黄金比の縁(石田夏穂)の超あらすじとネタバレ

「黄金比の縁」(石田夏穂)は、主人公が化学の専門知識を持ちながらも社内政治に翻弄されるサスペンス小説です。

大学院で有機化学を学び、Kエンジニアリングに入社した主人公は、社内チャットボット「マドカちゃん」の見た目を外部に漏らしてしまい、人事部に左遷されます。新卒採用担当となった主人公は、顔の黄金比を基準に採用を行い、会社への復讐を図ります。しかし、会社の降格やリストラ、裏事情を知る学生との出会いを通じて、ビジネスの厳しさと人間関係の複雑さを学びます。

この物語は、ビジネスの裏側を描きつつ、復讐と成長のドラマを展開します。

この記事のポイント
  • 主人公がどのようにして人事部に左遷されたか
  • 主人公の採用基準である「顔の黄金比率」の詳細
  • 採用活動の改善とその影響
  • 会社の降格とリストラの状況
  • 町田雄大の入社とその裏事情

黄金比の縁(石田夏穂)の超あらすじとネタバレ

 

第1章: 入社から左遷まで

私は大学と大学院で有機化学を学びました。化学の研究が好きで、いろいろな実験を行いました。大学院を修了した後、十二年前に(株)Kエンジニアリングに入社しました。

入社後、私はとても人気のあるプロセス部の尿素・アンモニアチームに配属されました。このチームは会社の中でも特に重要な部門で、多くの社員がここで働きたいと思っています。私はこのチームで働けることにとても喜びました。

しかし、あるとき問題が起きました。私は経済産業省の若手職員に、会社のチャットボット「マドカちゃん」の外見を見せてしまったのです。「マドカちゃん」は、あるマンガキャラクターに似た昭和風の見た目をしていました。残念ながら、この情報が世間に漏れてしまい、SNSで大きな話題になりました。「マドカちゃん」の外見が多くの人に批判され、炎上してしまったのです。

その結果、私は「内部告発」をした裏切り者として見なされ、会社の重要な部門から外されてしまいました。新しい配属先は人事部で、そこでは主に新卒採用を担当することになりました。この左遷は私にとってとてもショックでしたが、新しい仕事に取り組むしかありませんでした。

このようにして、私は会社の中で大きな変化を経験しました。入社当初は人気のあるチームで働いていましたが、一つのミスで人事部に異動させられてしまいました。しかし、この経験が私の新しいキャリアのスタートとなりました。

第2章: 人事部での新卒採用

私は人事部に異動してから、新卒採用を担当することになりました。新卒採用とは、大学を卒業したばかりの学生を会社に入れるためのプロセスのことです。この仕事はとても重要で、会社の未来を左右する役割です。

毎年、就職活動が解禁される3月1日になると、私たちの忙しいシーズンが始まります。今年も、同じチームの太田さんと中村さんと一緒に、東京ビッグサイトで行われる大規模な合同説明会に参加しました。この説明会では、多くの企業がブースを設けて、自分たちの会社を学生に紹介します。

私たちKエンジニアリングのブースには、多くの学生が集まりました。立ち見する人までいて、人気の高さがうかがえました。私たちの会社は尿素・アンモニアの製造を得意としており、これが時勢のSDGs(持続可能な開発目標)にピッタリ合っているため、ここ数年で人気が急上昇しているのです。

Kエンジニアリングの新卒採用のプロセスは、まずエントリーシートの提出から始まります。その後、一次面接とグループディスカッション、二次面接、そして最終面接という順に進んでいきます。このうち、私と太田さん、中村さんが担当するのは一次面接です。

一次面接が終わると、私たちは夜の8時ごろから選抜会議を行います。これから6月までの間に、約千人の応募がある見込みです。私たち三人で、まず四分の一に絞り込みます。合格者にはすぐに二次面接の通知を出さなければなりません。

選抜会議では、中村さんが自分の評価シートをもとに推した学生を、太田さんが否定します。私もそれに同意し、その学生は不合格となります。次に太田さんが推した学生を中村さんが否定します。私も同意して、その学生も不合格となります。このようにして、短時間で合否が決まっていきます。

実は、私には他人には内緒の採用基準があります。それは「顔の黄金比率」です。具体的には、顔の縦の比率は髪の生え際から目、目から鼻先、鼻先からあごまでが三等分になっていること。横の比率はこめかみから目尻、目尻から目頭、目頭間、目頭から目尻、目尻からこめかみまでが五等分になっていることです。この黄金比に合う人が「できる人」だと考えています。

最初のうちは、私は会社に復讐するつもりで、黄金比に合わない学生を合格させていました。つまり、普通の人を採用していたのです。しかし、後になって気づきました。30年も会社にしがみつく凡人より、3年で会社を辞める優秀な人を採用するほうが、会社にとって痛手なのです。

