押絵と旅する男(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

江戸川乱歩の短編小説「押絵と旅する男」の超あらすじとネタバレを詳しく紹介します。この作品は、蜃気楼を見るために訪れた魚津で、主人公が出会った不思議な男との奇妙な体験を描いています。

物語は、男が持つ押絵と遠眼鏡に隠された驚くべき秘密に焦点を当て、読者を幻想的な世界へと誘います。この記事を通じて、作品の深い理解と興味をさらに深めていただければ幸いです。

この記事のポイント
  • 物語の概要と主要な出来事
  • 主人公が経験した奇妙な出来事の詳細
  • 押絵と遠眼鏡に隠された秘密
  • 登場人物の心の動きと関係性
  • 物語の結末とその意味

押絵と旅する男(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

第1章: 魚津への旅と謎の同乗者

ある日、私は魚津という場所に蜃気楼(しんきろう)を見に行くことにしました。蜃気楼とは、遠くの景色が空中に浮かんで見える不思議な現象のことです。初めて蜃気楼を見た時のことを覚えていますか?蜃気楼は、とても不思議で心を惑わせるような力があります。そのため、私もすっかり蜃気楼に見とれてしまい、気がついたら時間が過ぎていました。

その日の夕方、私は魚津駅から上野行きの汽車に乗りました。遅い時間だったので、汽車の中はガラガラで、二等車には私の他にたった一人の男しか乗っていませんでした。窓の外を見ると、灰色の空と海が見えていて、夕方の薄暗い時間が迫っていました。

汽車が走り出してしばらくすると、その唯一の同乗者である男が突然立ち上がり、風呂敷(ふろしき)に包まれていた何かを取り出し、それを窓の外に向けて立てかけるという奇妙な行動をしました。その様子がとても不思議だったので、私は彼をじっと観察しました。

その男は黒い髪をしていて、最初は40歳くらいに見えました。しかし、顔の皺(しわ)を見ると60歳にも見えたので、不気味な感じがしました。その男は、私が彼を見ていることに気づいたのか、私に近づいてきました。そして、「これを見てみませんか?」と声をかけてきました。私は好奇心にかられ、その物を見せてもらうことにしました。

彼が見せてくれたのは、泥絵の具で描かれた押絵(おしえ)でした。押絵とは、絵に立体感を出すために細工を施したものです。その押絵には、毒々しい雰囲気の背景に、二人の人物が描かれていました。一人は洋服を着た白髪の老人で、窮屈そうに座っています。その老人の膝には、日本髪をした振袖姿の若い女性が寄りかかっていました。

私はこれまでに正月飾りの羽子板(はごいた)で押絵を見たことがありましたが、この押絵はそれらとは比べ物にならないほど精巧に作られていました。そのため、私は「奇妙だな」と感じました。その理由を考えてみると、押絵の人物たちに「生気」が感じられることに気づきました。まるで生きているかのように感じられたのです。

押絵の人物たちがまるで生きているかのように感じられたことで、私は驚きました。その感覚はまるで、偉大な芸術家によって命を吹き込まれたかのようでした。押絵の人物たちは、今にも動き出しそうなほど生き生きとしていました。

このように感じている私に気づいた男は、遠眼鏡(とおめがね)という古い双眼鏡を差し出してきました。そして、「この遠眼鏡で押絵を見てみませんか?」と言いました。私は不思議な提案だと思いながらも、なぜかその押絵を遠眼鏡で見てみたいと思いました。

第2章: 押絵の奇妙な魅力

私はその男をじっと観察しました。彼は黒々とした髪をしていて、一見すると40歳くらいに見えましたが、顔には深い皺があり、60歳くらいにも見えました。そのため、少し不気味に感じてしまいました。男は私が不思議そうに見ていることに気づいたのか、近づいてきて、立てかけたものを見てみませんかと声をかけてきました。私は興味をそそられ、その物を見せてもらうことにしました。

