『がらんどう』は、35歳の独身女性・田中美咲が同居人で友人の菅沼愛子との日常を描いた物語です。
菅沼は亡きペットのフィギュアを3Dプリンターで作る副業をしており、二人は共にアイドルグループ「KI Dash」を応援する仲です。しかし、菅沼がアイドルの結婚にショックを受けたことで、二人の関係や自身の生き方に変化が生じます。
美咲はマッチングアプリを通じて自身の恋愛観と向き合い、最終的に卵子凍結の更新をやめる決断をします。
- 田中美咲と菅沼愛子の同居生活
- 菅沼が副業で行う3Dプリンターでのフィギュア制作
- 二人がアイドルグループ「KI Dash」のファンであること
- 菅沼がアイドルの結婚にショックを受ける場面
- 美咲が卵子凍結の更新をやめる決断に至る経緯
「がらんどう」の超あらすじ(ネタバレあり)
〈わたし〉、田中美咲(たなか みさき)は、小さな印刷会社で経理の仕事をしている35歳の女性です。東京の郊外にあるマンションで、少し年上の友人である菅沼愛子(すがぬま あいこ)と一緒に暮らしています。菅沼さんは、本職はシステムエンジニア(SE)ですが、副業で3Dプリンターを使って、亡くなったペットのフィギュアを作っています。この日は、彼女がリビングで、依頼を受けた犬のフィギュアを作っていました。
菅沼さんはこの副業で、飼い主の思い出を形にする仕事をしています。多くの依頼があり、彼女の手によってペットたちの姿が再現され、飼い主の元へと送られていきます。〈わたし〉はその様子を見ながら、仕事に出かけます。
〈わたし〉が勤める印刷会社は、小さな企業で、毎日満員電車に揺られて通勤しています。この日は、会社で期首飲み会が行われましたが、〈わたし〉はあまり参加したくない気分でした。会議室での飲み会が終わった後、経理課長の近藤亮(こんどう りょう)さんから、余った缶チューハイやビールを持って帰るように勧められました。雑談の中で、近藤さんは〈わたし〉に同居人がいると聞いて、「もしかして恋人?」と勘違いしましたが、そうではなく、ただの友人であることを説明しました。
退社後、〈わたし〉は近所のコンビニに寄り、菅沼さんから頼まれていたトイレットペーパーを買い、帰宅しました。帰宅後、菅沼さんとささやかな夕食を楽しみながら、持ち帰った缶チューハイとビールを一緒に飲みました。
その夜、〈わたし〉と菅沼さんはリビングで一緒にDVDを鑑賞することにしました。二人で見たのは、二人組のアイドルグループ「KI Dash」のコンサート映像です。〈わたし〉は、このグループの五十嵐翔太(いがらし しょうた)くんのファンであり、菅沼さんはこばっちこと、小林一郎(こばやし いちろう)さんの熱烈なファンです。「KI Dash」は20年以上もアイドル活動を続けており、年齢を重ねながらも若手アイドルに負けないようにダンスの腕を磨いています。
菅沼さんとの出会いは6年前です。当時、〈わたし〉が勤める印刷会社に、新しい事務システムを導入することになり、システム会社の社員としてやってきたのが菅沼さんでした。偶然にも、〈わたし〉と同じ「KI Dash」のファンであることがわかり、そこから親しい友人となりました。
菅沼さんと一緒に住むことを決めたとき、〈わたし〉は悩みました。結婚を諦めることを意味しているのではないかと感じたからです。しかし、これまで〈わたし〉は男性に対して特別な感情を抱いたことがなく、そのため大きな問題にはならなかったのです。また、菅沼さんも両親の不仲を目の当たりにして育ったため、絶対に結婚しないと決めていました。
ある朝、〈わたし〉が目を覚ますと、菅沼さんがショックを受けているのを見つけました。どうやらこばっちが、15歳年下のグラビアアイドルと結婚したというニュースを知り、深く落ち込んでいたのです。菅沼さんを元気づけるため、〈わたし〉は彼女と一緒に熱海へ小旅行に出かけることにしました。
二人は熱海に向かい、まずは海を見に行きました。菅沼さんが「海を見たい」と言ったからです。〈わたし〉は、熱海の海がさびれていると思い込んでいましたが、意外にも海は海水浴客で賑わっていました。水着姿の若い女性たちが楽しそうにしている姿を見て、〈わたし〉は自分が女性としての自覚を持つことに対して、嫌悪感を抱きます。
その後、二人は予約しておいた古めかしい宿に泊まりました。大浴場でリラックスしながらも、〈わたし〉は昼間の女性たちを見た時のような生々しい感情は感じませんでした。菅沼さんはガリガリに痩せており、〈わたし〉は自分の下半身にたっぷりとついた贅肉を感じながら、複雑な思いを抱きます。
