「Red(三島有紀子)」の超あらすじ(ネタバレあり)

『Red』のあらすじ(ネタバレあり)です。『Red』未読の方は気を付けてくださいね。ガチ感想も書いています。三島有紀子監督が描く、この作品は、観る者の心に深く問いかけ、様々なくさびを打ち込むことでしょう。主人公の塔子が置かれた状況、そして彼女が選ぶ道は、一見すると自己中心的にも映りますが、その奥には現代社会に生きる女性が抱える葛藤や、見過ごされがちな心の叫びが秘められています。

幸せなはずの家庭を持ちながらも、塔子は何かしらの閉塞感に苛まれています。そんな彼女の前に突如現れる、過去の恋人・鞍田。彼との再会が、塔子の日常に小さなくさびを打ち込み始め、やがて彼女の人生を大きく揺るがしていきます。この作品は、単なる不倫劇として片付けられない、人間の本質的な欲求や心の動きを丁寧に描き出しています。

塔子の選択が、彼女自身だけでなく、周囲の人々にも影響を与えていくさまは、観る私たち自身の生き方や価値観を顧みさせるきっかけとなります。幸福とは何か、自由とは何か、そして愛とは何か。『Red』は、そうした根源的な問いを突きつけながら、私たちを深い思索へと誘う力を持っています。この物語が紡ぎ出す世界に、ぜひ一緒に触れていきましょう。

この物語は、一般的な恋愛映画とは一線を画しています。登場人物たちの行動や心情は、常に複雑で、単純な善悪では測れません。特に塔子の心理描写は秀逸で、観客は彼女の選択に賛同できない部分があっても、なぜ彼女がそうするのか、その背景にある感情を深く理解しようと努めてしまいます。

『Red』のあらすじ(ネタバレあり)

国立の豪邸で夫・真、娘・翠、そして義母と暮らす塔子は、何不自由ない生活を送っているように見えました。夫の真は彼女を愛しているものの、塔子の気持ちを汲み取らない無神経な面も持ち合わせていました。特に、塔子のために用意した食事よりも母の作ったものを優先したり、夜の営みでも自分勝手な振る舞いをしたりと、塔子は頭では幸せだと感じながらも、心は満たされない日々を過ごしていました。そんなある日、夫の仕事関係のパーティーに出席した塔子は、そこでかつて愛した男、鞍田秋彦と再会します。鞍田を見つけた瞬間に、塔子は熱いキスを交わし、二人はパーティーを抜け出して海へと向かいます。塔子は鞍田に「今は幸せ」だと告げますが、鞍田は彼女の心をまるで全て見透かしているかのように「変わってないな」と呟くのでした。

後日、鞍田から会社の資料が届き、塔子は夫に内緒で彼の会社の面接を受けます。結婚記念日、真は塔子を高級料亭へと連れて行きます。真は以前ここで食べて美味しかったから、塔子にも味わってほしいと思ったのです。そこで塔子は思い切って夫に働きたいと伝えます。夫は当初「働く必要はない」と反対しますが、塔子の顔を見て、最終的には働くことを許してくれました。そして、塔子は鞍田の会社への採用が決まります。ブランクはあったものの、塔子は積極的に仕事に取り組み、同僚たちとも打ち解けていきます。お調子者の同僚・小鷹淳に誘われた飲み会では、はじめは返事をしませんでしたが、会社の飲み会で小鷹に手を引かれ、皆を撒いて二人きりになります。小鷹は塔子にキスを迫りますが、塔子はそれをかわしながら、抑圧されていた気持ちが解放されていくのを感じ、小鷹と親しくなっていきます。会社で塔子と小鷹が仲良くしているのを見ても、鞍田は平然としていました。そんな中、鞍田のサポートを頼まれ、多くの仕事を抱えているにもかかわらず塔子は立候補します。二人で仕事をした帰り、大雨に降られ車が立ち往生してしまいますが、鞍田は車の中で塔子にキスをします。塔子は待っていたかのようにそれを受け入れ、鞍田の家で体を重ねるのでした。塔子が離婚時期を尋ねると、鞍田は4年前に体を壊して全てを整理したと言います。悪性リンパ腫を患っていたという鞍田に、塔子が「治ったの?」と尋ねると、彼はその問いには答えませんでした。

