
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』のあらすじ(ネタバレあり)です。『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』未読の方は気を付けてください。ガチな意見も書いています。
本作は、深夜帯のテレビドラマとして人気を博した『SP』シリーズの劇場版二部作の前編にあたる作品です。ドラマ版で未解決のまま残された謎に迫り、新たな展開が繰り広げられます。井上薫の特殊能力と、彼を取り巻く人間関係、そして国家を揺るがす陰謀が複雑に絡み合い、観る者を惹きつけます。
主人公であるSPの井上薫は、常人には理解しがたい特殊能力を持つがゆえに、周囲からは異端視されることも少なくありません。しかし、彼を深く理解し、常に支えてくれる存在がいました。それが、彼の上司である尾形総一郎係長です。井上は尾形を深く信頼し、尊敬していましたが、ある時からその尾形に何らかの企みがあることを察知し、そこに危険な何かを感じ取ってしまうのです。この二人の関係性の変化が、物語の大きな軸となっていきます。
映画版ならではのスケールで描かれるアクションシーンも本作の大きな見どころです。街中を舞台にした大追跡劇や、緊迫感あふれる銃撃戦、そしてSPたちの命をかけた格闘が次々と展開されます。単なるアクション映画にとどまらず、登場人物たちの葛藤や思惑が交錯する人間ドラマが深く描かれている点も特筆すべきでしょう。
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』のあらすじ(ネタバレあり)
警視庁警備部警護課第四係のSP、井上薫は、係長である尾形総一郎とともに屋外イベント会場で国土交通大臣の警護に当たっていました。彼は脳の異常活性による特殊能力を持つがゆえに、その能力を理解できない周囲からは異端視されることもありました。しかし、常に自分を理解し、支えてくれる尾形を井上は心から信頼し、尊敬していました。ところが、井上はその尾形が何かを企んでいることを察知し、そこに漠然とした危険を感じ取ってしまうのです。尾形もまた、井上が自分の思惑に気づいていることを理解しており、二人の間にはぎくしゃくとした空気が流れ、同僚SPたちもその異変に気付き始めていました。
大臣のスピーチ中、井上は満員の観客の中に紛れ込む危険人物を発見し、その男を追跡します。男が持っていた傘には爆弾が仕込まれていました。井上は壮絶な追跡の末、地下鉄駅構内でテロ未遂犯を確保します。井上が街中を駆け抜ける様子はメディアで報道され、その映像を見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる男がいました。それは与党幹事長の伊達國雄です。パーティーを終えてホテルの一室に戻った伊達を尾形が訪ねます。井上を除外したい伊達に対し、尾形はその井上を仲間に引き入れると語るのでした。
尾形は夜の公園に井上を呼び出します。そこは井上が小学生の頃、両親がテロに巻き込まれて刺殺された現場でした。尾形は「大義」のために仲間になるよう井上に迫りますが、井上はそれをきっぱりと断り、その場を立ち去ります。離れ行く井上の後ろ姿に向けて、尾形は「残念だよ」とつぶやきます。その後、尾形から「お国入り」する伊達の警護を命じられ、井上たちは任務に当たります。特殊能力の影響で一時的に体調を崩した井上は、トイレで偶然にも伊達と言葉を交わす機会がありましたが、伊達から何も感じ取ることはできませんでした。一方の伊達は、やはり井上を気に食わないと思っていました。伊達の警護を終えて帰庁する途中、井上たちに尾形から緊急命令が下されます。近隣国がミサイルを発射したため、閣僚が急遽招集されることになり、自宅にいる官房長官を首相官邸まで護衛する任務でした。SPを待ちきれずに単独で自宅を出た官房長官を見つけた井上たちでしたが、一本道の前後を車両で挟み撃ちにされてしまいます。
