辻村深月「サクラ咲く」の超あらすじ(ネタバレあり)

「サクラ咲く」は辻村深月による感動的な中学生の成長を描いた小説です。本作は、内気な女子中学生、塚原マチが主人公で、彼女が人との関係を通じて自己変革を遂げる過程を繊細に、かつ力強く描いています。

本記事では、その超あらすじ(ネタバレあり)を紹介していきますので、物語の全貌を知りたい方や、深い感動を求める読者にとって貴重な情報源となることでしょう。塚原マチの成長の旅路に寄り添いながら、彼女が如何にして自分の殻を破り、新たな自分を発見していくのかを追います。

この記事のポイント
  • 塚原マチの性格と彼女がどのようにして内向的な性格から自信を持った中学生へと成長するかの過程。
  • マチが顔も知らない文通相手との交流を通じて得る精神的な成長と自己発見。
  • 文通相手の正体が明かされる瞬間と、それがマチの人間関係や自己認識にどのように影響を与えるか。
  • 物語のクライマックスである、紙音の声楽とマチの友情が花開くシーンとその感動的な描写。

## 辻村深月「サクラ咲く」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章:見えない友達との出会い

中学校に入学したばかりの塚原マチは、幼い頃から内気な性格で、人から何かを頼まれるとなかなか断ることができません。新しい環境でもその性格は変わらず、入学式から2週間後の学級委員の役員決めの際に、小学校からの知り合いである光田琴穂に書記の役を押し付けられてしまいます。

その日、自ら立候補して委員長となった守口みなみは、活発で人懐っこい性格の持ち主です。みなみはマチとは対照的なタイプでありながら、学級委員としての行事を通じて徐々に二人は仲良くなっていきます。ある日の放課後、みなみに誘われて訪れたのは、入学してからほとんど学校を休んでいる高坂紙音の家でした。マチは彼女の母親に授業のノートやプリントを手渡しますが、紙音本人には会うことができません。

一方、マチは読書が大好きで、授業が始まる前にはよく図書室を訪れるようになります。特に外国文学に興味があり、その日も外国文学の棚を眺めていたマチは、自分のお気に入りの作者リザ・テツナーの作品「黒い兄弟」を見つけて手に取ります。そのページをめくると、そこから1枚の紙が落ちてきます。「サクラチル」と書かれたその紙を見つけたことから、マチは顔も知らない相手と、本と手紙を介して心を通わせるようになります。この不思議な出会いが、マチの中学生活に新たな風を吹き込むことになるのです。

第2章:秘密の文通

夏休みが終わり、新学期が始まってからも、マチは図書室での秘密の文通を続けていました。文通の相手は依然として不明で、本の間に挟まれた手紙を通じて、互いの思いや読んだ本について語り合います。本の貸出記録カードを見る限り、日付とマチと同じ1年5組と記されていますが、名前は書かれていません。この謎の相手に対する好奇心が、マチの日々を少しずつ変えていきます。

図書室では、読書が大好きなみなみと一緒に過ごす時間が増えていました。二人はよく一緒に本の話をしながら、新しい小説を探したり、読んだ感想を交わしたりしていました。マチはいつも明るくて友達思いのみなみが、もしかしたら自分だけの文通相手かもしれないと、密かに期待していました。

また、マチは科学部にも所属しており、同じ部活のメンバーである海野奏人も文通の可能性がある人物として思い浮かびます。奏人は科学者の父親を持ち、自然科学だけでなく文学にも興味が深いことで知られています。彼の名前はしばしば貸出カードに見られ、その筆跡はとても几帳面で整っていました。

夏休み中に行われた自由研究では、みなみ、奏人、マチでグループを組み、一緒にプロジェクトを進めていたことがあります。その時に見た奏人の筆跡が、手紙に書かれた文字と似ていることから、マチはさらに奏人を疑い始めました。

学校が始まってからも、マチは日直当番の際に学級日誌と図書室の手紙の筆跡を比較してみましたが、完全に一致するものは見つかりませんでした。この不確かな推測が、マチの心にときめきと同時に小さな不安をもたらしていたのです。それでも彼女は文通を続けることで、多くの本を読む機会を得て、次第に自分の世界を広げていくことになります。

第3章:自己変革と告白

見えない「誰か」からのアドバイスを受けているうちに、マチは自然と積極的な性格に変わっていきました。手紙のやり取りを通じて、自分の考えを表現することの大切さや、他人とのコミュニケーションの楽しさを学びます。これが、学校生活や友人関係においてもポジティブな影響を与えることになります。

1年5組が文化祭で歌う曲目が「遠い日の歌」に決まった際、琴穂がソプラノパートのリーダーに選ばれましたが、彼女はなかなかやる気を出しません。その様子を見かねたマチは、はっきりと琴穂に注意をして、練習をまとめるきっかけを作ります。これまでのマチなら考えられない行動ですが、手紙の交流が彼女に自信を与えていたのです。

バレンタインデーの日、マチは奏人にチョコレートを渡すために勇気を振り絞ります。告白する瞬間、マチは以前のように周りの人たちから嫌われることや、自分自身が傷つくことを恐れていましたが、文通の経験が彼女を励まし、自分の感情に正直になる勇気を与えました。

告白の結果、奏人もマチの思いに応える形で、二人の関係は一歩進んでいきます。この出来事はマチにとって大きな自己成長の一歩となり、彼女は周囲との関係をよりオープンに築いていく決意を固めます。

これまではひた隠しにしてきた文通のことも、かけがえのない友達となったみなみや奏人たちに打ち明けることができました。皆はマチの秘密を温かく受け入れ、相談に乗ってくれます。マチは自分が本当に何をしたいのか、そして何を大切にすべきかを初めて明確に理解します。そして、自分の名前を相手に伝えることを決意し、新たな一歩を踏み出す準備が整ったのです。