そのことに気づいて以来、私は黄金比に基づいて「できる人」を合格させるようになりました。その結果、新入社員の3年離職率が少しずつ上昇していきました。これが私の新たな戦略でした。

第3章: 採用活動の改善と影響

私が人事部に配属されてから数年が経ち、新入社員の3年離職率が少しずつ上昇していることに気づきました。この離職率の上昇は、私の採用基準である「顔の黄金比」によるものです。優秀な人材が早期に会社を辞めることで、会社にとっては大きな打撃となっていました。

そんな中、私は新卒採用活動の改善を任されることになりました。まず最初に取り組んだのは、会社のパンフレットやポスターのリニューアルです。これらの見た目をプロに任せて一新しました。新しいデザインは現代的で、学生たちの目を引くものでした。この見た目の変更だけで、応募者がなんと三割も増えました。

ある年の内定式が終わった後、採用面接で落とされた学生が泣きながら「入社させてほしい」とすがりついてきました。その時、チーム最古参の加藤さんが「こういうのはご縁。縁がなかったのです」と学生をなだめて帰らせました。この出来事は、私にとっても心に残るものでした。

さらに私は、会社のホームページ(HP)の見た目も改善することにしました。プロのデザイナーに依頼し、HPのデザインを一新しました。これにより、会社のイメージがより良くなり、応募者数はさらに増加しました。

また、私たち新卒採用チーム自身の見た目も改善することに努めました。説明会や面接では、学生たちに好印象を与えることが大切です。私たちは清潔感のある服装や、親しみやすい話し方を心掛けるようになりました。

しかし、そんな時に会社が大きな危機に直面しました。会社が設計ミスをしてしまい、その結果、東証一部から二部に降格してしまったのです。この降格は会社にとって大きな打撃でした。さらに、FEDという投資会社が支援を申し出る代わりに、人員整理を要求してきました。人員整理とは、社員を減らすことです。

部長たちは人員整理に慣れていないため、私がアドバイザーとしてリストラ(解雇)の応援をすることになりました。ある部門では、二人のリストラ候補がいました。私は、ためらわずに一ミリでも黄金比に近い方を解雇候補として推挙しました。

リストラの嵐が吹き荒れる中、私たちのチーム最古参の加藤さんもまた、リストラされてしまいました。長年会社に尽くしてきた加藤さんが去ることは、私たちにとっても大きなショックでした。

このようにして、採用活動の改善を進める一方で、会社の危機に対処する日々が続きました。私たちの努力によって応募者は増えましたが、会社全体の状況は依然として厳しいものでした。それでも私は、自分の役割を果たし続けることを心に誓いました。

第4章: 会社の危機とリストラ

会社が東証二部に降格したことは、私たちにとって大きなショックでした。この降格により、会社の信頼性が損なわれ、経営はさらに厳しくなりました。そんな中、FEDという投資会社が支援を申し出てきましたが、その条件として人員整理、つまり社員の解雇を求めてきたのです。

部長たちは人員整理に慣れていなかったため、私がアドバイザーとしてリストラの応援をすることになりました。リストラはとても辛い作業です。誰を解雇するかを決めるのは非常に難しく、会社の未来にも大きな影響を与えます。

ある部門では、二人のリストラ候補がいました。私はためらわずに、顔の黄金比に基づいて判断しました。黄金比に少しでも近い方を残し、もう一人を解雇候補として推挙しました。この決定は、私にとっても重いものでしたが、冷静な判断が求められていました。

リストラの嵐が吹き荒れる中、私たちのチームの最古参である加藤さんもリストラされてしまいました。加藤さんは長年会社に尽くしてきた頼れる存在でした。彼がいなくなることは、私たちにとって大きな痛手でした。加藤さんはいつも冷静で、私たちを支えてくれる存在だったのです。

加藤さんのリストラが決まった時、私は深い悲しみを感じました。しかし、会社の状況を考えると、誰かが犠牲になるしかないことも理解していました。リストラは決して楽な仕事ではありませんでしたが、会社のためには仕方のないことでした。

リストラが進む中、私たちの採用活動にも影響が出てきました。新しい社員を採用する一方で、古い社員を解雇するという矛盾した状況に直面しました。私は自分の役割を果たすために、引き続き採用活動を続けましたが、その裏で多くの同僚が去っていくのを見るのはとても辛いことでした。

このようにして、会社の危機と人員整理の厳しい現実を乗り越えながら、私は自分の仕事を続けました。リストラの経験は私にとって大きな試練でしたが、同時に会社の未来を見据えた重要な決断を下す力を養う機会でもありました。