夜、二人は宿のバーに行き、「KI Dash」のことを話していると、隣に座っていた中年の男性が話に割り込んできました。彼の視線が自分を「女性」として見ているようで、〈わたし〉は嫌悪感を覚えます。その後、翌日は二人とも仮病を使って会社を休み、東京へ戻りました。
東京に戻った〈わたし〉は、マッチングアプリで知り合った男性、田辺祐樹(たなべ ゆうき)さんとメールをやり取りするようになりました。田辺さんとは、メールのやり取りをするうちに、徐々に親しくなりました。メールのやり取りならば、〈わたし〉も気楽にできると自分に言い聞かせています。
やり取りが進む中で、田辺さんから食事に誘われ、〈わたし〉はドキドキしながらも、思い切って会うことにしました。池袋で待ち合わせた二人は、食事をしながら会話を楽しみました。田辺さんは外見は普通でしたが、気さくなおしゃべりで、気まずさはありませんでした。
ところが、1時間ほどすると、田辺さんが突然〈わたし〉の転職を応援すると言い出し、自分の師に会ってほしいと提案してきました。〈わたし〉は、これがマルチ商法の勧誘ではないかと疑い、田辺さんとの関係を続けることができないと感じます。男性に対する嫌悪感が再び強まった〈わたし〉は、自分自身に問題があるのだと感じるようになります。
マンションに戻った〈わたし〉は、菅沼さんに田辺さんとの出来事を話しました。その流れで、実は35歳から卵子を凍結保存していることを打ち明けました。毎年一回、保存を更新するかどうかの問い合わせが来ており、今年どうするか迷っていると菅沼さんに話しました。
その後、季節が変わり、涼しくなりました。このところ菅沼さんは、週末になると外泊することが増えました。〈わたし〉が問い詰めると、菅沼さんは熱海で話しかけてきた男性と不倫関係にあることを告白しました。〈わたし〉は強い嫌悪感を覚えましたが、それ以上何も言えませんでした。
しばらくして、菅沼さんが3Dプリンターで何か作ってほしいものはないかと訊いてきました。〈わたし〉は赤ちゃんのフィギュアを作ってほしいと頼みましたが、しばらくすると、赤ちゃんのフィギュアの失敗作ができて
いました。菅沼さんはそれをお焚き上げの箱に入れていましたが、〈わたし〉はその出来損ないのフィギュアで満足してしまいます。自分が本当に子供を欲しいと思っていた気持ちは、その程度のものでしかなかったのです。
そして、〈わたし〉は卵子の保存更新をやめることに決めました。自分の卵子が天国へ行き、菅沼さんが作った失敗したフィギュアと共に、安らかに過ごしてほしいと願いながら、物語は静かに終わります。
「がらんどう」の感想・レビュー
『がらんどう』を読んで感じたのは、田中美咲と菅沼愛子の関係がとてもリアルであることです。二人は同居していますが、それぞれが持つ個性や価値観の違いが細やかに描かれていて、共感を覚えました。菅沼さんが亡くなったペットのフィギュアを3Dプリンターで作る仕事に情熱を注いでいる様子や、美咲と一緒にアイドルグループ「KI Dash」を応援する場面では、友情の温かさを感じました。
特に印象的だったのは、美咲が自身の恋愛観と向き合う場面です。マッチングアプリで知り合った田辺祐樹とのデートを通じて、彼女が自分の内面と対話し、恋愛に対する不安や疑念を抱く様子は、多くの人が共感できる部分だと思います。美咲が卵子の凍結保存をしていたという事実を菅沼さんに打ち明ける場面では、自分の将来や選択について深く考えるきっかけが描かれています。
また、菅沼さんがアイドルの結婚にショックを受け、二人で熱海に出かけるシーンは、現実の生活で直面する悩みや傷心を友人と共有し、支え合う大切さが伝わってきます。美咲が最後に卵子凍結の更新をやめる決断をするシーンは、自分の選択に責任を持ち、前に進む姿勢が感じられ、感動しました。
全体を通じて、現代社会における女性の生き方や選択の難しさが繊細に描かれており、共感とともに考えさせられる作品でした。二人の友情や、それぞれが抱える内面の葛藤が丁寧に描かれている点が、とても良かったです。
まとめ:「がらんどう」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 田中美咲は35歳の独身女性である
- 美咲は友人の菅沼愛子と同居している
- 菅沼は3Dプリンターでペットのフィギュアを作る副業をしている
- 美咲と菅沼はアイドルグループ「KI Dash」のファンである
- 菅沼はアイドルの結婚にショックを受ける
- 二人は熱海への小旅行を通じて関係を深める
- 美咲はマッチングアプリで男性とやり取りする
- 田辺祐樹とのデートで美咲は自分の恋愛観に気づく
- 美咲は卵子の凍結保存を行っているが更新をやめる決断をする
- 美咲は自身の生き方に疑問を持ちながらも決意を固める