宮部みゆき「R.P.G.」の超あらすじ(ネタバレあり)

『R.P.G.』のあらすじ(ネタバレあり)です。未読の方は気を付けてください。ガチ感想も書いています。宮部みゆきさんが2001年に集英社から発表したこの作品は、単なるミステリーに留まらない深遠なテーマを私たちに投げかけます。インターネットという仮想空間が現実の人間関係に与える影響、そしてそこに潜む危険性を鋭く描いており、現代社会に生きる私たちにとって非常に示唆に富む内容と言えるでしょう。

物語は、不可解な連続殺人事件を追う刑事たちの視点から語られます。被害者は、ネット上で「家族」を演じていた男性とその愛人。しかし、事件の真相は、私たちが想像するよりもはるかに複雑で、そして何よりも心を揺さぶるものです。宮部作品特有の緻密な心理描写と、読者を惹きつける巧みなストーリーテリングは、この『R.P.G.』でも遺憾なく発揮されています。

特に注目すべきは、事件の解決に至るまでの警察の「仕掛け」です。これはまさに、タイトルの『R.P.G.』が意味するところの核心であり、読者にもう一つの「ロールプレイング・ゲーム」を体験させるかのようです。虚実が入り混じる中で、人間の本質が炙り出されていく様は、まさに宮部作品の醍醐味と言えるでしょう。

この作品は、単なる犯罪小説としてだけでなく、現代社会における人間関係のあり方や、情報の持つ両義性について深く考えさせるきっかけを与えてくれます。読み終えた後には、きっと私たちの日常に潜む「見えない危険」や「見過ごしがちな真実」について、改めて向き合うことになるはずです。

『R.P.G.』のあらすじ(ネタバレあり)

物語は、食品会社に勤める所田良介の遺体が発見されるところから始まります。彼は全身を複数箇所刺されており、その3日前には、渋谷のカラオケボックスで彼の愛人である今井直子も絞殺されていました。二人の遺体からは、共通して「パーカー・ミレニアムブルー」の繊維が検出され、事件の関連性が浮上します。捜査を進める中で、所田がネット上で「お父さん」というハンドルネームを使い、「お母さん」「カズミ」「ミノル」と名乗る見知らぬ3人と「家族ごっこ」をしていたことが判明します。この仮想家族に、血の繋がりは一切ありません。

事件を担当するのは、警視庁捜査一課の武上悦郎刑事。彼は、所田の娘である16歳の所田一美に、マジックミラー越しに容疑者と思われる人物たちの顔を確認する「面通し」を依頼します。一美に付き添うのは、杉並署の石津ちか子刑事です。面通しに現れたのは、ネット上の「家族」である北条稔(ミノル)、加原律子(カズミ)、三田佳恵(お母さん)の3人。武上が彼らのプロフィールを読み上げるたびに、一美が携帯電話で誰かにメールを送っているのをちか子は見逃しません。時を同じくして、被害者の一人、今井直子が殺害された日に一美のボーイフレンドである石黒達也が着用していた「パーカー・ミレニアムブルー」が発見されたという報せが入ります。

石黒が取り調べ室に呼ばれた途端、それまで口を閉ざしていた一美は一転して、全ての犯行を自供し始めます。彼女は、父親が自分と同じくらいの年の女の子とネットで「カズミ」と名付けて親しくしていることに激しい嫉妬を抱いていました。さらに、父親が今井直子と密会している現場を目撃し、直子こそがネット上の「カズミ」だと誤解してしまったのです。一美は、父親と直子を殺害。そして、面通し中に携帯でメールを送っていた相手は石黒であり、その内容は、武上が読み上げたネット家族たちの身元情報を、彼らに危害を加えるために送っていたものでした。

しかし、一美が面通しさせられた「カズミ」「ミノル」「お母さん」は、実は全員が警察官であり、彼女から自白を引き出すための「ロールプレイング・ゲーム」を演じていたに過ぎなかったのです。一美がメールで送信した彼らの名前や住所、経歴は、すべて架空のものでした。この大掛かりな計画を立案したのは、武上の先輩である中本房夫巡査部長。彼は取り調べ開始の2日前に心筋梗塞で倒れ、意識不明の重体でしたが、その「シナリオ」は見事に奏功しました。武上たちは、中本の思いを引き継ぎ、無事に「劇」を終えることができたのです。

『R.P.G.』の感想・レビュー

宮部みゆきさんの『R.P.G.』を読み終えて、まず感じたのは、そのタイトルの持つ多重な意味合いの巧みさです。誰もが連想するであろう、勇者が魔王を倒すようなゲームとしての「ロールプレイング・ゲーム」。しかし、この作品では、それが現実世界に置き換わり、人間の深層心理が描かれていることに驚きを隠せませんでした。私たちは皆、社会の中で何らかの役割を演じている。それは、職場での顔であり、家庭での顔であり、友人との間での顔であり、そしてインターネット上での「匿名」の顔もまた、その一つでしょう。この作品は、そうした「役割」のあり方を深く考えさせてくれる、まさに現代社会の縮図のような一冊です。

物語の序盤から中盤にかけては、連続殺人事件の謎が読者を惹きつけます。所田良介と今井直子という二人の被害者。それぞれ異なる殺害方法でありながら、共通する証拠品から関連性が示唆される展開は、ミステリー好きにはたまらないでしょう。そして、所田がネット上で「家族」を形成していたという事実が明るみに出た時、事件は一気に複雑な様相を呈します。この「ネット家族」の存在が、単なる殺人の動機に留まらず、人間関係の希薄化、そして孤独感を埋めるための現代的な手段として描かれている点が、非常に興味深いと感じました。インターネットという匿名性の高い空間が、時に現実よりも強固な繋がりを生み出し、同時に現実世界に歪みをもたらす可能性を、宮部さんは見事に描き切っています。

