『豆の上で眠る』は、姉の誘拐事件とその真相を巡る結衣子の心情を描いたミステリー作品です。大学生になった結衣子が実家に戻ると、姉の万佑子とその友人・遥と再会します。過去の誘拐事件で、発見された姉に対する違和感を抱き続ける結衣子は、真相に迫ります。
14年前の誘拐事件で「発見された姉」と、現在一緒にいる「姉」とは別人だったという驚愕の事実が明らかにされます。入れ替わった姉妹の秘密、遙と万佑子の運命の交錯、そして結衣子が抱く心の葛藤が丁寧に描かれています。
「えんどう豆の上にねたおひめさま」という童話の比喩が全体に織り交ぜられ、結衣子の違和感と真実への気づきを巧みに表現した、感動と衝撃が詰まった作品です。
- 『豆の上で眠る』のあらすじ
- 結衣子が抱く姉への違和感とその背景
- 14年前の姉の誘拐事件の真相
- 入れ替わった姉妹の秘密
- 童話「えんどう豆の上にねたおひめさま」の比喩
「豆の上で眠る(湊かなえ)」の超あらすじ(ネタバレあり)
夏休みと再会
大学2年生の結衣子は、普段実家にはあまり帰らずに過ごしていました。しかし、夏休みを前に父親から母親の病状が良くないと連絡を受けます。心配になった結衣子は、夏休みを利用して久しぶりに実家へ帰ることにしました。新神戸から三豊まで新幹線で2時間の道のりの間、彼女は「豆の上で眠る」という童話を思い出します。それはシーツの下に隠した豆の存在に気づく姫の話で、幼いころから結衣子の心に残っているものでした。
地元に到着した結衣子は、バス停で姉の万佑子と出会います。万佑子は昔から結衣子にとって大切な存在で、今回の再会も懐かしさが込み上げるものでした。その万佑子の隣には、彼女の友人だという遥という女性がいました。彼女の額には、豆粒のような小さな傷跡がありました。それを見た結衣子は何ともいえない胸騒ぎを覚え、胸の中で消えない不安が芽生えました。
実家に帰った結衣子は、まず病院に入院している母親の見舞いに行きました。病室での母親の顔は、以前よりも痩せてしまったように見え、病状が思ったよりも深刻であることを感じます。実家に戻った結衣子は、自室の押し入れから古い段ボール箱を取り出します。その中には、14年前に起きた姉の誘拐事件について母親が集めた資料がぎっしりと詰め込まれていました。
姉の誘拐事件
結衣子が小学1年生だったころ、姉・万佑子とはいつも一緒に遊んでいました。結衣子は活動的で、ローラースケートも得意でしたが、万佑子はそのスケートが苦手でした。ある日、ローラースケートで遊んでいるとき、結衣子は手を引っ張っていた万佑子の手を放してしまいます。バランスを崩して転んだ万佑子は、額に豆粒ほどの小さな傷を作ってしまいました。その後も二人はよく遊んでいましたが、ある日、万佑子は何者かに誘拐されてしまいます。
夕方、結衣子と万佑子は2人で遊んでいましたが、万佑子は先に帰ると言いました。しかし結衣子はまだ遊びたいと駄々をこね、結局万佑子は結衣子を残して先に帰ることにしました。その帰り道で万佑子は誘拐され、そのまま行方がわからなくなってしまいます。家族はすぐに警察に通報し、捜索が始まりましたが、なかなか手がかりがつかめず、捜索は打ち切りとなってしまいました。結衣子は、姉を一人で帰らせてしまった自分を責め続けますが、最も深い悲しみを抱えていたのは母親でした。
警察の捜査が打ち切られた後も、母親は独自に捜査を続け、怪しいと思う家を「猫がいなくなったから探しに行く」と言っては結衣子に調べに行かせました。結衣子は不安に思いながらも、母親の願いを叶えるために犯人かもしれない家を訪ね歩きます。しかし結局、万佑子は見つからず、2年の時が経ちました。そんなある日、突然万佑子が発見され、家族のもとに戻ってきたのです。
姉の違和感
発見された万佑子は、以前とはまるで違う姿でした。誘拐前と比べてとても痩せ細り、顔色も暗くなっていました。その姿を見た結衣子はすぐに「この子は万佑子じゃない。額の傷もない」と思い、不信感を抱きます。しかし、発見された少女は万佑子ととてもよく似ており、DNA検査でも間違いなく万佑子であるという結果が出ました。結衣子の祖母も最初は「この子は万佑子じゃない」と言いましたが、母親は「この子は私の娘です」と強く言い切り、祖母はその言葉を信じるしかありませんでした。
結衣子は違和感を拭えず、姉であることを確認するために、万佑子に二人しか知らない思い出について質問します。しかし、万佑子はその問いにすべて正しく答えました。思い出も性格も変わりない万佑子に、結衣子は次第に「姉が戻ってきた」と自分を納得させるしかありませんでした。こうして、過去の違和感は時間とともに薄れていったものの、心の奥にはいつもくすぶるような疑念が残っていました。
