接吻(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

江戸川乱歩の短編小説『接吻』の詳細なネタバレをお届けします。新婚の山名宗三が、妻のお花が隠し持つ1枚の写真を発見し、そこから生じる誤解と不安、そして真実を知るまでの物語を5つの章に分けて解説します。

江戸川乱歩ならではの緻密な心理描写と驚愕の展開を楽しむことができるこの作品の魅力を、詳しく掘り下げていきます。結末までの全てを知りたい方、ぜひご覧ください。

この記事のポイント
  • 山名宗三と妻のお花の新婚生活の始まり
  • お花が隠し持つ写真と宗三の疑念
  • お花と村山課長の関係と宗三の誤解
  • 宗三が村山課長と対決し辞職願を提出するまでの経緯
  • 誤解が解けた後の宗三とお花の和解とその後の生活

接吻(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

章1: 新婚生活の始まり

山名宗三は、役所で働いている公務員です。1か月前に結婚したばかりで、妻のお花(おはな)と新婚生活を楽しんでいます。宗三は毎日、仕事が終わる午後4時になるのが待ちきれません。結婚してからは、家に帰るのが一番の楽しみになったからです。

ある日のこと、宗三はいつも通り定時に仕事を終えました。そして、まるで逃げるように急いで職場を飛び出し、家に向かいました。家に着くと、門をくぐり抜けて玄関で靴を脱ぎ、静かに家の中に入りました。今日は妻のお花を驚かせようと考え、抜き足差し足で茶の間(リビングルーム)を覗きました。

茶の間には、お花がいました。お花は夕食の準備を終え、長火鉢(ちょうひばち)の前に座り込んでいました。そして、手には一枚の写真を持ち、その写真に接吻(せっぷん)していました。顔を見ると、今にも泣きそうな表情です。

宗三は驚きましたが、わざと大きな声を出して「ただいま!」と言いました。すると、お花はびっくりして、持っていた写真を帯の中に隠してしまいました。宗三は、何か隠し事があるのではないかと疑い始めましたが、そのまま話を進めることはありませんでした。

その日の夕食は、気まずい雰囲気の中で進みました。お花は何も話さず、宗三も言葉をかけることができませんでした。食事が終わると、お花はそっと物置小屋に入っていきました。宗三は、何をしているのか気になり、障子に開いた小さな穴から物置を覗きました。

宗三が見たのは、お花が物置のタンスの引き出しの中に写真をしまう姿でした。お花が寝静まった真夜中、宗三はそっと起きて物置に向かい、タンスの引き出しから写真を取り出しました。写真を見た瞬間、宗三の心臓はドキドキしました。

その写真には、役所の課長である村山が写っていました。村山は、なぜか澄ました顔をして、こちらを見ているように感じられました。宗三は、何か不穏なものを感じましたが、真実を確かめるまでには至りませんでした。

このようにして、宗三とお花の新婚生活は、ちょっとした謎とともに始まりました。宗三は、お花の気持ちを確かめたいと思いながらも、どうして良いか分からない日々が続くのでした。

章2: 宗三の疑念

夕食が終わり、宗三はまだ心の中に引っかかるものがありました。お花が写真を隠したことが気になって仕方ありません。そのため、お花が何をしているのかを確認しようと、こっそりと後を追いました。お花は、物置小屋に向かっていました。宗三は、物置小屋の障子に開いた小さな穴から中を覗きました。

中では、お花が慎重にタンスの引き出しを開け、一枚の写真をしまっているところでした。その動きを見た宗三は、ますます気になり、真夜中になったら確かめてみようと決心しました。

夜が更けて、お花が完全に寝息を立てているのを確認した宗三は、静かに布団から抜け出しました。薄暗い物置小屋に向かい、タンスの引き出しをそっと開けました。引き出しの中から取り出した写真を見た瞬間、宗三の心臓はドキドキと高鳴りました。

その写真には、役所の課長である村山が写っていました。村山は、なぜか澄ました顔をして上半身をこちらに向けていました。宗三は、この写真が意味するところを考え始めました。お花が村山に何か特別な感情を抱いているのではないかと、不安が頭をよぎりました。

