野崎まど「HELLO WORLD」の超あらすじ(ネタバレあり)

HELLO WORLDのあらすじ(ネタバレあり)です。HELLO WORLD未読の方は気を付けてください。ガチ感想も書いています。

野崎まどさんのHELLO WORLDは、ただのSFではありません。時を超えた一途な想いと、内気な少年が困難に立ち向かい成長していく姿が胸を打つ、感動的な物語なんです。京都という情緒あふれる舞台設定が、SF的な要素と見事に融合し、読者を独特の世界観へと引き込みます。

主人公の堅書直実が、自分自身の未来の姿と出会うという衝撃的な展開から物語は幕を開けます。未来の直実が過去にやってきた目的は、現在の直実の恋人となるはずの一行瑠璃を救うこと。未来の直実の言葉を半信半疑で受け止める現在の直実ですが、愛する人を失う未来を変えるため、彼なりの方法で奮闘していくことになります。

グッドデザインという不思議なアイテムを手に、直実は未来を変えようと奔命します。古本市を成功させようと尽力する直実と一行の交流は、読者の心を温かくするでしょう。しかし、物語は単なる恋愛SFでは終わりません。予期せぬ裏切りと、その先に待ち受ける真実が、読者をさらなる驚きへと誘います。

この物語は、過去を変えることの難しさ、そして本当に大切なものは何かを深く考えさせられます。純粋な愛と、それを守るための直実の覚悟が、読む者の胸に強く響き渡るはずです。

HELLO WORLDのあらすじ(ネタバレあり)

物語は、高校生になったばかりの堅書直実が、内気な自分を変えたいと願うところから始まります。本を読むのが好きで、クラスに馴染めずにいた直実は、ある日、図書館で借りた本を奇妙なカラスに奪われます。カラスを追いかけた先で、彼はマントをまとった不気味な男と出会います。男は直実の名前を知っており、恐怖を感じた直実はその場を逃げ出しますが、帰り道で再びその男が現れます。その男こそ、10年後の未来からやってきた直実自身でした。

未来の直実が過去にやってきた目的は、3か月後に起こる悲しい事故を防ぐこと。現在の直実の恋人となる一行瑠璃が、花火大会での落雷事故で命を落とすというのです。未来の直実は、まだ見ぬ恋人を救うために、現在の直実に協力を求めます。信じられない直実ですが、未来の自分が持つ「グッドデザイン」という、望むものを生み出すことができる不思議な手袋の力を目の当たりにし、未来を変えるための特訓を始めることを決意します。

未来の直実が渡した「最強マニュアル」に従い、直実と一行瑠璃の距離は少しずつ縮まっていきます。同じ図書委員として活動する中で、古本市を成功させるために奮闘する直実と一行。特に、焼けてしまった古本を直実がグッドデザインで復元し、古本市を成功させる場面は、二人の絆を深める大きなきっかけとなります。そうして、花火大会の日までに、直実と一行は無事に恋人同士になることができました。

しかし、花火大会当日、運命の落雷が一行を襲います。直実はグッドデザインでブラックホールを生み出し、一行を雷から救い出しますが、その直後、未来の直実が一行の意識を10年後の世界へ持ち去ろうとしていることに気づきます。実は、落雷によって一行は脳死状態に陥っており、未来の直実は脳死状態の一行に、現在の彼女の意識を移植することで救おうとしていたのです。その事実を知った直実は、愛する一行の意識を取り戻すため、自ら10年後の世界へと向かうことを決意します。時空を超えた直実と未来の直実の間に、一行の意識を巡る最後の戦いが幕を開けます。

HELLO WORLDの感想・レビュー

野崎まどさんのHELLO WORLDを読み終えて、まず感じたのは、その圧倒的な構成力と、読み終わった後に残る深い余韻でした。正直なところ、読み始める前は「タイムリープもの」という括りで、ある程度の予測はできるのではないかと思っていました。しかし、本作はそうした安易な予測を軽々と裏切り、読者を物語の深淵へと誘い込むのです。

まず、主人公の堅書直実の描写が秀逸です。内気で自分を変えたいと願いながらも、なかなか行動に移せない彼の姿は、多くの読者が共感できるのではないでしょうか。そんな彼が、未来の自分との出会いをきっかけに、愛する人を守るために奮闘する姿は、本当に胸を打たれます。特に印象的だったのは、彼が一行瑠璃との距離を縮めるために「最強マニュアル」を実践しようとするも、やはり彼の本来の性格が邪魔をして、なかなかうまくいかない場面です。それでも、ひたむきに努力を続ける姿は、読者に応援したい気持ちを抱かせます。彼の成長が、単なる強さの獲得ではなく、弱さを抱えながらも前に進む「人間らしさ」として描かれている点が、非常に魅力的でした。