第5章: 町田雄大の入社と裏事情

翌日、今年二度目の大規模合同説明会が東京ビッグサイトで開かれました。私たちは再びブースを設置し、多くの学生に会社の魅力を伝えました。この説明会には多くの学生が集まり、その中には特に目立つ一人の男子学生がいました。彼の名前は町田雄大と言います。

町田雄大がブースに来た時、中村さんは彼に強く興味を持っている様子でした。私もその理由を知りたくなり、後で詳しく調査しました。調べてみると、町田雄大は退職した元役員の橋口さんの前妻の息子であることが分かりました。橋口さんは会社を辞めた後、Kエンジニアリングが大口の受注をもぎ取った発注元の会社に転職していました。

もし町田雄大の入社が、Kエンジニアリングがその発注元から大口の受注を取るためのコネだったとしたらどうでしょうか? この疑念は私の中で大きく膨らみました。さらに調査を進めると、中村さんはこの裏事情を知っているようでした。中村さん自身も、同じようなコネで入社したのかもしれないと思うようになりました。

町田の合否を決める選抜会議で、太田さんがトイレに立った隙に、私は中村さんに自分の考えをぶつけました。「町田君が橋口さんの息子で、彼の入社が今回の大口受注に影響しているんじゃないか?」と問いかけました。中村さんは驚き、明らかに動揺していました。この反応から、私の考えが正しいことがわかりました。

太田さんが戻ってきた時、私は考えを変え、町田雄大を合格させることに賛成しました。中村さんも私の意図を理解したようで、町田雄大は最終的に合格となりました。

こうして、町田雄大の入社が決まりました。裏事情が絡んでいることは承知の上でしたが、会社の大口受注が確実になるならば、それも一つの戦略だと思ったのです。この経験は、私にとっても大きな学びとなりました。ビジネスの世界では、時には裏事情を理解し、それを利用することも必要なのだと感じました。

以上のようにして、私は様々な経験を通じて、人事部での仕事に対する理解を深めていきました。表面だけではなく、裏側の事情にも目を向けることで、より深い洞察を得ることができるようになったのです。これからも私は、会社のために最善の判断を下し続けるつもりです。

黄金比の縁(石田夏穂)の感想・レビュー

「黄金比の縁」(石田夏穂)は、主人公のキャリアと人間関係の変化を描いたサスペンス小説です。この物語は、仕事の中での成功と挫折、そして復讐心を抱きながらも成長していく主人公の姿がリアルに描かれています。

主人公が大学と大学院で有機化学を学び、Kエンジニアリングに入社するところから物語は始まります。入社後、人気のある尿素・アンモニアチームに配属されますが、会社のチャットボット「マドカちゃん」の外見がSNSで炎上し、主人公は人事部に左遷されてしまいます。この出来事が、主人公の人生を大きく変えるきっかけとなります。

人事部に異動した主人公は、新卒採用を担当することになります。ここで、顔の黄金比率を基準に採用を行うという独自の基準を設けます。最初は会社に復讐するためにこの基準を使っていましたが、後にこの基準が会社にとっても影響を与えることに気づきます。この部分は、主人公の内面の葛藤と成長がよく描かれていて、とても興味深いです。

物語が進むにつれて、会社は設計ミスによって東証二部に降格し、人員整理を余儀なくされます。主人公はリストラのアドバイザーとして活動し、冷静に判断を下す姿が描かれます。リストラの過程で、長年会社に尽くしてきた同僚が解雇される場面は、とても切なく感じました。

また、主人公が採用活動を改善するために、会社のパンフレットやポスターをリニューアルし、応募者を増やす工夫をするところも印象的です。これにより、会社のイメージが向上し、応募者数が増えるという結果が出ます。

物語の最後に登場する町田雄大という学生は、元役員の橋口さんの前妻の息子であり、裏事情が絡む入社となります。この部分では、ビジネスの世界での裏事情やコネの存在がリアルに描かれており、非常に興味深かったです。

まとめ:黄金比の縁(石田夏穂)の超あらすじとネタバレ

上記をまとめます。

  • 主人公が大学と大学院で有機化学を学ぶ
  • Kエンジニアリングに入社し、尿素・アンモニアチームに配属される
  • チャットボット「マドカちゃん」の外見がSNSで炎上する
  • 主人公が人事部に左遷され、新卒採用を担当することになる
  • 新卒採用で「顔の黄金比率」を基準に選考する
  • 採用基準により新入社員の3年離職率が上昇する
  • パンフレットやポスターをリニューアルして応募者が増加する
  • 会社が設計ミスで東証二部に降格し、人員整理が要求される
  • 主人公がリストラのアドバイザーとして活動する
  • 元役員の息子である町田雄大が入社し、裏事情が絡む