男が見せてくれたのは、泥絵の具で描かれた押絵でした。押絵とは、絵に立体感を出すために細工を施したもので、この押絵には毒々しい雰囲気の背景に二人の人物が描かれていました。一人は洋服を着た白髪の老人で、窮屈そうに座っていました。その老人の膝には、日本髪をした振袖姿の若い女性が寄りかかっていました。

私は以前に正月飾りの羽子板で押絵を見たことがありましたが、この押絵はそれらとは比べ物にならないほど精巧に作られていました。そのため、私は「これはすごい」と感じました。しかし、単に精巧なだけでなく、何か奇妙な感覚がありました。それが何なのかを考えてみると、押絵の人物たちに「生気」が感じられることに気づきました。

その押絵はまるで、生きているかのように感じられました。まるで偉大な芸術家によって命を吹き込まれたかのように、押絵の人物たちは今にも動き出しそうなほど生き生きとしていました。このような感覚は初めてだったので、私は驚きました。

男は私の様子に気づいたのか、遠眼鏡という古風な双眼鏡を取り出してきました。そして、「この遠眼鏡で押絵を見てみませんか?」と言いました。私は不思議な提案だと思いながらも、好奇心からその遠眼鏡を手に取りました。しかし、男は「遠眼鏡を逆さまにしてあの絵を覗いてはいけません」と言いました。その言葉に少し驚きながらも、私は正しい方向で遠眼鏡を覗くことにしました。

遠眼鏡を通して押絵を見てみると、若い女性の全身から生気があふれているのが感じられました。さらに、白髪の老人に目を向けると、まるで苦しみながら生きているかのような表情が見えてきました。その姿は非常にリアルで、生きている人間を見ているかのようでした。

私の驚いた様子を見て、男は自分の兄の話を語り始めました。彼は押絵の中の老人を「兄」と呼び、その話をするときに愛おしそうに押絵を見つめました。彼の兄は、遠眼鏡を使って何かを見てから、その絵に心を奪われてしまったのです。

この押絵と遠眼鏡には、ただならぬ秘密が隠されていると感じた私は、男の話に耳を傾けました。彼は押絵の中の人物が生きているように感じられる理由について、詳しく語り始めました。その話は次第に、彼の兄の不思議な経験と繋がっていくのです。

第3章: 遠眼鏡を通じて見た真実

男は私に古い双眼鏡、遠眼鏡を差し出してきました。そして、「この遠眼鏡で押絵を見てみませんか?」と言いました。私はその提案がとても不思議に思いましたが、好奇心からその遠眼鏡を手に取りました。いざ覗こうとすると、男は急に真剣な表情になり、「遠眼鏡を逆さまにしてあの絵を覗いてはいけません」と注意してきました。その言葉に少し驚きましたが、言われた通り正しい方向で遠眼鏡を覗くことにしました。

遠眼鏡を通して押絵を見てみると、若い女性の全身からまるで生気があふれているように感じられました。その女性はまるで今にも動き出しそうなほど生き生きとしていました。次に、白髪の老人に目を向けると、彼はまるで苦しんでいるかのような表情をしていました。その姿はとてもリアルで、まるで生きている人間を見ているかのようでした。

私が驚いていると、男は自分の兄の話を語り始めました。彼の兄は25歳の時にこの遠眼鏡を手に入れました。その日以来、兄は家にいる時は一人部屋に閉じこもり、物思いにふけるようになりました。食事もほとんど取らず、次第にやせ細っていったのです。

兄が再び遠眼鏡を持って浅草へ出かけた時、男は兄の後をつけました。兄が何を見ているのか気になったからです。男は兄に問いただし、実は兄が押絵に描かれた女性に心を奪われていたことを知ります。兄はその女性に恋をしていたのです。

どうしてもその女性を諦めきれない兄は、弟に頼んで遠眼鏡を逆さにして自分を眺めるようにお願いしました。兄は絵の中の女性と同じサイズになりたいと思っていたのです。弟は兄の願いをくだらないと思いつつも、兄の気持ちが収まるならと実行しました。すると、兄の姿が忽然と消えてしまいました。

驚いた弟が押絵を見ると、そこには女性と幸せそうに抱き合っている兄の姿がありました。兄は絵の中に入ってしまったのです。弟はすぐにその押絵を買い取り、兄を手元に置くことを決意しました。