マスク姿のテロリストたちは拳銃を携行しており、官房長官の乗る車両を目掛けて襲いかかります。発砲を受ける中で、SPの笹本絵里は、銃口の向く先が官房長官ではなく井上であることに気づきます。その場を凌いだ井上たちでしたが、移動用車両が使えなくなったため、徒歩で官邸へと移動することになります。しかし、再びテロリストの挟撃を受け、四人いたSPのうち後方警護の二人が深い傷を負ってしまいます。満足に動けるSPは井上と笹本だけになりますが、大格闘の末、辛くもテロリストを制圧します。そこでも一時的にノーガード状態だった官房長官に、テロリストは指一本触れませんでした。官房長官を連れて大通りに出たところで、ボウガンと爆発物を携えたテロリストが現れます。ボウガンに肩を射抜かれてしまった笹本は、長官ガードに専念します。投げられてきた爆発物を、井上は勇敢にも手に取り、テロリストへと投げ返します。夜明け前の大通りを大爆発の炎が染め上げる中、残ったテロリストは逃走していきました。笹本も離脱してしまったものの、井上は官房長官を官邸に送り届ける任務を完遂させます。道中で危険に晒してしまったこと、緊急招集だったのに官邸到着に時間がかかったことを井上は詫びますが、多数のテロリストから身を挺して自分を守ってくれたと信じて疑わない官房長官は、井上らSPに心から感謝するのでした。待機していた警官とともに長官の姿が消えると、その直後、井上の注目が今までとは正反対にある遠方へと向けられます。狙っているのなら撃ってみろと大きな身振りの井上をスコープが捉えています。遠くのビルからスナイパーが井上を撃てる体勢にあり、そのスナイパーは最近になって尾形のスカウトで入ってきたSPだったのです。当初はもちろん撃ち殺すつもりだったスナイパーですが、スコープ越しの遠距離にもかかわらず、井上に気圧されたのか、まったく引き金を動かせません。直後、狙撃は止めさせられました。驚いたスナイパーが振り向くと、そこに尾形がいたのです。逆光の朝日で物理的には見えづらいビルの屋上に、井上は「信頼していた」上司の姿を見つけているようです。対する尾形は「残念だよ」とつぶやくのでした。
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』の感想・レビュー
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』を観終えて、まず感じたのは、テレビドラマシリーズから続くこの作品が、いかに『岡田准一=アクション俳優』というイメージを強固なものにしたか、ということです。冒頭から始まる息をのむような追跡劇は、都市の雑踏を駆け抜け、動くトラックの荷台での壮絶な格闘へと展開し、最後はホームに進入する電車との衝突を思わせるほどの緊迫感で締めくくられています。まさに目が釘付けになるようなシーンの連続で、その迫力に圧倒されました。
岡田准一さんのアクションは、単なる動きの派手さだけでなく、そこには役柄としての井上薫の強烈な気迫が宿っています。特に印象的だったのは、SPの笹本絵里が離脱し、井上薫が単独でテロリストと対峙することになった時や、スナイパーの存在を察知しながらも自らその身を晒す場面です。これらのシーンでは、井上薫の内なる覚悟と、決して諦めない精神がひしひしと伝わってきて、観ているこちらも思わず息をのみました。彼の演技からは、ただ強いだけでなく、その強さの根底にある信念のようなものが感じられ、それが作品全体の説得力を高めているように思います。
しかし、この作品のアクションの素晴らしさは、決して岡田准一さんだけにとどまりません。SP役、テロリスト役のすべてのキャストが、それぞれの持ち場で最高のパフォーマンスを見せてくれています。特に目を引いたのは、笹本絵里を演じた真木よう子さんのアクションです。よくある「美人女優に、おまけ程度にアクションさせてみた」というような安っぽいものではなく、彼女の動きには確かな力強さと説得力がありました。男性のテロリスト相手に、正面から堂々と蹴りを入れるシーンなどは、まさに圧巻の一言で、その格好良さに痺れました。彼女の演技が、女性SPとしてのリアリティと魅力を最大限に引き出しており、作品に深みを与えていると感じました。
