佐藤究「QJKJQ」の超あらすじ(ネタバレあり)

『QJKJQ』のあらすじ(ネタバレあり)です。『QJKJQ』未読の方は気を付けてください。ガチ感想も書いています。佐藤究氏が紡ぎ出したこの異色の物語は、読者の倫理観を揺さぶり、根源的な問いを投げかけます。一見すると猟奇的な殺人描写に満ちたホラー小説のようでありながら、その奥には人間の本質、社会のあり方、そして記憶という曖昧なものの危うさが深く描かれています。

主人公の市野亜李亜は、一見すると普通の女子高生。しかし彼女の家族は、それぞれの嗜好に応じた殺人を愉しむという、およそ常識では考えられない存在です。そんな特異な日常を送る中で、彼女の兄が惨殺されるという衝撃的な事件が勃発。そこから物語は一気に加速し、亜李亜は想像を絶する真実へと導かれていきます。

猟奇的な描写の連続に、読むのを躊躇する方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その残虐さの裏側には、佐藤究氏ならではの緻密な構成と、読者を惹きつける強力な推進力があります。単なる猟奇趣味で終わらない、深いテーマ性が本作には隠されているのです。

これは、あなたの固定観念を打ち破る、ある種の挑戦状ともいえる作品です。読み進めるほどに、あなたは市野亜李亜というフィルターを通して、現実と虚構の境界線が曖昧になる感覚を味わうことでしょう。

QJKJQのあらすじ(ネタバレあり)

市野家は郊外の三階建ての一軒家に住む、表向きはごく普通の家族でした。しかしその実態は、父、母、兄、そして主人公である市野亜李亜の全員が、それぞれの方法で殺人を愉しむ猟奇殺人一家でした。亜李亜はナイフでの刺殺を好み、兄の浄武は首に噛みついての失血死、母の杞夕花は撲殺、そして父の桐清は血を抜いての殺害を得意としていました。亜李亜はそんな家族を心から愛し、将来は心理学を学ぶことを夢見ていました。彼女のお気に入りの場所は「bygones」というガラクタを扱う店で、そこで手に入れた鹿の角で、自分専用の殺人ナイフを自作するなど、猟奇的な嗜好を秘めながらも、彼女なりに充実した日々を送っていました。

ある日のこと、亜李亜は学校からの帰路で激しい吐き気に襲われ、帰宅するなり自室で眠りにつきます。夜中に目覚め、兄の部屋の前を通りかかると、普段は決して開かないはずのドアがわずかに開いていることに気づきます。そこから血が流れ出しているのを目撃し、恐る恐る中を覗くと、兄の浄武がめった裂きにされ、ハンガーラックに吊るされているという衝撃的な光景が目に飛び込んできます。亜李亜は、殺す側であった兄が殺されるという事実に大きな衝撃を受けますが、すぐに怒りへと感情が変わり、犯人捜しを始めます。しかし、父と母と共に家を捜索しても、犯人の痕跡は一切見つかりませんでした。

翌日には、今度は母が忽然と姿を消します。亜李亜は父の桐清が犯人ではないかと疑念を抱き、これ以上父と一緒にいることはできないと家出を決意します。父はいつものように冷静で、亜李亜に72時間後にこの家に戻ってくるようにとだけ告げ、送り出します。家を出たものの行く当てのない亜李亜は、よく訪れる公園で見かける、鳩に餌をやるふりをして鳩を殺しているOL、通称「鳩ポン」を頼ることにします。鳩ポンは、ホテルの部屋で起きた過去の殺人や自殺事件を調べる専門のホテル鑑定士であり、亜李亜は三日間という条件で彼女の部屋に泊めてもらうことになります。

鳩ポンは得意の調査能力を活かし、兄の犯行に使われたパン切り包丁を用いた殺人事件を調べます。その結果、2003年に神奈川県で発生した事件が関連している可能性を突き止めます。二人は神奈川へと向かい、現地の風景や米軍基地を目にした亜李亜は、自分が昔ここに暮らしていたこと、そして「ジョブレス」という名前のドーベルマンを飼っていたことを思い出します。過去の記憶を取り戻し混乱する亜李亜は、父と話す必要があると強く感じ、自宅へと戻ることを決意します。自宅に戻った亜李亜は、神奈川での事件と蘇った記憶から、衝撃的な真実を父に告げます。それは、母と兄が元々存在せず、自分の空想が生み出した存在だったという事実でした。

桐清は、神奈川での事件の被害者である糸山久美果とドーベルマンのジョブレスを殺害したのは自分だと告白します。そして、母の杞夕花と兄の浄武は、亜李亜の頭の中で創り上げられた虚構の家族だったと明かします。さらに桐清は、この世界には「殺人アカデミー」と呼ばれる人殺しを科学的に研究する公的機関が存在し、自分もその一員であると打ち明けます。殺人アカデミーは「殺人遺伝子」の有無を突き止めるために、生まれながらの殺人鬼であった亜李亜の実の父を観察対象としていましたが、神奈川での事件後に拷問によって死に至らしめました。そして、残された亜李亜は、その殺人遺伝子を持つ可能性があるとして、桐清の監視のもとで生かされてきたのです。しかし、長年亜李亜と生活を共にするうちに情が移ってしまった桐清は、亜李亜が別人として生きられるようIDやお金を残して自殺します。しかし亜李亜は、そのIDとパスポートを林に埋め、自身の意思で亜李亜として生きることを選び、最終的には警察に自首するのでした。

