谷崎潤一郎の小説『猫と庄造と二人の女』は、愛猫リリーを巡る愛憎劇を描いた作品です。主人公・庄造は、猫を愛する優柔不断な男で、前妻の福子と現妻の品子の間で心が揺れ動きます。
リリーは庄造にとって特別な存在ですが、品子には嫌われており、リリーを巡る不和が庄造の生活に影を落とします。やがて庄造はリリーを福子に預け、福子との過去の安らぎを思い出し、彼女への未練が募ります。
一方、品子は庄造とリリー、そして福子への嫉妬に苦しみます。この三者の複雑な感情が絡み合い、やがて庄造はリリーと共に生きることを選びます。
『猫と庄造と二人の女』は、愛情と執着、孤独の深さを描いた谷崎潤一郎の名作です。
- 主人公・庄造の性格や背景
- 猫・リリーの存在の重要性
- 福子と品子の対照的なキャラクター
- リリーを巡る人間関係の複雑さ
- 愛情や執着のテーマ
「猫と庄造と二人の女(谷崎潤一郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
谷崎潤一郎の『猫と庄造と二人の女』は、主人公・庄造と、彼の前妻である福子、そして現妻の品子の三人を中心に、愛情と嫉妬、執着と葛藤が描かれた作品です。この物語の核となるのは、庄造が愛する猫・リリーという存在。彼が猫に寄せる愛情は深く、それが周囲の人間関係に大きな影響を与えていきます。
庄造は繊細で優柔不断な性格の持ち主です。彼の前妻である福子とは気さくで穏やかな関係を築いていましたが、離婚を経て、現在は品子と再婚しています。しかし、この品子は福子とは異なり、気性が激しく、束縛や嫉妬心が強い女性です。物語は、庄造が新しい生活を送りつつも、福子との過去を忘れられないまま、品子とともにリリーと暮らしている様子から始まります。
リリーは、美しく気まぐれな猫で、庄造が深く愛する存在です。彼はリリーのために手厚い世話をし、家の中で彼女が最も快適に過ごせるよう気を配っています。しかし、このリリーに対して、品子は良い感情を抱いていません。リリーが庄造にとって特別な存在であることが、品子にとっては疎ましく、不愉快なことだったのです。
ある日、品子は庄造に対して「リリーを捨てるか、自分と別れるか」を選ぶよう迫ります。品子のリリーに対する拒絶は日に日に強まり、庄造の心に影を落とし始めます。庄造はリリーを捨てるなど考えられず、次第に品子との生活に息苦しさを感じるようになります。品子の強い束縛や嫉妬心が、庄造の心をさらにリリーへと向かわせることになるのです。
このような中で、庄造は福子のことを思い出し、彼女がリリーに対して寛容であったこと、リリーと共に穏やかな日々を過ごしていたことを懐かしく感じ始めます。そして、彼はついにリリーを連れて福子の家を訪れ、彼女の家にリリーを預けることを決意します。福子は庄造の頼みを快く受け入れ、リリーを大切に扱います。このことによって、庄造は福子の優しさや献身に対する感謝の念が蘇り、彼女への未練を強く抱くようになるのです。
リリーが福子のもとで穏やかに暮らし始めると、庄造は度々福子の家を訪れるようになります。福子との再会を通じて、彼はかつての幸福な日々を思い返し、福子との関係に再び心を引かれていきます。福子もまた、リリーを通じて庄造との距離が縮まることを感じ、彼に対する淡い期待を抱くようになります。福子の心には再び、庄造への愛情が少しずつ芽生えつつあったのです。
一方で、品子は次第に不安と苛立ちを募らせていきます。彼女は、庄造が福子のもとへ頻繁に通うことや、リリーへの深い愛情に嫉妬し、心の中で強い孤独を感じ始めます。品子は、自分が庄造にとって「リリー以下の存在」になりつつあることに耐えられず、福子に対する嫌悪感も膨らんでいきます。彼女は自分が庄造にとってどれほど大切な存在かを確認しようと、様々な策を講じますが、うまくいかず、むしろ庄造の心がますます自分から離れていくことを痛感するだけでした。
物語が進むにつれて、庄造、福子、品子の三者は、それぞれに異なる葛藤や欲望、そして自己の価値観と向き合わざるを得なくなります。庄造は、品子との結婚生活に疲れ果て、リリーと福子の存在に安らぎを求めますが、それが叶わないという現実に苦悩します。一方、福子は庄造への未練を感じつつも、リリーと過ごす時間を大切にし、自分自身の幸せについても思いを巡らせるようになります。
