谷崎潤一郎の小説『卍(まんじ)』は、嫉妬と執着、欲望が渦巻く愛憎劇を描いた作品で、同性愛や複雑な四角関係をテーマとしています。大阪に暮らす主人公・和泉町子が、妖艶な魅力を持つ女性・野島光子に出会い、強く惹かれるところから物語が動き出します。
光子と町子は深い関係を結ぶ一方で、町子の夫・敏雄も光子に魅了されていきます。さらに、光子の元恋人・本田も物語に絡み、四人の関係は混沌とした愛憎へと発展します。
谷崎独特の美的感覚で、登場人物たちの複雑な心理や愛憎が繊細に描写され、情念に満ちた結末へと進んでいきます。光子を中心にした関係がどのように崩壊していくのか、その結末に引き込まれる物語です。
『卍』のあらすじ・ネタバレを詳述し、谷崎潤一郎の耽美的な世界を紹介します。
- 光子と町子の関係の深まり
- 敏雄との三角関係の発展
- 本田を含む四角関係の混乱
- 愛と嫉妬の心理描写
- 結末に向かう人間関係の崩壊
「卍(谷崎潤一郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
谷崎潤一郎の小説『卍』(まんじ)は、複雑で濃密な愛憎と嫉妬に満ちた人間関係を描いた作品で、同性愛や四角関係といったテーマが中心となっています。物語は、主人公である和泉町子(いずみ・まちこ)が、友人である若い女性・野島光子(のじま・みつこ)と出会うことで始まります。町子は大阪に住むごく普通の人妻であり、夫の敏雄(としお)と平穏に暮らしていました。しかし、光子との出会いにより、その平凡だった生活は激しく変化していきます。
町子と光子の出会いは、町子が通っていたお茶の稽古で偶然に知り合ったことがきっかけです。光子は町子よりも若く、どこか不思議な魅力を持った女性で、町子は彼女の美しさと気まぐれな性格に心を惹かれるようになります。光子は人を惹きつける妖艶な美貌と独特な雰囲気を持ち、その自由奔放な態度は町子にとって新鮮で、次第に深い興味を抱くようになっていきました。
初めのうちは、町子も自分が光子に惹かれていることに気づかず、彼女との交流を純粋に楽しんでいました。しかし、次第に二人の関係は姉妹のように親密なものへと発展し、町子の中には光子への特別な感情が芽生え始めます。町子は、自分の気持ちが友愛を超えて恋愛に近いものに変わっていることを自覚し始め、光子に対する思慕が募る一方で、強い嫉妬心も抱くようになっていきます。
やがて、町子と光子は肉体的な関係も持つようになります。二人は恋人同士のように過ごし、町子は光子と過ごす時間が何よりも大切だと感じ始めます。しかし、町子の夫である敏雄は、町子の変化に気づき、妻が他の女性にのめり込んでいることに疑念を抱くようになります。町子は、夫と光子という二つの関係の間で板挟みになり、次第に夫婦仲にも亀裂が生じ始めます。
ところが、光子もまた町子だけに心を向けているわけではなく、やがて敏雄とも関係を持つようになります。光子は、敏雄をも自分の魅力で翻弄し、夫婦間の関係にさらに深い混乱を招きます。敏雄もまた、光子に対する強い執着を抱くようになり、妻と光子との間で苦悩することになります。こうして、光子を中心にした町子と敏雄の愛憎の三角関係が形成され、二人は互いに光子を奪い合うようになります。
さらに物語が進むと、光子の過去の恋人である本田という男性が登場し、彼もまた光子への未練を抱いていることが明らかになります。光子は町子と敏雄だけでなく、本田に対しても愛情を示すことで、彼ら三人を揺さぶり、支配していくのです。この時点で、物語は単なる三角関係を超え、四人の複雑な愛憎劇へと展開していきます。光子の気まぐれで情熱的な性格が、町子、敏雄、本田それぞれの感情をかき乱し、四人は光子への愛憎に捕らわれることになります。
物語の後半では、町子の苦悩がさらに深刻になります。光子への愛情が募る一方で、光子の裏切りや気まぐれに悩まされ、彼女の行動に心をかき乱されるようになります。光子は町子に愛情を示しつつも、時には冷たく突き放すこともあり、町子はそのたびに心の不安や不満を募らせていきます。