正社員になった塔子は、その分家事や育児に気が回らなくなっていきます。ある日、娘の翠の迎えに遅れてしまい、待ちくたびれた翠はジャングルジムから転落してしまいます。夫は塔子を責めますが、義母になだめられ、冷静になった夫は「もう一人子供が欲しいから」と仕事を辞めてくれないかと塔子に懇願します。そしてクリスマス。塔子は家族と楽しいパーティーを開きますが、その夜、鞍田から大切にしていた本をプレゼントされた塔子は、彼が遠くに行ってしまうようで怖くなり、本を受け取りません。そして鞍田に「もう会いません」と告げるのでした。正月、塔子は実家の母を呼び、家族と新年会をします。久しぶりに帰ってきた真の父は、仕事の話や塔子の父の話を塔子の母に振ります。塔子の母は気分が悪くなったと言って途中で帰ってしまいます。塔子の母は、真の両親に嘘をつき続けていることに嫌気がさしていたのです。真の希望で塔子の父は海外に行っていることになっていましたが、実際は女を作って出て行ってしまっていたのでした。

正月明け、鞍田は体調を崩して会社を休んでいました。鞍田の代わりに小鷹と出張に行く塔子です。翠は塔子が本当に帰ってくるか不安になります。冬の新潟は吹雪いていました。塔子は小鷹から、鞍田が年末から入院していたことを聞かされます。そして、「離婚して鞍田と一緒になればいい」と言われる塔子ですが、「できません。あの人、一緒にいても一人で生きている感じがします」と答えます。

しかし小鷹に「塔子ちゃんも家族がいても一人で生きてる感じがする」と指摘されるのでした。その後吹雪がひどくなり、電車が止まってしまいます。小鷹に1泊しようと言われ、家に電話する塔子。しかし、真に「タクシーで帰ってきて」と言われてしまいます。娘の世話をする人がいないというのです。「シッターさんを頼む」と言う塔子に、真は「塔子の一番大切な仕事って母親だろう?」と責め立てます。

さらに「クリスマスの夜どこに行っていたか教えて」と追い打ちをかけられます。塔子は逆ギレし、「帰ればいいんでしょ」と言い放ちました。吹雪の中を帰ろうとする塔子の前に、連絡もなく車で鞍田が迎えに来てくれます。塔子はもう一度、電話で真と話し合います。最後に真にとって結婚とは何かと塔子が聞くと、「生涯でただ一人好きになった女性と一緒になったこと」と答えました。

塔子は、真からもらった指輪を電話ボックスに置いて出て行きます。運転しながら具合が悪くなっていく鞍田。鞍田は塔子に「探してたんだずっと」と語り、そして塔子も「鞍田さんと生きていきたい」と応えました。最後に二人は愛し合うのでした。鞍田が亡くなります。娘・翠に「一緒に帰ろう」と泣かれますが、塔子は険しい顔で娘の手を離すのでした。塔子は泣きながら、鞍田と見た朝日を思い出します。

『Red』の感想・レビュー

三島有紀子監督の『Red』は、観終わった後に様々な感情が渦巻く作品でした。感情移入できるかと言われると、正直なところ難しい部分もありますが、それでもこの物語が提示する問いかけは、深く心に刻まれるものがありました。開始直後の塔子は、夫の前で「良い妻」を演じ、猫をかぶっているように見えます。そのため、初めは夫にばかり非があるように感じてしまうかもしれません。しかし、物語が進むにつれて、彼女の育った環境や、彼女自身の本質的な部分が見えてきて、塔子へのイメージがガラリと変わっていくのが印象的でした。

塔子の行動や選択は、時に観る者にとって理解しがたいものかもしれません。特に、彼女が家庭を顧みず鞍田に傾倒していく様は、多くの人にとって共感しにくい部分でしょう。しかし、監督は決して塔子を美化することなく、彼女が抱える心の闇や、満たされない欲求を丁寧に描き出しています。夫との関係、娘との関係、そして過去の恋人との関係。それらが複雑に絡み合い、塔子の選択を形成していきます。彼女は、与えられた「幸せ」の中に閉じ込められているように見え、そこから抜け出したいという強い衝動に駆られているようでした。それは、単なる享楽的な欲求ではなく、彼女自身の存在意義を求める心の叫びのように感じられます。

