
「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」のあらすじ(ネタバレあり)です。「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」未読の方は気を付けてください。ガチ感想も書いています。この物語は、猟奇的な事件に次々と遭遇する新人刑事、藤堂比奈子の成長と苦悩を描く人気シリーズの第7弾にあたります。聖夜に発生した病院での大量殺戮という衝撃的な事件から幕を開け、読者を一気に物語の世界へと引きずり込みます。
物語の序盤では、高度なセキュリティが施されたはずの病院が、なぜかくも容易に襲撃されたのか、そして犯人たちの真の目的は何なのかという大きな謎が提示されます。比奈子をはじめとする捜査班は、事件の異常性と犯行グループの冷酷さに直面し、困難な捜査へと乗り出すことになります。シリーズを通して描かれてきた比奈子の持つ特殊な能力や、彼女を取り巻く個性的なキャラクターたちとの関係性も、この事件の捜査に深く関わってきます。
特に注目すべきは、天才プロファイラー中島保の存在です。彼は過去に事件を起こし、現在は警察に捜査協力をするという形で軟禁状態にありますが、その卓越した分析力は今回も健在です。比奈子と中島の間に流れる複雑で危うい感情の交錯は、事件の謎解きと並行して物語に深みを与えています。この病院襲撃事件が、単なる大量殺人ではない、より大きな闇へと繋がっていることを予感させます。
本作「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」では、これまでのシリーズで描かれてきた個別の猟奇事件とは異なり、より組織的で強大な敵の影がちらつきます。比奈子たちが立ち向かうことになる相手は、単なる狂気だけでは説明できない、冷徹な知性と計画性を持った集団です。物語の結末に向けて、息詰まるような緊張感と、今後の展開への大きな期待を抱かせる内容となっています。
「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」のあらすじ(ネタバレあり)
クリスマスの静寂を切り裂くように、都内の総合病院で凄惨な大量殺人事件が発生します。藤堂比奈子が所属する八王子西署刑事組織犯罪対策課の面々が現場に急行すると、そこにはプロの手口による迅速かつ冷酷な犯行の痕跡が残されていました。この病院には、極秘裏に特殊な受刑者たちが収容されている特別病棟が存在しており、襲撃のターゲットがこのフロアであったことから、捜査は開始早々、多くの疑問符に直面します。厳重なはずのセキュリティがいかにして破られたのか、そして犯人たちの真の狙いは何なのか。比奈子たちは、連絡の取れない病院スタッフの中に内通者がいるのではないかと推測を立てます。
捜査が進む中、おぞましい状態の遺体が発見されます。眼球を抉り取られ、両手首を切断されたその遺体は、行方不明となっていた看護師長の成増サヤ子のものでした。ほぼ時を同じくして、青海埠頭のコンテナからは、同様に眼球と手首を奪われた男性の遺体が見つかります。こちらは特殊病棟の事務長、大堀淳二と判明。検死を担当した「死神女史」こと石上妙子によれば、大堀の遺体には拷問の痕跡があり、彼が先に殺害された可能性が示唆されます。ここから、犯人たちは病院の虹彩・掌紋認証システムを突破するために、大堀の眼球と手首を利用したのではないかという推論が成り立ちますが、なぜ看護師長まで同じような殺され方をしたのかという謎が残ります。
比奈子は、事件の真相に迫るため、日本精神・神経医療研究センターに軟禁されている天才プロファイラー、中島保に助言を求めます。中島は、かつて事件を起こした過去を持ちながらも、その類まれな洞察力で警察の捜査に協力しており、比奈子とは互いに惹かれ合う許されない関係にありました。中島のプロファイリングにより、看護師長が同様の殺され方をしたのは事件の攪乱目的である可能性、犯人像が自己顕示欲の強い自信家であること、そして複数犯である可能性が高いことなどが示唆されます。一方、地道な捜査により、捜査班はSNSの書き込みから渡嘉敷和樹という派遣社員に辿り着きます。彼は事件の主犯格とは思えないものの、組織の末端に位置する人物であると推測されました。
