「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」は、時間が逆に進む世界から来た少女・福寿愛美と、普通の大学生・南山高寿との切ない恋愛物語です。
物語は叡山電鉄での運命的な出会いから始まり、二人はデートを重ねる中で徐々に親密になっていきます。しかし、愛美が未来の出来事を記した手帳を持ち、それに従って行動していることが明らかになり、高寿は驚きます。二人は手帳をめぐってすれ違い、時に喧嘩をしながらも、お互いの気持ちを理解し、限られた時間を大切に過ごそうと決意します。愛美にとって「初めて」はすべて「最後」でもあり、彼女の涙には深い理由があったのです。
運命に翻弄されながらも愛し合う二人の姿が描かれた、切なくも心温まるストーリーです。
- 高寿と愛美の出会いと恋愛の始まり
- 愛美が未来を知る手帳を持ち、異なる時間軸に生きていること
- 二人のデートや日常の中で感じる違和感とすれ違い
- 手帳に従うことで二人の関係が維持されていること
- 高寿が愛美との残りの時間を大切にする決意をすること
京都市北部を走る叡山電鉄の電車の中で、高寿(たかとし)は、ある日偶然にも運命的な出会いをします。窓際の席に座って外を見つめる一人の少女、福寿愛美(ふくじゅ まなみ)。彼女の美しい横顔と物静かな雰囲気に心を奪われた高寿は、衝動的に声をかけました。
「こんにちは、どこに行くんですか?」と尋ねた高寿に、愛美は少し驚いた表情を見せながらも、「買い物に行くところです」と微笑んで答えます。高寿はその笑顔にさらに魅了され、しばらくの間、会話を楽しみます。しかし、このまま会話が終わってしまうことに寂しさを感じた高寿は、もう会えないのかと思い込みます。
ところが、別れ際に愛美は「また会えるよ」と不思議な言葉を残して去っていきます。高寿はその言葉に救われた気持ちになり、次に会う機会を心待ちにします。そして、彼の期待通り、愛美は再び彼の前に現れます。二人は徐々に親しくなり、デートを重ねていきます。
デートのたびに、愛美はまるで雑誌から飛び出してきたような完璧な服装と髪型で現れます。その姿に高寿は驚き、少しの自信のなさを感じることもありましたが、同時にそんな彼女に惹かれていく自分を止められませんでした。そして、ある日高寿は愛美に自分の気持ちを告白します。愛美はその場で涙を流し、「私、嬉しいときも悲しいときもすぐに涙が出ちゃうの」と言います。その言葉に高寿は胸が熱くなり、二人の関係はさらに深まっていくのでした。
高寿と愛美の交際は順調そのものでした。高寿は愛美を親友の中島(なかじま)や実家の両親に紹介し、そのたびに彼女の魅力を再確認し誇らしく思っていました。愛美は誰にでも気さくで、明るく、そして思いやりのある性格で、高寿にとってまさに理想の恋人でした。
二人は休日になると必ず一緒に過ごしました。映画館で最新の映画を見たり、下鴨神社や清水寺などの観光スポットを訪れたり、ただ京都の街を歩くだけでも楽しかったのです。高寿は少しでも愛美と長く一緒にいたくて、何気ない時間すらも大切にしていました。
しかし、デートを重ねる中で、高寿は次第に愛美の行動や言葉に違和感を覚えるようになります。ある日、愛美がいつも持ち歩いている手帳の中を偶然見てしまいます。そこには未来の日付がびっしりと書かれ、まだ起こっていない出来事が具体的に記されていました。例えば「5月5日、高寿とカフェで再会」「6月1日、映画館デート」など、まるで未来を見てきたかのような詳細な予定が書かれていたのです。
動揺する高寿に、愛美は「もし、私があなたの未来がわかると言ったらどうする?」と真剣な表情で話します。そして、愛美は自分が高寿とは違う世界、つまり時間の流れが逆の世界から来ていると説明します。愛美の世界では、時間が高寿の世界とは逆に進んでおり、愛美が高寿と会えるのはあと十数日しかないのだということでした。高寿はその話に大きなショックを受けましたが、愛美のことを受け入れ、残された時間を一緒に過ごすことを決意します。
愛美は高寿と会うために、手帳に書かれている通りの行動を毎日していました。手帳に従うことで、高寿と会うための準備をし、未来の出来事を再現するようにしていたのです。しかし、それは愛美にとっても楽なことではありませんでした。手帳通りに行動することが二人の運命を守るために必要なことだと分かっていたからです。
最初のうちは、その不思議な行動も二人の間では面白がられていました。しかし、次第に高寿は愛美の行動に対して反発心を抱くようになります。手帳に従って同じ場所に行き、決められた会話をすることに意味があるのかと疑問を持ち始めるのです。