物語全体を通して感じたのは、登場人物たちの心理描写の巧みさです。井上薫と尾形総一郎の関係性の変化、井上薫の葛藤、そして尾形総一郎の抱える「大義」という名の野望。これらが複雑に絡み合い、観る者の心に深く訴えかけます。特に、信頼していた上司の裏切りに直面し、それでもなお職務を全うしようとする井上薫の姿は、多くの共感を呼びました。単なるアクションの連続ではなく、その根底に流れる人間ドラマが、この作品を単なるエンターテイメント以上のものにしていると感じます。
また、本作は二部作の前編であり、すべての決着が後続作品に持ち越される形になっています。しかし、この『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』単体でも、十分に満足できる内容だったと言えるでしょう。物語の導入からクライマックスまで、途切れることのない緊張感と、次々と起こる事件の連鎖が、観る者を飽きさせません。むしろ、続きが気になって仕方なくなるほどの引きの強さがあり、後編への期待感をこれ以上ないほどに高めてくれました。
細部にわたる演出も非常に凝っていました。例えば、井上薫が特殊能力を発動させる際の視覚効果や、テロリストとの攻防におけるカメラワークなどは、観る者を作品の世界に引き込むのに一役買っています。音響効果も相まって、爆発音や銃声、格闘の打撃音が、まるでその場にいるかのような臨場感を生み出していました。これらの技術的な側面も、この作品の完成度を高めている要因だと感じます。
登場人物たちのセリフ一つ一つにも、深い意味が込められているように感じました。特に尾形総一郎の「大義」という言葉や、井上薫の「残念だよ」という言葉には、彼らの複雑な心情や、それぞれの立場から見た「正義」が凝縮されているように思えます。善悪では割り切れない、人間が抱える多面的な感情が、これらの言葉を通して表現されており、観る者に様々な問いを投げかけてきます。
アクション、人間ドラマ、そしてサスペンスの要素が絶妙なバランスで融合しており、観終わった後もその余韻が長く残る作品でした。テレビドラマから見続けてきたファンにとっては、待望の劇場版として期待を裏切らない仕上がりでしたし、初めてこのシリーズに触れる人にとっても、きっとその魅力に引き込まれることでしょう。
最後に、この作品が現代社会が抱える問題、例えばテロリズムや国家のあり方、そして個人の正義と組織の論理といったテーマに、深く切り込んでいる点も評価すべきだと思います。単なるフィクションとしてだけでなく、私たちの現実世界にも通じる普遍的なテーマが内包されており、観終わった後に考えさせられる部分が多々ありました。そういった意味でも、『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』は、単なるアクション映画にとどまらない、深いメッセージ性を持った作品だと断言できます。
まとめ
『SP THE MOTION PICTURE 野望篇』のあらすじ(ネタバレあり)を箇条書きでまとめます。
- SPの井上薫は、上司である尾形総一郎に何らかの企みを感じ取る。
- 井上薫は、爆弾を仕込んだテロ未遂犯を単独で追跡し、確保する。
- 与党幹事長である伊達國雄は井上薫を除外しようとするが、尾形総一郎は彼を仲間に引き入れようと画策する。
- 尾形総一郎は、井上薫の両親が殺害された現場で、「大義」のために仲間になるよう井上薫に迫るが、井上薫は拒絶する。
- 井上薫たちは伊達國雄の警護を終えた後、官房長官の緊急護衛任務に就く。
- 官房長官護衛中、テロリスト集団からの襲撃を受け、井上薫が狙われていることが判明する。
- SPの笹本絵里も負傷し、井上薫は単独で官房長官を守りながらテロリストと戦う。
- 井上薫は官房長官を無事官邸に送り届けるが、道中で危険に晒したことを詫びる。
- 官房長官護衛の過程で、井上薫は尾形総一郎が裏で糸を引いていることを察知する。
- 遠くのビルから井上薫を狙撃しようとしたスナイパーは、尾形総一郎の部下であり、狙撃を止めさせられた後、尾形総一郎がビルの屋上に姿を現す。