第4章:手紙の送り主の明かし

新たな自信と勇気を持って、マチはついに手紙の相手に「あなたは誰ですか」と問いかける手紙を送りました。数日の間、返信を心待ちにしていたマチのもとに届いたメッセージは、「私は高坂紙音です」というシンプルな一文でした。この返信を受け取ったとき、マチは驚きと同時に、長い間の謎が解けた安堵感を覚えます。

紙音は、以前から学校を休みがちで、クラスメイトともほとんど交流がなかったため、マチは彼女と直接話したことがありませんでした。紙音が声楽教室での失敗により自信を失ってしまい、その後、学校に来ることが困難になっていたことが明らかになります。彼女は音楽の才能はあったものの、一度の失敗が原因で大きな心の傷を負い、学校生活から遠ざかっていたのです。

マチは紙音の勇気ある告白に心を打たれ、彼女への理解と共感を深めます。紙音の話を聞くことで、マチ自身も人との繋がりの大切さを改めて感じ取り、友人たちとの絆をより一層大切にするようになります。また、マチは紙音が再び学校生活に戻ることを支援する方法を考え始めます。

マチ、みなみ、奏人たちは紙音を支え、彼女がクラスに溶け込めるよう努力します。紙音が再び教室に足を踏み入れる日、マチは彼女を温かく迎え入れ、クラスメイトたちにも紙音を受け入れてもらうよう働きかけます。紙音は徐々にクラスの一員として受け入れられ、彼女の孤立感は少しずつ薄れていきます。

第5章:響き渡る紙音の美声と膨らむ桜の蕾

紙音がクラスに再び加わったことで、彼女の周りの空気が徐々に変わり始めます。最初は緊張していた紙音ですが、マチをはじめとするクラスメイトたちの支援と温かい歓迎によって、次第にリラックスし、自分を表現する勇気を取り戻していきます。紙音は特に音楽の授業で自分の才能を発揮し始め、その美しい声はクラスメイトたちを魅了します。

3月のある日、クラスでは3年生を送る会の準備が進められていました。その一環として、クラス全員で「遠い日の歌」を合唱することになります。この合唱の練習を通じて、紙音は積極的にソプラノパートをリードし、その透明感のある歌声がクラス全体に響き渡ります。彼女の歌声に触れた多くのクラスメイトが、紙音を新たな目で見るようになり、彼女の才能と人柄に感動します。

この期間、マチと紙音はますます親密になり、二人の間には深い信頼感が育まれます。紙音が以前に感じていた孤独や不安が、クラスメイトたちの支援と理解によって徐々に和らいでいく様子が描かれます。紙音の変化を目の当たりにしたマチは、人とのつながりがいかに重要かを改めて実感し、自分自身の成長にも繋がります。

そして、春が深まり、校庭の桜が満開になる頃、マチは紙音とともに桜の下で時間を過ごします。二人はこれまでの文通の思い出や、これからの希望について語り合います。桜の花びらが舞う中、紙音はマチに対して文通を通じて得た勇気と希望を感謝します。マチもまた、紙音との出会いが自分にとってどれほど価値のあるものだったかを感じ取り、二人の友情はさらに深まるのです。

辻村深月「サクラ咲く」の感想・レビュー

辻村深月の「サクラ咲く」は、青春小説としての深い魅力と感動を持ち合わせている作品です。この物語の主人公、塚原マチは、多くの読者が共感できる内気な性格の女子中学生です。彼女が自己の殻を破り、次第に自信を持って行動できるようになる過程は、非常に丁寧に描かれており、読む者の心に強く訴えかけます。

特に印象的なのは、マチが秘密の文通を通じて徐々に成長していく様子です。この文通が彼女の内面的な変化を促す重要なキーとなっており、マチが自分の感情や考えを素直に表現する大切さを学ぶシーンは非常に感動的です。また、文通の相手が高坂紙音であることが判明するクライマックスは、予想外の展開として効果的に読者の興味を引きます。

この小説のもう一つの魅力は、友情の描写です。マチと守口みなみ、そして海野奏人との関係は、それぞれが持つ個性と相手への理解が深まることで、よりリアルで心温まるものとなっています。みなみや奏人との関係が変化していく様子も、マチの成長に大きな影響を与えている点が見事に描かれています。

最後に紙音がクラスに受け入れられ、彼女の美しい声がクラスメイトたちをつなぐシーンは、この物語のクライマックスとして最適です。紙音の変化とマチとの友情が花開く様子は、読んでいて心が洗われるような清々しさを感じさせます。

全体を通じて、「サクラ咲く」は青春の葛藤と成長、友情という普遍的なテーマを扱いながら、独自の感動と深みを持った作品となっています。読後感は非常に爽やかで、多くの読者にとって心に残る物語であること間違いなしです。

まとめ:辻村深月「サクラ咲く」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 塚原マチは人から頼まれると断れない内気な女子中学生である
  • 入学式後の役員決めで、書記を押し付けられる
  • 守口みなみという活発な委員長と友情を深める
  • 高坂紙音という休学中のクラスメイトの家を訪れる
  • 図書室で「黒い兄弟」から「サクラチル」と書かれた紙を発見する
  • 新学期も秘密の文通を続けるが、相手は不明のまま
  • 文通を通じてマチの性格が徐々に積極的に変わる
  • バレンタインデーに奏人に告白し、関係が進展する
  • 文通相手が高坂紙音であることが明らかになる
  • 紙音が再び学校生活に参加し、クラスで受け入れられる