実は、お花は村山の遠縁にあたり、長らく彼の家に居候していたのです。その関係から、お花と村山には深い絆があったのかもしれないと、宗三は思い悩みました。お花と宗三の結婚式では、村山が仲人を務めてくれました。しかし、式に招かれた同僚たちの中には、「上司の御下がりをちょうだいした」と陰口をたたく者もいました。そんな言葉を思い出し、宗三はますます心配になりました。

また、村山は要領よく仕事をこなして昇進を続けており、肩書は課長ですが年齢は宗三とほとんど変わりません。そのため、宗三は村山に対して複雑な感情を抱いていました。さらに、お花は結婚後も頻繁に村山の家を訪れており、この1か月だけでも4〜5回は通っていました。

宗三の頭の中では、美しく笑顔の多いお花と、残念なルックスで愛想のない村山の妻を比べてしまい、不安はどんどん大きくなっていきました。村山の家に通う理由が本当に夫を助けるためなのか、それとも何か他の目的があるのか、宗三には分からなくなってしまいました。

このようにして、宗三の心の中には疑念が広がり、不安と悔しさが入り混じる夜が続くことになりました。宗三は、お花に直接聞く勇気が持てず、ますます孤立した気持ちになっていったのです。

章3: 誤解と不安

お花は村山の遠縁であり、長い間、村山の家に居候していました。そのため、お花と村山には深い絆がありました。宗三とお花が結婚することになったとき、当然のように村山が仲人を務めてくれました。しかし、結婚式に参加した宗三の同僚たちの中には、「上司の御下がりをもらった」と陰口をたたく者もいました。宗三はその言葉を思い出し、不安が募るばかりです。

村山は仕事を要領よくこなしており、昇進も順調に進んでいました。肩書は課長ですが、年齢は宗三とほとんど変わりません。村山が課長であることに対して、宗三はどこか複雑な感情を抱いていました。宗三にとって村山は、尊敬する一方で競争心を抱かせる存在でした。

結婚後もお花は頻繁に村山の家を訪れることが多く、この1か月だけでも4〜5回は通っていました。お花が村山の家を訪れる理由について、宗三は信じたい気持ちと疑いたい気持ちが交錯していました。お花は本当に夫のために村山の家に通っているのか、それとも何か他の理由があるのか、宗三には確信が持てませんでした。

宗三は、お花と村山の関係について不安を抱える日々が続きました。年若く美しく、よく笑うお花と、残念なルックスで愛想のない村山の妻を比べるたびに、宗三の不安は広がっていきます。お花が村山に特別な感情を抱いているのではないかと考えると、胸が痛みました。

ある日、宗三は家で布団の中に潜り込み、ガタガタ震えながら考え事をしていました。不安と寒さで一睡もできないまま夜明けを迎えました。翌朝、お花が差し出したお弁当を引ったくるように受け取り、宗三は一言も口をきかずに自宅を飛び出しました。

宗三は、いつもよりも早く役所に到着し、自分の席に座って村山課長の到着を待ちました。しかし、村山はまだ出勤していませんでした。やがて、高級品の背広に大きな折り畳み式のカバンを抱えた村山が姿を見せると、宗三は理由もなくイライラしてきました。

毎日のように代わり映えのしない仕事、ボロボロになった机の上でアルミ製の弁当箱に入った冷たいご飯、安い月給に虚ろな同僚たちの顔、そして上司への愛想笑い。宗三は、自分の状況に対する不満と、村山に対する不安が混ざり合い、ますますストレスを感じました。

やがて宗三は、村山課長の机の前に呼ばれました。皆の前で、いつものように嫌みったらしい小言が始まりました。村山は、統計の中で一番重要な平均率を出し忘れたことを指摘しました。その瞬間、宗三はびっくりするような大声を出して村山の手から書類を奪い取り、自分の席に戻りました。

宗三は、机の引き出しから真っ白な紙を取り出し、太い筆で「辞職願」と書きました。そして、その紙を面食らった様子の村山の前に叩きつけました。宗三は決意しました。村山課長と衝突して役所を辞めたこと、今日を境にして村山家に出入りすることをやめること、そして昨夜見つけた村山の写真をこちらに渡すことを。