町子は、光子が自分だけに心を向けていないことを知りつつも、彼女への愛情を断ち切ることができません。そして、光子への執着は次第に自己破壊的なものへと変わり、彼女の心を蝕んでいきます。
最終的に、この四人の関係は破綻に向かい、それぞれが愛憎の中で自己を見失っていくという結末を迎えます。町子、敏雄、本田の三人は光子への愛と執着に苦しめられ、彼らの関係は徐々に崩壊していきます。町子は光子への思いを捨てきれないまま、夫との関係も破綻し、結局は誰も救われることのない形で物語は終焉を迎えます。
『卍』は、光子という魅惑的でありながら破滅的な存在が、周囲の人々を愛と憎しみに引き込んでいく様子を描き出しています。谷崎潤一郎は、登場人物たちの執着心や嫉妬心を丁寧に描写し、彼らの複雑な心理と愛憎の絡み合いを浮かび上がらせています。愛とは何か、執着とは何か、人間の持つ欲望と破滅への衝動が、巧妙に織り込まれた物語です。
「卍(谷崎潤一郎)」の感想・レビュー
谷崎潤一郎の小説『卍(まんじ)』は、登場人物たちの愛憎と嫉妬が織り成す複雑な人間関係を描いた作品であり、谷崎の耽美的な文学世界が色濃く反映されています。この物語の中心となるのは、大阪に住む人妻・和泉町子と、彼女が出会った若い女性・野島光子の関係です。町子はごく普通の夫・敏雄と共に穏やかに暮らしていましたが、光子との出会いによってその平穏は破られ、彼女の人生は一変します。
物語の発端となるのは、町子が友人を通じて光子と知り合ったことです。光子は、妖艶で魅力的な容姿と自由奔放な性格を持つ女性であり、町子は彼女に心を奪われていきます。次第に二人は親密な関係となり、町子は光子に対して恋愛感情を抱くようになります。物語の中で町子は、自らの感情が友愛を超え、光子に対する執着へと変わっていくことに戸惑いながらも、彼女に対する思いを深めていきます。
一方、光子は町子の愛情を受け入れつつも、完全に心を預けることはなく、町子を振り回す存在として描かれます。光子は町子に愛情を示しながらも、彼女の夫・敏雄とも関係を持つことで、町子を嫉妬と苦悩へと追いやります。光子の不安定な態度や気まぐれな行動が、町子の心に不安を植え付け、彼女を感情的に支配していきます。町子は、光子への執着から逃れることができず、夫との関係も壊れていきます。
物語の中盤では、光子の元恋人である本田という男性も登場し、彼もまた光子に対する執着を抱いていることが明らかになります。この時点で物語は単なる三角関係を超え、四角関係へと発展します。本田の存在により、町子、敏雄、光子、本田の四人は、それぞれが互いに複雑な感情を抱くことになります。彼らの関係はさらに錯綜し、愛と憎しみ、執着と嫉妬の感情が絡み合い、破滅的な様相を呈していきます。
谷崎潤一郎は、『卍』の中で、愛情がいかにして執着と化し、人間関係を歪めていくかを細やかに描写しています。光子という破滅的な魅力を持つ女性が、周囲の人々の心理に影響を与え、彼らを感情的に支配していく様子は、谷崎の独特の美的感覚によって表現されています。また、光子の存在が町子や敏雄、本田にとっての「鏡」となり、それぞれの人間性が浮き彫りにされる点も、作品の興味深い部分です。
物語は最終的に四人の関係の破綻へと向かいます。町子や敏雄、本田が光子に対して抱く執着心は、それぞれの自己を破壊し、関係が崩壊する結末を迎えます。谷崎は、この結末を通して愛情や執着の危うさを提示し、読者に深い余韻を残します。
まとめ:「卍(谷崎潤一郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 和泉町子は光子に出会い、魅了される
- 光子は町子に肉体的、精神的に強く影響を与える
- 町子の夫・敏雄も光子に惹かれていく
- 町子と敏雄は光子を巡って対立する
- 光子の元恋人・本田も関係に加わる
- 四人の愛憎劇が激化していく
- 光子は三人を支配し、振り回す存在である
- 物語は四人の関係の崩壊を描く
- 谷崎独特の美的感覚が物語に彩りを与えている
- 愛と嫉妬が人間関係を壊すさまを描写している