捜査班はついに渡嘉敷和樹の居場所を突き止め、大量殺人事件の全容解明に向けて大きく前進したかに思われました。しかし、渡嘉敷を確保しようとした矢先、彼は突如体調を急変させ死亡してしまいます。彼の所持していた携帯電話の解析から犯人グループのアジトが判明し、捜査員たちが突入しますが、そこはもぬけの殻。残されていたのは訓練の痕跡と、奪われた眼球や手首だけでした。結局、警察上層部の判断により、一連の事件は渡嘉敷の単独犯行として、被疑者死亡で処理されることになります。しかし数日後、石上妙子は比奈子と上司の厚田に対し、医学的見地から衝撃的な指摘をします。渡嘉敷は薬物投与により口封じのために殺害されたこと、事務長への拷問は特別病棟にいる「ある人物」の情報を引き出すためであり、看護師長も同様の目的で殺害された可能性が高いこと。そして、その「ある人物」こそ、中島保なのではないかという戦慄すべき可能性が、彼らの胸に重くのしかかるのでした。
「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」の感想・レビュー
内藤了先生が描く「猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」シリーズは、その名の通り、常軌を逸した猟奇的な事件と、それに立ち向かう刑事たちの姿を克明に描き出し、多くの読者を魅了してきました。その中でも、シリーズ第7弾となる「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」は、これまでの物語のスケールを一段と押し上げ、シリーズ全体の核心に迫ろうとする大きな転換点となる作品だと感じました。読後、心に残るのは、息苦しいほどの緊張感と、これから比奈子たちが直面するであろう、より深く、より巨大な闇への予感です。
まず、この物語の冒頭で描かれる聖夜の病院襲撃事件は、その残虐性と計画性の高さにおいて、読者に強烈なインパクトを与えます。クリスマスの華やかな雰囲気とは対照的な、冷え冷えとした犯行現場の描写は、ページをめくる手を思わず止めさせ、これから始まる捜査がいかに困難なものであるかを予感させます。犯人グループの目的が、当初は病院に収容されていた特殊な受刑者たちにあるかのように見せかけながら、物語が進むにつれて、その背後にあるさらに大きな陰謀の存在が示唆されていく展開は、実に巧みです。単なる快楽殺人や個人的な怨恨といった動機では説明がつかない、組織的で冷徹な知性を感じさせる敵の出現は、これまでのシリーズ作品とは一線を画す脅威として、比奈子たちの前に立ちはだかります。
この作品の大きな魅力の一つは、やはり主人公である藤堂比奈子のキャラクター造形とその成長でしょう。彼女は、凄惨な事件現場を目の当たりにしても動じることなく、むしろそうした状況でこそ鋭敏な感覚を発揮するという、刑事としては稀有な資質を持っています。しかしそれは、彼女が感情を持たない人間だからではなく、むしろあまりにも強い感受性ゆえに、自分自身を守るためにある種の「スイッチ」を入れているかのように見えます。本作でも、彼女のその危ういバランスの上になりたつ精神状態や、時折見せる人間的な弱さ、そして同僚や上司との絆を通じて成長していく姿が丁寧に描かれています。特に、天才プロファイラー中島保との関係性は、このシリーズを語る上で欠かせない要素です。許されないと知りながらも惹かれ合う二人の姿は、切なくも美しく、そして常に危険と隣り合わせです。中島の持つ並外れた知性が、時に比奈子を助け、時に彼女を更なる深淵へと引きずり込む可能性を秘めているという緊張感が、物語全体を覆っています。本作では、その中島の知性が、正体不明の敵対組織から狙われている可能性が色濃く示唆され、比奈子の個人的な感情と刑事としての使命感が、より一層複雑に絡み合っていくことになります。
脇を固めるキャラクターたちも、それぞれに個性的で魅力的です。比奈子のよき理解者であり、時に厳しく指導する上司の厚田。鋭い観察眼と確かな腕を持ち、「死神女史」の異名を持つ検死官の石上妙子。彼女の冷静沈着な分析と、時折見せる人間味あふれる表情は、物語に奥行きを与えています。また、過去のシリーズに登場した人物たちが、本作でも重要な役割を担って再登場する点も見逃せません。例えば、石上先生がかつて心を寄せた法医昆虫学者のジョージや、比奈子を殺そうとした過去を持つ少年・永久など、彼らが収容されている日本精神・神経医療研究センターの存在自体が、この物語の世界観に独特の深みと不穏さを加えています。これらのキャラクターたちが織りなす人間ドラマもまた、猟奇的な事件の捜査という骨太なストーリーと並行して、読者を引き込む大きな力となっています。