作中で登場する小鷹淳のポジションもまた、興味深いものでした。一般的な不倫の物語であれば、主人公を叱咤激励してくれる唯一の女友達のような存在が定石ですが、小鷹はそうではありません。彼は塔子を叱るどころか、否定しながらも肯定するという、ある種の高等テクニックを持っているのです。この描写は、塔子には本当に心を許せる友人がいないのだな、という寂しさを感じさせます。彼女の周りにいる女性たちも、皆どこか幸薄い雰囲気を漂わせているのが印象的でした。母親としての役割、妻としての役割、そして一人の女性としての役割。それらの間で板挟みになり、もがき苦しむ女性たちの姿は、現代社会に生きる多くの女性が抱えるであろう葛藤を映し出しているようでした。

原作者と監督が共に女性であるにもかかわらず、なぜこのように幸薄い女性たちが描かれているのか。それは、もしかしたら「こんな女性になってはいけない」という戒めや、現代社会における女性の理不尽な状況を描きたかったのかもしれません。あるいは、女性が抱える内面的な矛盾や、社会的な期待とのギャップを表現しようとしたのかもしれません。そう考えると、この作品は単なる恋愛ドラマとしてだけでなく、現代女性の心理を深く掘り下げた社会派ドラマとしても捉えることができるでしょう。

物語の終盤、塔子が出した結論は、観る者にとって残酷ともいえるものでした。彼女はかつて、親の言うことなど聞かないと言っていました。その言葉を思い出すと、彼女がどちらの道を選んだとしても、良い母親として子供に接する自信も気力もなかったのかもしれません。そして、結婚とは何か、という問いを真に投げかけ、彼との価値観のギャップを痛感したのでしょう。塔子は、残りの人生を鞍田との思い出を胸に、そして小鷹を上手に利用しながら生きていくのかもしれない、というある種の諦念のようなものを感じさせました。それは、彼女が「自由」を手に入れた代償として、大きなものを失ったことを示唆しているようにも思えます。

『Red』は、私たちに「幸福」の形を問いかけます。世間一般に言われる「幸せな家庭」の中にいながらも、塔子が感じていた満たされなさは、多くの人が共感できる部分かもしれません。表面的な幸福に囚われず、自分自身の心の声に耳を傾けることの重要性、そしてその選択がもたらす結果について、深く考えさせられます。この作品は、観客に明確な答えを与えるのではなく、むしろ問いかけを投げかけ、私たち自身がそれぞれの答えを見つけ出すことを促しているように感じました。決して万人受けする物語ではないかもしれませんが、一度観たら忘れられない、強烈な印象を残す一本です。

まとめ

『Red』のあらすじ(ネタバレあり)を以下にまとめました。

  • 塔子は夫と娘、義母と何不自由ない生活を送っていたが、心は満たされていなかった。
  • 夫の仕事関係のパーティーで、塔子はかつて愛した鞍田と再会し、情熱的なキスを交わす。
  • 鞍田の紹介で働き始めた塔子は、仕事に没頭し、抑圧されていた感情が解放されていく。
  • 同僚の小鷹と親しくなるが、塔子は鞍田との関係を深め、二人は体を重ねる。
  • 鞍田が悪性リンパ腫を患っていたことが判明するが、彼はその詳細を語ろうとしない。
  • 正社員になった塔子は家事や育児に手が回らなくなり、娘が怪我をする事件が起きる。
  • 夫から仕事を辞めるよう懇願されるが、塔子は鞍田との関係を続けることを選ぶ。
  • 鞍田との別れを決意するも、鞍田の体調悪化と夫の自己中心的な態度に直面する。
  • 吹雪の中、塔子は夫と電話で話し合い、結婚指輪を置いて鞍田の元へ向かうことを決意する。
  • 鞍田と愛し合った後、彼が亡くなり、塔子は娘の手を離し、一人で生きていくことを選択する。