品子は庄造の愛情が自分から離れていくことに対する不安や焦燥感に苛まれ、ついに彼女はリリーを完全に福子のもとへ引き渡させようと決意します。彼女にとっては、リリーという存在が邪魔であり、その存在がある限り、庄造の愛情を完全に手に入れることができないと感じていたのです。しかし、この選択がもたらしたのは、品子自身の孤独と絶望感であり、彼女は庄造との関係がもはや修復不可能であることを理解します。
最終的に、庄造は品子との関係を清算し、リリーと共に静かな生活を求めることを選びます。福子との再会も、品子との生活も、彼にとって完全な満足をもたらすことはありませんでしたが、リリーだけは彼の心の支えとなる存在であり続けます。リリーとともに生きることが、彼にとって唯一の安らぎだったのです。
『猫と庄造と二人の女』は、猫をめぐる愛憎と、それぞれの登場人物が抱える愛と執着が丁寧に描写された作品です。庄造、福子、品子の三人がリリーを通じて向き合うのは、彼ら自身の孤独や欲望、そして人間関係の持つ複雑さです。
谷崎潤一郎はこの作品を通じて、人間の根源的な孤独や、愛するものへの執着が引き起こす葛藤を深く掘り下げ、読む者に愛の本質について考えさせるように仕向けています。庄造の愛情、福子の寛容さ、そして品子の嫉妬と孤独が織り成す物語は、どこか痛切でありながらも、愛にまつわる普遍的なテーマを感じさせるものとなっています。
「猫と庄造と二人の女(谷崎潤一郎)」の感想・レビュー
谷崎潤一郎の小説『猫と庄造と二人の女』は、愛猫リリーを巡る人間関係の緻密な描写と心理描写が際立った作品です。主人公・庄造は、どこか優柔不断で繊細な性格を持つ人物であり、彼が前妻・福子と現妻・品子の間で揺れ動く様子が描かれています。この物語の中心にはリリーという猫が存在しており、彼女は単なる動物以上の「象徴」として、庄造の心の拠り所や愛情の投影の役割を果たしています。
庄造はリリーに対して深い愛情を抱いており、彼女を大切に扱います。しかし現妻の品子はリリーを嫌い、庄造に対して「猫を捨てるか、別れるか」を選ばせるまでに、彼女の嫉妬と不満が高まっていきます。このようにリリーは、庄造と品子の関係に亀裂を生む存在となり、リリーを巡る不和が、庄造にとっての家族や愛情のあり方を問い直させるきっかけとなります。
庄造がリリーを前妻の福子に預ける決断をする場面は、彼の中にある福子への未練や、穏やかで心休まる過去への回帰願望が現れています。福子はリリーを喜んで受け入れ、庄造の愛猫を手厚く世話します。これにより、庄造は福子に対する愛情を再認識し、リリーを通じて福子との過去の幸福な日々を懐かしむようになります。福子もまた、リリーという存在を通して庄造との絆を感じ取り、かつての夫への想いを徐々に取り戻していきます。
一方、品子は庄造が福子と再び接点を持つことに対し、強い嫉妬と不安を覚えます。彼女は庄造の心が福子やリリーに向かうことで、自身が疎外されることに対する焦燥感に苛まれます。しかし、品子は次第に庄造の愛情が自分の手には届かないことを悟り、リリーを巡る関係が彼女に孤独と失意をもたらします。品子にとってはリリーが「家族の絆」を奪う存在として映り、庄造との間に埋めがたい溝が生まれることとなります。
最終的に、庄造は福子や品子との関係に完全に決別し、リリーとともに生きる道を選びます。これは彼にとって、人間関係の煩わしさや苦悩からの解放であり、リリーだけが彼にとっての真実の愛の対象として残ります。リリーを通じて描かれるこの結末は、人間の孤独や愛情の在り方、そして愛に対する執着の意味を浮き彫りにし、谷崎潤一郎が描く愛憎の本質を鋭く映し出しています。
このように『猫と庄造と二人の女』は、愛する対象への執着や、それに伴う人間関係の複雑さを鮮やかに描き出しています。谷崎はリリーという猫を通じて、単なる愛憎劇ではなく、愛情と孤独の深淵を浮かび上がらせ、読者に人間の根源的な感情について問いかける作品となっています。
まとめ:「猫と庄造と二人の女(谷崎潤一郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 主人公の庄造は優柔不断な性格である
- 庄造の愛猫リリーが物語の重要な存在である
- 前妻福子と現妻品子が登場する
- リリーを巡り、福子と品子の関係が複雑化する
- 品子はリリーに対して嫌悪感を抱いている
- 庄造はリリーを福子に預ける決断をする
- 福子はリリーを愛情深く受け入れる
- 品子は庄造とリリーへの嫉妬を感じる
- 最終的に庄造はリリーと共に生きることを選ぶ
- 作品全体で愛情と執着、孤独が描かれる