この話を聞いた私は、押絵と遠眼鏡に秘められた力に驚きました。男は続けて、自分の兄がどのようにして押絵の中に入り、今もそこにいるのかを詳しく語ってくれました。この物語には、まだまだ続きがありました。男の話は兄の失踪だけでなく、兄と押絵の女性の関係や、その後の出来事についても語られていくのです。

第4章: 押絵の中への消失

男の兄がどのようにして押絵の中に消えたのか、さらに詳しく聞いてみました。兄は25歳の時、この遠眼鏡を手に入れました。ある日、兄は浅草で何かを見つけました。それが、この押絵です。その日以来、兄は家にこもり、押絵のことばかり考えるようになりました。食事もろくにとらず、日ごとにやせ細っていったのです。

ある日、兄は遠眼鏡を持って再び浅草に出かけました。男は兄が心配で後をつけました。兄が何をそんなに熱心に見ているのか気になったからです。男は兄に問いただしました。すると、兄は押絵に描かれた若い女性に心を奪われていると告白しました。兄はその女性に恋をしていたのです。

兄はその女性を諦めきれず、弟に遠眼鏡を逆さにして自分を眺めてほしいと頼みました。兄は、絵の中の女性と同じサイズになりたいと思っていたのです。弟はその願いがくだらないと思いつつも、兄の気持ちが収まるならと願いを聞き入れました。

遠眼鏡を逆さにして兄を眺めた瞬間、兄の姿は忽然と消えてしまいました。弟は驚いて押絵を見ました。すると、そこには若い女性と幸せそうに抱き合っている兄の姿がありました。兄は押絵の中に入ってしまったのです。

弟はすぐにその押絵を買い取りました。兄を手元に置くためです。弟は押絵を持って、箱根や鎌倉など、さまざまな場所を旅しました。弟は兄と押絵の女性に新婚旅行をさせてやりたかったのです。今回も、三十年ぶりに彼らを連れ出し、変わりゆく東京の景色を見せたかったと語りました。

その後、弟は押絵の中の兄に変化が現れたことに気づきました。若い女性は絵の中でも人ならざる者であるため、その美しさを失うことはありませんでした。しかし、兄は次第に老いていきました。押絵の中の兄は、どんどん醜くなっていったのです。

兄自身も、自分の姿が変わっていくことに恐怖を感じました。兄は、若い女性が自分を愛してくれているのに、自分はどんどん醜くなることに耐えられなくなったのです。兄の顔は常に苦痛にゆがみ、悲しげな表情を浮かべるようになりました。

弟はそんな兄を憐れむように見つめ続けました。弟は兄のために何かできることはないかと考えましたが、何もできないまま、兄の悲しげな姿を見守るしかありませんでした。

その話を終えると、男は押絵を大切そうに包み、汽車を途中下車しました。私は彼の背中が闇に溶け込むように消えていくのを見送りました。その後も、あの押絵と遠眼鏡のことが頭から離れませんでした。兄が押絵の中に消えたという話が、本当にあったことなのか、それとも男の作り話なのか、私は今でも分かりません。しかし、あの時見た押絵の人物たちの生気あふれる姿は、今でも鮮明に思い出されます。

第5章: 永遠の愛の代償

男は押絵を大切に持ち続け、兄と若い女性のためにできる限りのことをしました。押絵を持って箱根や鎌倉を旅し、まるで兄と女性が新婚旅行をしているかのように思いを馳せたのです。彼は兄と女性が幸せに過ごせるよう、絵を様々な美しい場所に連れて行きました。

しかし、年月が経つにつれて、押絵の中の兄に変化が現れ始めました。女性はいつまでも若々しい姿を保っていましたが、兄は次第に老いていきました。兄の顔には皺が増え、やせ細り、見るに耐えないほど醜くなっていきました。彼の表情は苦痛に歪み、常に悲しげでした。

弟である男も、この変化に気づき、心を痛めました。兄が押絵の中で苦しんでいることを知りながら、何もできない自分を責めました。彼は兄のために何かできることはないかと考えましたが、どうすることもできませんでした。兄が押絵の中で変わり果てていくのを、ただ見守るしかなかったのです。