午前11時というあり得ない時間に帰ってきた宗三が訳の分からないことを言い出したために、お花はあっけに取られてしまいました。宗三の突然の行動に驚いたお花は、一瞬で真相を悟りました。そして、お花は宗三の腕を引っ張り、物置小屋へと連れて行きました。

お花は、正面のタンスの扉についている鏡を見せました。昨夜、タンスの扉を閉め忘れて、たまたま45度の角度で障子の穴の前で止まっていたため、鏡の中に宗三が写真をしまった左側のタンスが映り込んでいたのです。夜になると物置の中は薄暗くなり、ふたつのタンスの形も似ているため、宗三が勘違いしてしまったのも無理はありませんでした。

お花が村山のもとに足しげく通っていたのも、すべては夫を出世させたかったからです。宗三は、お花の本当の気持ちを知り、安心しました。そして、お花が自分の写真を抱きしめたり、接吻していたことを思い出し、宗三は嬉しい気持ちになりました。

章4: 行動と対決

宗三は、お花の行動に対する疑念と不安が膨らむ中で、ある晩決心しました。真夜中にお花が寝静まったのを確認してから、彼は物置小屋に向かい、お花が写真をしまったタンスの引き出しを開けました。その中には、村山課長が写った写真がありました。村山が澄ました顔でこちらを見ている写真を見た宗三は、心がざわつきました。

翌朝、宗三は一睡もできずに朝を迎えました。お花が用意してくれたお弁当を受け取りましたが、一言も口をきかずに家を飛び出しました。宗三の胸の中には怒りと不安が渦巻いていました。いつもよりも早く職場に到着し、自分の席に座って村山課長が来るのを待ちました。

村山課長は、いかにも高級品の背広を着て、大きな折り畳み式のカバンを抱えて出勤してきました。その姿を見た宗三は、理由もなくイライラしてきました。村山課長が仕事を始めると、宗三の気持ちはますます不安定になりました。毎日のように代わり映えのしない仕事、ボロボロになった机の上で冷たい弁当を食べる自分の姿が、さらに虚しさを感じさせました。

やがて、村山課長が宗三の机の前に呼びました。皆の前で、村山課長はいつものように嫌みったらしい小言を始めました。今回は、統計の中で一番重要な平均率を出し忘れたことを指摘しました。その瞬間、宗三の中で何かが切れました。大声を上げて村山の手から書類を奪い取り、自分の席に戻りました。

宗三は、机の引き出しから一枚の真っ白な紙を取り出し、太い筆で「辞職願」と書きました。そして、その紙を驚いた様子の村山の前に叩きつけました。宗三は決意しました。村山課長と衝突して役所を辞めること、今日を境にして村山家に出入りすることをやめること、昨夜見つけた村山の写真を渡すことを宣言しました。

その日の午前11時、宗三は家に帰ってきました。こんな時間に帰ってきた宗三を見て、お花は驚きました。宗三は訳の分からないことを言い出しましたが、お花はすぐに真相を悟りました。そして、お花は宗三の腕を引っ張り、物置小屋へと連れて行きました。

お花は、物置のタンスの前に立ちました。そして、タンスの扉についている鏡を指さしました。昨夜、タンスの扉を閉め忘れたため、45度の角度で障子の穴の前で止まっていて、鏡の中に宗三が見たタンスが映り込んでいたのです。宗三が見たのは、実際には別のタンスであり、お花が写真をしまっていたわけではありませんでした。

お花は村山のもとに足しげく通っていたのも、すべては夫である宗三を出世させるためでした。お花の本当の気持ちを知った宗三は、安心しました。そして、お花が自分の写真を抱きしめたり、接吻していたことを思い出し、宗三は嬉しい気持ちになりました。こうして、宗三の誤解は解け、お花との関係も元に戻りました。

章5: 誤解の解消と和解

お花が宗三の疑念を解くために、物置小屋に連れて行ったとき、彼女はタンスの扉についている鏡を指さしました。昨夜、タンスの扉を閉め忘れたために、45度の角度で障子の穴の前で止まっていました。これにより、鏡の中にもう一つのタンスが映り込んでいたのです。宗三が見たのは、実際には別のタンスであり、お花が村山の写真をしまっていたわけではありませんでした。