ある日、高寿は「そんなのに縛られなくてもいいじゃないか」と愛美に感情をぶつけました。しかし、愛美は「それがなければ私たちは出会えなかったの」ときっぱりと拒否します。これが二人にとって初めての大きな喧嘩でした。愛美は手帳通りの行動をやめることはできないと言い、高寿はそのことに納得できず、二人は少し距離を置くようになります。
愛美と距離を置いていた高寿でしたが、その間も心の中は愛美のことでいっぱいでした。彼女と過ごした日々、笑顔、涙、すべてが頭から離れませんでした。そして、ある日ふとした瞬間に気づきます。愛美がいつも完璧な姿で現れ、何かあるたびに涙を流していたのは、自分以上に辛い思いをしていたからだと。
愛美にとっては、高寿との「初めての経験」は全て「最後の瞬間」だったのです。初めて手をつないだ日、初めて告白し合った日、それらは愛美にとって永遠に続いてほしい思い出でありながら、二人が過ごす最後の時間でした。知り合いから恋人へ、そしてまた見知らぬ人に戻らなければならない運命を背負っていた愛美。彼女が自分の世界に戻るたびにどれだけの涙を流していたか、高寿はようやく理解します。
愛美の心境を思うと、高寿はじっとしていられませんでした。つらい現実を受け入れながらも、愛美との残り少ない時間を大切にすることを決意します。高寿は愛美に改めて「最後まで一緒にいよう」と伝え、二人はかけがえのない時間をもう一度共有し始めます。涙を流しながらも、最後の一日まで精一杯愛し合うことを誓うのでした。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の感想・レビュー
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」を読んで、まず感じたのは、高寿と愛美の関係が非常に切なく、感動的であるということです。物語の始まりである叡山電鉄の電車内での出会いから、二人の関係がどんどん深まっていく様子が丁寧に描かれており、読者としても高寿の気持ちに共感しやすくなっています。高寿が愛美に声をかけ、短い会話を楽しんだ後に「また会えるよ」と言われる場面は、非常に印象的で、この物語の運命的な始まりを予感させます。
物語が進むにつれて、愛美が実は別の時間軸から来た人物であることが明かされる展開はとても驚きました。愛美が持つ手帳には未来の出来事が記されており、その内容通りに行動しなければ二人は出会えないという事実が、高寿にとっても愛美にとっても大きなプレッシャーになっていることが伝わってきます。二人が一緒にいるためには、愛美が手帳の内容に従わなければならないという設定は、物語全体に緊張感と切なさを生んでいます。
高寿が愛美の行動に対して次第に違和感を覚え、手帳の存在に疑問を抱くシーンでは、恋人同士の心のすれ違いや葛藤がリアルに描かれており、感情移入しやすかったです。二人の初めての喧嘩の場面は、現実的でありながらも、手帳に縛られた愛美の心情が痛いほど伝わってきて、読んでいて胸が締めつけられました。
また、愛美が「初めて」の出来事を「最後」として経験しなければならないという設定は、非常に悲しく、感動的でした。高寿と過ごす時間が愛美にとっては逆に失われていくものだと知ったときの高寿の気持ちがとてもよく伝わり、物語の終盤に向かうにつれて、二人がどういう形で時間を共有するのかが気になって一気に読んでしまいました。
最後に、高寿が愛美との残りの時間を大切にすることを決意する場面では、彼の愛情と覚悟が強く伝わり、読者としてもその決意に心を打たれました。二人の物語は一筋縄ではいかない運命に翻弄されつつも、最後まで互いを思い合う姿勢がとても美しく描かれていました。切なさと温かさが交錯するこの作品は、時間を超えた愛の物語として非常に感動的であり、多くの読者の心に深く響くものだと感じました。
まとめ:「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 高寿は電車内で愛美と運命的に出会う
- 愛美は高寿に「また会えるよ」と声をかける
- 二人はデートを重ね、親密な関係になる
- 愛美は常に完璧な姿で現れ、高寿を魅了する
- 高寿は愛美に告白し、愛美は涙を流す
- 愛美の手帳には未来の出来事が記されている
- 愛美は時間が逆に流れる別の世界から来ている
- 高寿と愛美は手帳の行動に従い続ける
- 二人は手帳の内容をめぐり喧嘩し、距離を置く
- 高寿は愛美との残りの時間を大切にすることを決意する