現在、結衣子がバス停で出会った万佑子の友人・遥の存在は、そのくすぶっていた疑念を再び呼び起こします。特に遥の額にある小さな傷を見たとき、その違和感は一層強くなりました。結衣子は万佑子と遥を呼び出し、父親の協力を得て真相を確かめる決意をします。
誘拐事件の真相と結末
14年前に発見された少女は、結衣子の姉・万佑子ではありませんでした。その正体は、8年間結衣子と共に過ごした遥だったのです。本当の姉・万佑子は誘拐事件の2年後に発見された少女であり、現在の結衣子の姉なのです。では、なぜ万佑子と遥が入れ替わることになったのか。それは、誘拐犯の正体が、遥の実母の姉・弘恵であったからです。
当時、弘恵は看護師をしており、妹である遥の実母は生まれつき体が弱かったのです。弘恵は、万佑子と遥の顔がよく似ていることを利用し、健康な子供である万佑子を遥の代わりとして連れて行ってしまったのでした。その後、8年間もの間、結衣子は偽の姉である遥と共に過ごすことになったのです。しかし、弘恵は罪悪感を抱きながらも、遥の健康状態を守りたいという気持ちで行動していました。
その後、結衣子が成長し、万佑子と遥が互いに異なる環境で成長してきたことから、学校などで問題が起こり始め、弘恵はついに結衣子の両親に真相を打ち明けることにしました。こうして、万佑子と遥はそれぞれの実の親のもとへ戻ることになり、現在の結衣子の姉である万佑子は、間違いなく血のつながった本当の姉なのです。しかし、結衣子の心には、8年間一緒に過ごした遥に対する特別な感情と、見つけられなかった「豆」の存在が残り続けました。
「豆の上で眠る(湊かなえ)」の感想・レビュー
『豆の上で眠る』は、緻密なストーリーと深い心理描写が光る作品でした。物語は結衣子が実家に戻るところから始まり、姉・万佑子の友人・遥との再会で抱いた違和感を軸に進んでいきます。この違和感が、14年前の誘拐事件という家族の過去を掘り下げていくきっかけとなり、読者は結衣子の視点を通して、姉との関係や家族の複雑な感情を理解することができます。
万佑子の誘拐事件は、突然の出来事として描かれており、その後も発見された姉への不信感が続きます。結衣子は幼少期の思い出と現実との違いに悩みながら、それでも「発見された姉」を受け入れようと努力します。DNA検査で万佑子と確認された少女が実は友人の遥であるという事実が明らかになったとき、結衣子が感じていた違和感が真実であったことに驚かされます。
また、物語全体に流れる「えんどう豆の上にねたおひめさま」の童話の比喩が、作品に深みを加えています。この童話は、王子がシーツの下に隠した豆に気づく姫の話ですが、結衣子にとってはその豆が「違和感」そのものです。幼少期に姉と過ごした思い出や感情が、この豆のようにシーツの下に隠されていて、結衣子はそれに気づいていたのです。
姉妹の入れ替わりという設定はミステリーの醍醐味であり、読者を物語に引き込む力があります。結衣子が真相を知ったときの驚きと葛藤は、読み手にも深い共感を呼びます。最後まで読んで初めて明かされる誘拐事件の真実は、家族や姉妹の絆、そして人間関係の難しさを考えさせられました。
全体を通して、結衣子の視点で描かれる物語は、過去と現在が交錯しながらも、一貫して「姉」という存在の大切さを描いています。結衣子の成長や心の葛藤を追いながら、読者もまた、真実にたどり着く旅を一緒にすることができます。この作品は、家族愛や成長の物語でありながら、ミステリー要素を取り入れた素晴らしい一冊でした。
まとめ:「豆の上で眠る(湊かなえ)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 結衣子が母親の病状で久しぶりに実家に帰る。
- 姉・万佑子と友人・遥の再会で違和感を抱く。
- 結衣子が過去の姉の誘拐事件について思い出す。
- 小学1年生の時に万佑子が誘拐され行方不明になる。
- 突然発見された姉は結衣子にとって「違う人」に感じられた。
- DNA検査で発見された少女が万佑子であると確認された。
- 結衣子は違和感を拭えず、祖母も姉を疑ったが母親は信じた。
- 発見された少女は実は万佑子ではなく、友人の遥だった。
- 遥と万佑子は似ていたために入れ替わっていたことが判明。
- 童話「えんどう豆の上にねたおひめさま」が、結衣子の違和感の比喩になっている。