夜になると物置の中は薄暗く、二つのタンスの形も似ているため、宗三が勘違いしてしまったのも無理はありませんでした。お花は、夫が見た光景が誤解であることを説明しました。

「本当にごめんなさい、宗三さん。私はただ、あなたを出世させたかっただけなのです。村山さんの家に通っていたのも、そのための話し合いをしていたからです。」お花は涙を浮かべながら、真摯に説明しました。

宗三は、お花の言葉を聞いて深く反省しました。お花が自分のために努力してくれていたことを知り、彼女の愛情を改めて感じました。宗三はお花に謝り、「ごめん、お花。俺は君を信じるべきだった。これからはもっと君を信じるよ。」と、心から謝罪しました。

お花も宗三の言葉に涙を流しながら、「ありがとう、宗三さん。これからも一緒に頑張りましょう。」と答えました。二人はしっかりと抱き合い、誤解が解けたことで再び信頼を取り戻しました。

その後、宗三は役所に戻り、辞職願を撤回しました。村山課長も事情を理解し、宗三に対して温かく接してくれました。村山課長は、「これからも頑張ってくれ、宗三君。お花さんも君を応援している。」と励ましました。

お花は、村山の家に通うことがなくなりましたが、夫婦での時間を大切にしながら、お互いに支え合うことを誓いました。宗三は、お花の愛情を胸に刻み、仕事にも一層励むようになりました。

こうして、宗三とお花の新婚生活は、再び平和で幸せな日々に戻りました。お互いの信頼と愛情が深まったことで、二人の絆はより強固なものとなりました。宗三は、今後もお花を大切にし、共に歩んでいくことを決意しました。

接吻(江戸川乱歩)の感想・レビュー

『接吻』は、江戸川乱歩ならではの緊張感あふれる作品です。物語の中心にあるのは、新婚生活を送る山名宗三と妻のお花の間に生じた誤解と、その誤解が解けるまでの過程です。

まず、宗三が家に帰るシーンから始まるこの物語は、家庭内の小さな違和感から大きな疑念へと発展する様子が非常にリアルに描かれています。お花が写真に接吻している場面を目撃した宗三の心情は、多くの読者が共感できるものです。日常の中に突然現れる不安や疑念が、どのように人の心を揺さぶるのかが巧みに表現されています。

宗三が真夜中にお花が隠した写真を確認するシーンは、スリルとサスペンスに満ちています。写真に写っていたのが役所の課長・村山であったことが、物語をさらに複雑にし、読者の興味を引きつけます。村山とお花の関係についての背景説明も、二人の過去と現在の繋がりを深く理解する手助けとなります。

また、村山課長に対する宗三の複雑な感情も見どころです。仕事の上下関係や昇進に対する嫉妬心が絡み合い、宗三の心の中で村山に対する不満が増幅していく様子は、非常に人間味がありリアルです。

物語のクライマックスでは、宗三が村山と対立し、辞職願を提出するという大胆な行動に出ます。このシーンは、宗三の心の中で積もり積もった不安と怒りが爆発する瞬間であり、読者に強い印象を与えます。

最後に、誤解が解けた後の宗三とお花の和解のシーンは、非常に感動的です。お花が夫のために努力していたことを知り、宗三が深く反省する様子は、夫婦の絆の大切さを教えてくれます。二人が再び信頼を取り戻し、共に歩んでいく決意をする場面は、読者に温かい気持ちをもたらします。

この作品は、誤解と和解、そして夫婦の絆をテーマにした非常に感動的な物語です。江戸川乱歩の巧みな筆致が、読者を物語の世界に引き込み、最後まで目が離せなくなります。

まとめ:接吻(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

上記をまとめます。

  • 新婚の山名宗三と妻お花の紹介
  • 宗三が仕事を終えて急いで家に帰る
  • お花が写真に接吻している場面を目撃する宗三
  • お花が物置に写真を隠すのを確認する宗三
  • 真夜中に宗三が写真を取り出して確認する
  • 写真に写る村山課長に対する宗三の疑念
  • 村山課長とお花の関係についての説明
  • 宗三が村山課長に対する不満と対立
  • 宗三が辞職願を提出し、お花に事情を話す
  • 誤解が解けて夫婦の絆が深まる結末