『きよしこ』は、重松清が描く吃音症を抱えた少年「きよし」の成長物語です。彼の人生の葛藤や孤独、そして支えとなる人々との絆が丁寧に綴られています。
幼少期から言葉に詰まり、周囲にからかわれて孤立を感じるきよし。転勤族の父親の影響でたびたび引っ越しを繰り返し、彼は新しい環境になじめない不安を抱きます。しかし、先生や友人、祖母といった理解ある人々の温かな支えによって、少しずつ自分を受け入れるようになります。
成長とともに増していく自己嫌悪や劣等感を抱えながらも、きよしは理想の場所「きよしこ」を夢見て生きていきます。そして最終的には、完全には治らない吃音とともに「自分らしく生きる」という道を選ぶ決意を固めるのです。
- 『きよしこ』の基本的なあらすじ
- 主人公の抱える吃音症とその影響
- 主人公を支える人々との関係
- 成長過程での内面的な変化
- 最後に彼が選んだ生き方
「きよしこ(重松清)」の超あらすじ(ネタバレあり)
『きよしこ』は、重松清の短編集で、主人公の「きよし」が吃音症を抱えながらも成長していく姿を描いた作品です。彼が人との関わりの中で成長し、自己と向き合い、困難を乗り越えていく過程が細やかに描写されています。物語は時系列に沿って進行し、幼少期から青年期に至る彼の心の変化がさまざまなエピソードを通して描かれます。
幼少期:言葉に詰まり、不安と孤独に苛まれるきよし
物語の最初の舞台は、幼いきよしが初めて「言葉」に対する不安を感じる場面から始まります。彼は幼稚園や小学校に通う中で、自分が他の子どもたちと同じようにスムーズに言葉を発することができないことに気づきます。
発話のたびに詰まってしまい、言葉が途中で途切れてしまうため、言いたいことが伝わらないもどかしさに苦しむようになります。周囲の子どもたちはそんな彼を見て笑ったり、からかったりします。特に、クラスの男子たちから「どもり」「カメみたい」といった言葉で嘲笑されることもあり、その度にきよしは深い疎外感と恥ずかしさを感じます。
家庭では、転勤族の父親の影響で家族は何度も引っ越しを繰り返しており、友達との関係が途切れることが多いことも彼の心に影響を与えています。新しい環境に馴染むこと自体が難しい上、吃音症のせいで人と関わることにも消極的になってしまうため、きよしは内向的で人付き合いが苦手になっていきます。
小学生時代:理解者との出会いと、初めての友達
小学校では、きよしにとって数少ない「理解者」と呼べる存在と出会います。その一人が、担任の先生です。先生はきよしの言葉の詰まりに気づき、彼が発言する際に時間をかけてゆっくり聞いてくれたり、周囲の子どもたちにも「きよしの話を遮らないように」と配慮してくれたりします。これにより、彼は少しずつ自分の気持ちを表現できるようになっていきます。
また、クラスメートの中に一人、きよしの吃音を気にせずに接してくれる友達が現れます。その友達は、きよしが言葉に詰まっても苛立ったりせず、むしろ「ゆっくりでいいよ」と励ましてくれるため、きよしにとって特別な存在となります。この友達との交流は、きよしにとって自分のペースで話すことへの勇気を与え、少しずつ自信を持ち始める契機となります。
祖母の家での夏休み:癒しの場としての「きよしこ」
夏休みにきよしが過ごす祖母の家での時間は、彼にとって特別な癒しの時間です。祖母はきよしの吃音に理解を示し、彼が言葉に詰まることをまったく気にしません。祖母の温かく、ゆっくりとした話し方に包まれ、きよしはありのままの自分でいられる安心感を覚えます。
この夏休みの期間中、きよしは「きよしこ」という雪国の架空の世界を想像します。それは彼が心の奥底で思い描く「逃げ場」であり、困難な現実から解放される理想の場所です。この「きよしこ」は、彼が孤独を感じるときや、言葉に詰まって苦しくなったときに心の中で訪れる場所であり、彼の心の支えとなります。
中学生時代:自分の弱さへの葛藤と友人関係の変化
中学生になると、きよしの吃音症は依然として彼の生活に影響を及ぼしています。特に、思春期特有の自意識の強さや他者の視線を意識する年頃であるため、彼はますます自分の言葉の詰まりに対する不安や苛立ちを感じるようになります。
同級生たちが活発に会話を楽しむ中で、自分はうまく話せないことへの劣等感が強まり、自信を喪失してしまいます。彼の中には「普通に話せるようになりたい」という強い願望があるものの、現実にはうまくいかず、自己嫌悪に陥ることも多くなります。
しかし、中学生になっても彼を支えてくれる友人がいます。吃音症を理解し、彼が言葉に詰まっても焦らずに待ってくれる仲間たちの存在は、きよしにとっての心の支えとなります。彼らと共に過ごす時間は、きよしが自分の弱さを受け入れ、少しずつ前に進む力を与えてくれる大切なものでした。
高校生時代:自己との向き合いと未来への決意