QJKJQの感想・レビュー

『QJKJQ』を読み終えた時、まず感じたのは、これまでの読書体験では味わったことのない、異様とも言える読後感でした。冒頭から市野一家の猟奇的な日常が淡々と描かれるため、正直なところ、読み進めるのに抵抗を感じるかもしれません。しかし、そのグロテスクな描写の裏には、佐藤究氏の並々ならぬ筆力が宿っており、読者を否応なしに物語の深淵へと引きずり込んでいくのです。

この作品は、単なる残虐な物語ではありません。むしろ、その猟奇性をもって、私たちの社会、そして人間の本質に深く切り込んでいくような、哲学的な問いを投げかけているように感じました。市野亜李亜という特異な主人公を通して、読者は現実と虚構、記憶の曖昧さ、そして存在とは何か、といった根源的なテーマと向き合うことになります。

特に印象的だったのは、亜李亜が自身の家族が「空想の存在」だったという事実を突きつけられる場面です。この衝撃的な展開は、読者の価値観を大きく揺さぶります。私たちは普段、目に映るもの、記憶しているものを「現実」として何の疑いもなく受け入れていますが、果たしてそれは本当に確かなものなのでしょうか?『QJKJQ』は、私たちの記憶や認識が、いかに不確かで脆いものであるかを痛烈に示唆しています。亜李亜の混乱と絶望は、読者自身のアイデンティティにも疑問を投げかける力がありました。

また、「殺人アカデミー」という設定も非常に興味深いものでした。殺人という行為を科学的に研究する公的機関が存在するという、ある種のSF的な要素は、物語に奥行きと広がりを与えています。このアカデミーの存在は、人間の残虐性や暴力性が、単なる個人の逸脱ではなく、遺伝子レベルで組み込まれた、あるいは社会構造の中に組み込まれたものなのではないか、という恐ろしい問いを投げかけてきます。それは、私たちが普段目を背けがちな、人間の「負」の側面を直視させるような、そんな重いテーマでした。

作中には、市野家のメンバーがそれぞれ異なる殺人の嗜好を持つという描写がありますが、これは人間の多様性、あるいは異常性の多様性を象徴しているようにも感じられました。彼らの殺人は、単なる快楽殺人というよりも、それぞれの「存在意義」や「自己表現」の一種として描かれているかのようでした。もちろん、倫理的に許される行為ではありませんが、物語の中では、彼らの行為が、彼らにとっての「日常」であり、ある種の「秩序」として存在しているのです。この異常な日常が、読者の常識を揺さぶり、考えさせる契機となります。

『QJKJQ』は、読み進めるごとにその世界観に引き込まれていく作品です。最初の衝撃的な描写を乗り越えれば、その奥に隠された深いテーマ性、そして佐藤究氏の圧倒的な筆致に魅了されることでしょう。日本を舞台にしていながらも、どこか非現実的で、それでいて強烈なリアリティを伴う独特の雰囲気は、読者に強烈な印象を残します。

単なる猟奇殺人小説として片付けることはできません。これは、人間の存在、記憶、そして社会の暗部に迫る、ある種の壮大な実験小説であると言えるでしょう。読後には、きっとあなたはこれまでとは異なる視点から世界を見るようになっているはずです。刺激的でありながらも、深く考えさせられる、そんな体験を求める方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

まとめ

『QJKJQ』のあらすじ(ネタバレあり)をまとめると、以下のようになります。

  • 市野亜李亜は、殺人を愉しむ猟奇殺人一家の一員として暮らしていました。
  • ある日、兄の浄武が惨殺されているのを発見し、続けて母の杞夕花が失踪します。
  • 亜李亜は父の桐清を疑い、家出をします。
  • 家出先で出会った「鳩ポン」の助けを借り、兄の事件に関連する過去の殺人事件を調査します。
  • 調査の過程で、亜李亜は自分が幼い頃に神奈川に住んでいた記憶を思い出します。
  • 亜李亜は、母と兄が自分の空想の存在だったという衝撃的な真実を父から聞かされます。
  • 父の桐清は、神奈川での事件の被害者である糸山久美果とドーベルマンのジョブレスを殺したのは自分だと告白します。
  • 桐清は「殺人アカデミー」という機関の一員であり、亜李亜は殺人遺伝子の研究対象として生かされてきたことが明かされます。
  • 桐清は亜李亜のためにIDとお金を残し、自殺します。
  • 亜李亜は桐清が残したものを捨て、自身の意思で警察に自首し、亜李亜として生きる道を選びます。