特に印象に残ったのは、所田一美という少女の心理描写です。父親の秘密の「家族ごっこ」を知り、それが現実の人間関係に与える影響、そして彼女自身の心の葛藤が、非常に丁寧に描かれています。純粋な愛情が、裏切りと誤解によって憎悪へと変貌していく過程は、読んでいて胸が締め付けられるようでした。彼女の犯行動機は、単なる嫉妬や怒りだけではなく、父親への複雑な感情、そして自分自身の存在意義への問いかけが絡み合っているように感じられます。思春期の少女が抱える繊細な感情が、インターネットという媒体を通して増幅され、悲劇へと繋がっていく様は、私たち大人にとっても考えさせられるテーマです。

そして、この物語の最大の仕掛けであり、読者の意表を突くのが、最終局面での「警察によるロールプレイング・ゲーム」です。武上刑事と石津刑事、そして裏で糸を引いていた中本巡査部長の計画は、まさに圧巻の一言に尽きます。一美から自白を引き出すために、警察官がネット家族になりきって面通しを行うという大胆な発想。これまでのミステリー小説ではあまり見られない、非常に斬新な解決方法だと感じました。この「芝居」が、単なる事件解決の手段としてだけでなく、登場人物それぞれの人間性、特に武上の中本に対する尊敬の念や、石津の細やかな気配りといった側面を際立たせている点も素晴らしいです。

この「ゲーム」が成功に終わった後、中本巡査部長が倒れていたという事実が明かされる場面は、読者に深い余韻を残します。彼が命を賭してまでこの計画を立案し、実行しようとした背景には、どのような思いがあったのでしょうか。事件の真相を暴くことへの執念か、それとも未成年者である一美への、ある種の慈悲か。その意図は明確には語られませんが、読者それぞれの解釈に委ねられることで、物語にさらなる深みを与えています。武上たちが、中本の思いを継いで「ゲーム」を完遂したことは、彼らの絆の強さ、そして警察官としての矜持を感じさせるものでした。

『R.P.G.』は、単なる犯罪ミステリーとしてだけでなく、現代社会が抱える様々な問題――情報化社会における人間関係の変容、匿名性の功罪、そして心の闇――を浮き彫りにしています。宮部さんの作品には、「模倣犯」や「クロスファイア」など、社会問題を深く掘り下げた傑作が数多くありますが、この『R.P.G.』もまた、それらに匹敵するほどのメッセージ性を秘めていると感じました。

特に心に響いたのは、現実と仮想の境界線が曖昧になる現代において、何が真実で、何が虚構なのかを見極めることの難しさです。ネット上の「家族」は、所田にとって、ある種の現実逃避であり、癒しの空間だったのかもしれません。しかし、それが現実の家庭や人間関係に波紋を広げ、最終的には悲劇を招いてしまう。この皮肉な結末は、私たちにインターネットとの付き合い方を改めて考えさせるものです。

武上悦郎と石津ちか子という、宮部作品を代表する名コンビの活躍も見どころの一つです。「模倣犯」で劇場型犯罪を追った武上と、「クロスファイア」で超能力者の孤独を描いた石津。それぞれの作品で、人間の心の奥底に迫ってきた二人が、『R.P.G.』で息の合ったコンビネーションを見せるのは、ファンにとってはたまらない喜びでしょう。彼らが織りなす人間ドラマもまた、この作品の大きな魅力となっています。

『R.P.G.』は、読み終えた後も長く心に残る作品です。単に事件の犯人を突き止めるだけでなく、なぜ事件が起こったのか、そして人々はなぜそのような行動をとったのかという、根源的な問いを私たちに突きつけます。現代社会に生きる私たちの「役割」とは何か、そして真の人間関係とは何か。この作品は、その答えを探す旅へと私たちを誘ってくれることでしょう。宮部みゆきさんの卓越したストーリーテリングと、深い人間洞察に満ちたこの一冊を、ぜひ多くの方に手に取っていただきたいと思います。

まとめ

『R.P.G.』のあらすじ(ネタバレあり)を箇条書きでまとめます。

  • 食品会社の所田良介が殺害され、3日前には愛人の今井直子も絞殺される。
  • 二人の遺体から「パーカー・ミレニアムブルー」の繊維が検出され、関連性が浮上。
  • 所田がネット上で「お父さん」として見知らぬ3人と「家族ごっこ」をしていたことが判明。
  • 捜査一課の武上悦郎刑事が、所田の娘・一美にネット家族の面通しを依頼。
  • 面通し中、一美が携帯で頻繁にメールを送っているのを石津ちか子刑事が不審に思う。
  • 一美のボーイフレンド、石黒達也が着用していた「パーカー・ミレニアムブルー」が見つかる。
  • 石黒の登場をきっかけに、一美が父親と直子の殺害を自供。
  • 一美は、父親のネット家族「カズミ」への嫉妬と、直子を「カズミ」だと誤解したことから犯行に及ぶ。
  • 面通しに現れた「カズミ」「ミノル」「お母さん」は、実は警察官であり、一美から自白を引き出すための「ロールプレイング・ゲーム」だった。
  • この大掛かりな計画は、武上の先輩である中本房夫巡査部長が立案したが、彼は取り調べ前に倒れてしまう。