高校生になると、きよしは自分自身をより深く見つめるようになります。言葉に詰まる自分が嫌で、「普通に話せるようになりたい」という気持ちは消えることはありませんが、彼は少しずつ「自分は自分で良いのだ」と受け入れ始めます。
また、これまで彼を支えてくれた家族や友人たちへの感謝の気持ちも芽生え、彼らが自分をありのままに受け入れてくれたことの大切さを痛感します。これにより、彼は完璧に言葉が話せるようになることだけが「幸せ」ではないことに気づき、吃音と共に生きる道を選ぶ覚悟が芽生えます。
物語の終盤では、きよしがこれからの未来に向けて、自分自身の言葉で「自分らしく生きていく」という決意を固める場面が描かれます。吃音症は完全には治らないものの、彼はそれでも前向きに歩み続けることを決め、少しずつ自分の心の中にある「きよしこ」のような理想の世界へと近づいていくのです。
まとめ:自己肯定と共感のメッセージ
『きよしこ』は、吃音症を持つ主人公が、自分の言葉の詰まりに悩みながらも成長していく姿を通して、自己肯定や他者との共感の重要性を訴える物語です。きよしは「言葉」を通じて他者とつながり、そしてそのつながりの中で少しずつ自分を受け入れていきます。
また、物語の中で彼が想像する「きよしこ」という架空の世界は、彼の心の純粋さや「ことば」に対する願望の象徴であり、読者に「ことば」の持つ力や他者とのつながりの意味について深く考えさせる重要なテーマとなっています。
「きよしこ(重松清)」の感想・レビュー
『きよしこ』は、重松清が描いた作品で、吃音症に悩む少年「きよし」の視点から成長と自己肯定をテーマにした物語です。この作品では、きよしが言葉に詰まり、周囲にからかわれる姿が描かれています。幼い彼にとって、吃音は単に「言葉の問題」ではなく、周囲から疎外され、自分自身を否定してしまう原因となる重大な要素です。作品の中で彼は、何度も引っ越しをする転勤族の家庭に育つため、新しい学校や環境に適応することにも大きな不安を抱えます。
幼少期のきよしは、言葉がうまく出ない自分が恥ずかしく、自分を隠したくなる思いを抱きながらも、先生やクラスメートからの理解に救われる場面が描かれています。特に彼の担任の先生は、きよしが発言に詰まっても遮らず、ゆっくりと待ってくれる姿勢で彼を支えます。このような周囲の支えは、彼にとって大きな励ましとなり、彼の内面的な成長を促す重要な要素となっています。
また、祖母の家での経験も重要な場面です。祖母はきよしの吃音を理解し、無理に言葉を出させようとはせず、彼が自分のペースで話すことを尊重します。この祖母との時間は、彼に安心感を与え、癒しの場となっています。そして、彼が想像の中で描く雪国「きよしこ」は、彼が心の中に抱える理想の場所であり、言葉に詰まっても自由に表現できる自己だけの世界です。この「きよしこ」は、きよしにとって現実逃避の場であると同時に、彼がいつか自分を受け入れられることへの希望を象徴しているとも言えます。
中学生になると、きよしは自己意識が高まり、他人の視線や評価を強く意識するようになります。思春期特有の悩みも相まって、言葉がうまく出ないことに対する苛立ちや劣等感が増していきます。周囲と同じように会話を楽しむことができないという自分への不満が募り、自己嫌悪に陥る場面もありますが、彼はそれでも少しずつ周囲の友人に支えられながら自分を受け入れることを学んでいきます。
物語の終盤では、きよしが高校生となり、自己の内面と向き合う場面が描かれます。完全に吃音を克服することができなくても、彼は自分を少しずつ受け入れ、吃音とともに生きていく決意を固めます。この決意は、彼が周囲からの期待に応えようとするのではなく、自分らしく生きることを選ぶという自己肯定の現れであり、この選択が物語の重要なクライマックスとなっています。
この作品は、きよしの吃音症を通じて、他者とのつながりや、支え合いの大切さを浮き彫りにしています。『きよしこ』に登場する先生や祖母、友人たちは、彼を無理に変えようとはせず、彼が自分らしくいることを見守り、支えてくれる存在です。このような理解ある人物たちとの出会いが、きよしの成長に大きく影響を与えます。
『きよしこ』は、読者に「自己肯定」と「他者との共感」の大切さを訴える作品であり、特に吃音症や障害に対する偏見や誤解についても深く考えさせられます。
まとめ:「きよしこ(重松清)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 吃音症に苦しむ少年「きよし」が主人公である
- きよしは幼少期から言葉に詰まり苦しんでいる
- 周囲からのからかいや疎外を経験している
- 父親が転勤族で環境の変化が多い
- 理解ある先生や友人がきよしを支えている
- 祖母の家で過ごす時間が彼にとっての癒しである
- 理想の場所「きよしこ」を心の中で思い描く
- 成長とともに自己嫌悪や劣等感が増していく
- 最終的に吃音とともに生きる決意を固める
- 自己肯定と他者の共感が物語の大きなテーマである