本作「BACK 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」で描かれる事件は、その手口の残忍さもさることながら、犯人グループの目的が最後まで明確には明かされない点に、底知れぬ不気味さを感じさせます。眼球や手首を奪うという行為は、単なる猟奇的な趣味や儀式的な意味合いだけでなく、病院のセキュリティシステムを突破するための実利的な目的があったことが示唆されます。しかし、それだけでは説明がつかない部分も多く、特に看護師長が同様の殺され方をした理由については、中島のプロファイリングによって「カムフラージュ」という仮説が提示されるものの、どこか釈然としないものが残ります。そして物語の終盤、渡嘉敷和樹という実行犯の一人が捕まる寸前で口封じのために殺害され、警察上層部によって事件が早々に幕引きされてしまう展開は、読者に大きな不満と無力感を抱かせると同時に、この事件の背後にある組織がいかに強大で、警察内部にまで影響力を及ぼしている可能性があるのかを暗示しています。この「敗北感」こそが、本作の大きな特徴であり、シリーズが新たなステージへと突入したことを強く印象づけるのです。
石上先生が最後に指摘する三つの点は、この「敗北」の先に待ち受ける、さらに大きな脅威を明確に示しています。渡嘉敷が薬物で殺害されたという事実は、組織の冷酷さと用意周到さを物語っています。そして、事務長や看護師長が拷問・殺害された真の理由が、特別病棟にいる「ある人物」の情報を引き出すためであり、その人物が中島保である可能性が高いという推測は、読者の背筋を凍らせるに十分です。中島の類まれな知性が、悪の手に渡ってしまったらどうなるのか。その想像は、比奈子や厚田が感じるであろう恐怖と絶望を、読者にも共有させます。かつて、海外で特殊な能力を持つ者たちを集め、軍事利用しようとした国家があったという話も引き合いに出されていましたが、そうしたSF的な設定が、本作の持つリアリティラインの中で妙な説得力を持ち始めている点も興味深いです。
この作品を読み終えて感じるのは、もはや藤堂比奈子という一人の刑事の物語ではなく、彼女を取り巻く社会全体、あるいは国家レベルの陰謀との戦いが始まろうとしているのではないか、という壮大な予感です。プロの犯罪集団、その手口の巧妙さ、そして彼らが狙うであろう中島保という存在。これらが絡み合い、物語はますます予測不可能な方向へと進んでいくでしょう。比奈子は、愛する中島を守り抜くことができるのか。そして、この巨大な敵に、刑事として、一人の人間として、どのように立ち向かっていくのか。次なる展開への期待は、否が応でも高まります。
「BACK」というタイトルもまた、様々な意味に解釈できるのではないでしょうか。過去の事件が再び浮上してくる「バック・トゥ・ザ・パスト」的な意味合いなのか、あるいは敵が「背後」から忍び寄ってくる脅威を示唆しているのか。もしかすると、比奈子自身が何かから「後退」を余儀なくされる状況を示しているのかもしれません。いずれにせよ、この一言に込められた意味を考えながら読み進めるのも、一興でしょう。
猟奇的な描写は確かに目を背けたくなる部分もありますが、それ以上に、人間の心の闇や、組織の非情さ、そしてその中で必死に正義を追求し、大切な人を守ろうとする登場人物たちの姿に心を揺さぶられます。スピーディーな展開と、ページをめくる手が止まらなくなるような謎解きの連続は、エンターテイメント作品としての完成度の高さを証明しています。しかしそれだけではなく、読後に深い余韻と、ある種の不安感を残すこの物語は、単なる娯楽小説の枠を超えて、私たちに何かを問いかけてくるような力強さも秘めているように感じられました。この先のシリーズ展開から、ますます目が離せません。比奈子たちの戦いが、どこへ向かうのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。
まとめ
- 聖夜の病院で、プロの手口による大量殺人事件が発生。
- 狙われたのは、特殊な受刑者を収容する極秘の病棟だった。
- 眼球と手首を奪われた看護師長と事務長の遺体が発見される。
- 事務長は虹彩・掌紋認証突破のため、看護師長は攪乱のために殺害されたと推測。
- 藤堂比奈子は、軟禁中の天才プロファイラー中島保に協力を仰ぐ。
- 捜査線上に浮上した実行犯の一人、渡嘉敷和樹は逮捕直前に謎の死を遂げる。
- 事件は被疑者死亡で処理されるが、渡嘉敷は口封じで殺害された可能性が浮上。
- 検死官の石上妙子は、犯人たちの真の狙いが中島保である可能性を指摘。
- 強大な犯罪組織の存在が示唆され、比奈子たちは新たな脅威に直面する。
- 物語は、中島の身변に危険が迫る不穏な状況で幕を閉じる。