そして、物語の舞台である京都の描写も素晴らしいです。伏見稲荷の千本鳥居、風情ある街並み、そして花火大会の情景が、SF的な設定と見事に調和しています。単なる背景としてではなく、物語の重要な要素として京都が息づいているように感じられました。和風なSFという、あまり馴染みのない組み合わせが、これほどまでにしっくりくることに驚きを隠せません。むしろ、そのミスマッチが、HELLO WORLD独特の世界観を構築する上で不可欠な要素となっているのかもしれません。

一行瑠璃というヒロインもまた、印象的です。クールで何を考えているのか分かりにくい彼女が、直実との交流を通して少しずつ心を開いていく様子は、微笑ましい限りです。特に、古本市での二人のやり取りや、本を通じて心が通じ合う場面は、この物語の純愛の側面を強く感じさせます。彼女が直実にとって、どれほど大切な存在であるかが、読者にもひしひしと伝わってきます。

物語の核心に迫る部分では、SF的な仕掛けが存分に発揮されます。未来の直実が過去にやってきた真の目的、そして「グッドデザイン」というアイテムの持つ意味が明らかになるにつれ、物語は一気に加速していきます。タイムリープという設定を単なるギミックとしてではなく、登場人物たちの葛藤や絆を深めるための重要な装置として活用している点が、野崎まどさんの手腕だと感じました。特に、終盤で明かされる真実には、鳥肌が立ちました。そこにあったのは、愛する人を救うためならどんな犠牲も厭わないという、狂気にも似た純粋な愛の形でした。そして、その愛が、必ずしも善意だけで成り立っているわけではないという、人間の複雑な感情を描き切っている点も、本作の大きな魅力です。

個人的に最も心を揺さぶられたのは、直実が一行の意識を取り戻すために10年後の世界へと向かう決意をする場面です。そこには、内気だった少年が、愛する人のために自ら危険な領域に踏み込んでいく、確固たる意志が示されていました。そして、未来の直実との対峙は、自分自身の可能性、そして人間が持つ選択の自由と責任を問いかけるような、哲学的な問いを投げかけます。どちらの直実も、それぞれの一行瑠璃を愛し、救おうとしている。しかし、その方法は異なり、それぞれの愛の形がぶつかり合う様は、非常に切なくも美しいものでした。

HELLO WORLDは、単なる恋愛SFという枠には収まりきらない、多層的な物語です。愛、成長、そして人間のエゴと純粋さが複雑に絡み合い、読者に深い感動と考察の機会を与えてくれます。映像で見てみたいと思わせるほどの迫力ある展開と、読後も心に残るメッセージ性。これは、間違いなく多くの人に読んでほしい一作です。SFが苦手な方でも、きっとその世界観に引き込まれることでしょう。

まとめ

HELLO WORLDのあらすじ(ネタバレあり)を以下に箇条書きでまとめました。

  • 内気な高校生・堅書直実が、ある日、10年後の未来から来た自分自身と出会います。
  • 未来の直実は、3か月後に起こる落雷事故で恋人となる一行瑠璃が命を落とすことを告げます。
  • 未来の直実は、直実に願ったものを生み出す「グッドデザイン」を渡し、一行を救うための特訓を始めさせます。
  • 直実は「最強マニュアル」に従い、一行瑠璃と親密になり、やがて恋人同士になります。
  • 古本市が開催される際、焼けてしまった古本を直実がグッドデザインで復元し、古本市を成功させます。
  • 花火大会の日、予言通り落雷が発生し、直実はグッドデザインでブラックホールを生み出し、一行を雷から救います。
  • しかし、未来の直実が、脳死状態の一行の意識を10年後の世界へ持ち出そうとしていることが判明します。
  • 真実を知った現在の直実は、愛する一行の意識を取り戻すため、自ら10年後の世界へと向かいます。
  • 10年後の世界で目覚めた一行は、未来の直実に対し、違和感を覚えます。
  • 過去からやってきた直実と未来の直実、二人の「直実」の間で、一行瑠璃を巡る最終決戦が繰り広げられます。