ある日、男は私に語りました。彼は、兄と女性の幸せを願っていたが、結果的に兄を苦しめてしまったことを後悔していると告白しました。彼は兄の愛が永遠であることを望んでいましたが、その代償として兄が苦しむことになってしまったのです。

私たちはその夜、しばらく話し続けました。男は兄の話をするたびに、目に涙を浮かべていました。彼の悲しみと後悔が痛いほど伝わってきました。男は押絵を見つめながら、「兄は今でもこの中で生きているのだ」とつぶやきました。

その後、男は私に押絵を見せてくれました。押絵の中の女性は依然として美しい姿を保っていましたが、兄はますます老いていくように見えました。彼の表情は苦痛に満ち、女性と対照的な姿でした。

男は押絵を大切に包み直し、立ち上がりました。「もう一度、兄と一緒に旅をして、彼に美しい景色を見せてやりたい」と言いました。そして、私に別れを告げ、汽車を降りて闇の中へと消えていきました。

その後も、私はあの押絵と遠眼鏡のことが頭から離れませんでした。兄が押絵の中に消えたという話が本当にあったことなのか、それとも男の作り話なのか、今でもわかりません。しかし、あの時見た押絵の人物たちの生気あふれる姿は、今でも鮮明に思い出されます。そして、男の兄に対する深い愛と後悔の念も、心に深く刻まれています。

押絵と旅する男(江戸川乱歩)の感想・レビュー

江戸川乱歩の「押絵と旅する男」を読んで感じたことは、この作品が非常に幻想的で不思議な世界を描いているということです。物語は主人公が魚津で蜃気楼を見るために旅をするところから始まり、そこで出会った奇妙な男とのやり取りを通じて進んでいきます。

まず、この作品の魅力の一つは、押絵という立体的な絵画に込められた奇妙な力です。押絵の中の人物たちがまるで生きているかのように感じられる描写は、とてもリアルで恐ろしくもあります。特に、男が持っていた遠眼鏡を通して押絵を見たときの描写は、読んでいて鳥肌が立つほどです。若い女性の生気あふれる姿と、苦しんでいる白髪の老人の対比が、物語に一層の不気味さを加えています。

次に、男が語る兄の物語は、非常に切なく、哀愁を感じさせます。兄が押絵の中の女性に心を奪われ、現実と絵の世界の間で苦悩する姿は、読者の心に深く響きます。また、弟である男の兄に対する深い愛情と、その愛情が結果的に兄を苦しめてしまうという矛盾も、物語に深みを与えています。兄を救おうとする弟の努力と、その無力感が痛いほど伝わってきます。

この作品は、ただの怪奇小説ではなく、人間の感情や心の動きに焦点を当てた深い物語です。蜃気楼や押絵という不思議な要素が、現実の中に幻想的な世界を作り出し、読者を引き込んで離しません。江戸川乱歩の独特な文体と描写力が、作品全体に不思議な雰囲気を与え、読後も長く心に残る一冊です。

最後に、この物語は、愛と執着、そしてそれがもたらす苦しみについて考えさせられます。押絵の中で永遠に生き続けることを選んだ兄の運命と、それを見守り続ける弟の姿は、とても印象的で心に残ります。江戸川乱歩の「押絵と旅する男」は、幻想的な世界観と深い人間ドラマが融合した傑作です。

まとめ:押絵と旅する男(江戸川乱歩)の超あらすじとネタバレ

上記をまとめます。

  • 主人公が魚津で蜃気楼を見に行く
  • 汽車で出会った不思議な男の行動
  • 男が見せた押絵の詳細と特徴
  • 押絵の人物たちに生気が感じられること
  • 男が差し出す遠眼鏡の使い方
  • 遠眼鏡を通して見た押絵の真実
  • 男の兄が押絵に消えた経緯
  • 押絵の中での兄の変化と苦しみ
  • 男が押絵を持って旅をする理由
  • 男の兄に対する深い愛と後悔