかが徐々に解明されていきます。

椅子職人は、豪邸の書斎に置かれてから佳子と共に過ごす日々の中で、彼女に対して深い愛情を抱くようになりました。彼はこの感情をどうしても佳子に伝えたいと願い、手紙を通じて自分の心の内を告白します。この手紙では、彼がどのようにして椅子の中に隠れるようになったのか、そして佳子と共に過ごした時間の中で彼が感じたことが綴られています。

椅子職人は、手紙の最後に佳子に会うための約束を求めます。彼は、もし佳子が彼に会うことを望むなら、書斎の窓の鉢植えにハンカチをかけてほしいと書きました。この提案は、彼の切望する佳子との直接的な接触を求める願望の表れです。

佳子がこの手紙を読んだ後、彼女は混乱と不安に陥ります。手紙の内容があまりにも不思議であり、佳子自身もまた、この告白にどのように対処すべきか分からなくなります。そんな中、女中が新たに届いた手紙を佳子に渡します。この手紙は、椅子職人が以前に送ったものと同じ筆跡で書かれていましたが、内容は一転して、彼の創作について佳子の意見を求めるものでした。手紙の中で、彼は自分の作品の表題を「人間椅子」とし、佳子にその評価を尋ねます。

この手紙を受け取った佳子は、先の手紙と合わせて考えることで、椅子職人が自分に伝えたかった真実を理解し始めます。椅子職人の異常な行動と彼の深い愛情が、彼自身の孤独と切実な願望から生まれたものであることを佳子は悟ります。

この章では、椅子職人の秘められた感情と彼の異常な行動の背景にある心情が明かされ、佳子の心の変化が描かれます。最終的に、佳子は椅子職人との関係をどのように受け止め、どのような決断を下すのか、その選択が物語の結末に大きな影響を与えます。この章は、人間の心の奥深くにある願望と、それを叶えようとする行動の結果が織りなす複雑な人間模様を描き出しています。

江戸川乱歩「人間椅子」の感想・レビュー

江戸川乱歩の『人間椅子』は、読む者を不可解で深淵な心理の迷宮へと誘う、非常に印象的な作品です。この物語の中心にあるのは、女性作家の佳子と、異常な行動を取る椅子職人の複雑な心理が絡み合った関係です。物語は、日常の風景から一転して、予期せぬ告白と秘密に満ちた世界へと読者を引き込みます。

物語の構成方法において、江戸川乱歩は非常に巧みです。第1章で描かれる佳子の平穏な日常生活から物語はスタートし、彼女が受け取る一通の手紙によって徐々に異常な雰囲気へと誘います。この手紙が物語における転換点となり、以降の展開への期待感を高めます。

特に印象的なのは、第2章と第3章で語られる椅子職人の背景と彼の心情です。彼の孤独と劣等感、そして彼が求める理解と愛情に対する渇望は、人間の持つ普遍的な感情を反映していると感じられます。彼がどのようにして自分自身を椅子の中に閉じ込め、そこから逃れようとするのか、その心理描写は非常に鮮明で、読む者の心に深く刻まれます。

第4章と第5章においては、物語はクライマックスへと向かいます。椅子職人が佳子に対して抱く愛情と、彼女への異常な執着が徐々に明かされていく過程は、恐怖と同情という矛盾した感情を引き起こします。また、佳子の反応と彼女が下す決断は、この異常な状況において人間性がどのように反映されるかを示しています。

『人間椅子』は、ただのサスペンス小説にとどまらず、人間の内面に潜む闇や狂気、そして美しいものへの憧れを描き出しています。江戸川乱歩のこの作品は、その独特の雰囲気と心理的な深みにより、読了後も長く読者の心に残る作品です。読むたびに新たな発見があり、その奥深さに改めて驚かされます。

まとめ:江戸川乱歩「人間椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 女性作家佳子の日常と突然の手紙が物語の始まりを告げる
  • 未知の崇拝者からの手紙と、その中の異常な告白が描かれる
  • 椅子職人の醜い容姿と、豊かな生活への憧れの背景が語られる
  • 椅子職人が特注された椅子の中で隠れ生活を送る経緯が明かされる
  • 椅子の中から世界を観察する独特の体験が展開される
  • 新しい環境での椅子職人の愛情と佳子への深い執着が描かれる
  • 椅子職人の心情と彼の異常な行動の背景に迫る
  • 椅子職人が佳子に送る手紙を通じて明かされる真実
  • 物語の結末へと導く重要な転換点が提示される
  • 江戸川乱歩が示す人間心理の深淵と物語の普遍的なテーマ