芥川龍之介「地獄変」の超あらすじ!伝えたいことは?

芥川龍之介の「地獄変」は、日本文学の中でも特に深遠なテーマを探求した作品として知られています。この物語は、芸術と人間性、倫理と狂気が交錯する複雑なドラマを描き出し、読者に多大な影響を与え続けています。芥川が伝えたかったメッセージを理解することは、作品の表面的な魅力だけでなく、その背後にある深い意味を探る上で不可欠です。

この記事では、絵師・良秀とその娘の生活から始まる物語の超あらすじを紹介し、芥川龍之介が「地獄変」を通して読者に伝えたかったことを掘り下げていきます。芥川龍之介の「地獄変」に興味がある、または作品の深い理解を求めている方々に向けた、あらすじと作品の核心に迫る解説をお届けします。

この記事のポイント
  • 「地獄変」の基本的なストーリーラインと主要な登場人物についての詳細
  • 良秀の芸術に対する執着とその狂気じみた行動の背景
  • 物語を通じて芥川龍之介が探求した芸術、倫理、人間性といったテーマ
  • 「地獄変」で描かれたメッセージとその現代社会における意味や影響

芥川龍之介「地獄変」の超あらすじ

【序章】絵師・良秀とその娘の日々

堀川の大殿様に仕える絵師、良秀は、その卓越した絵の技術にもかかわらず、周囲からはその外見と性格のために敬遠されていました。良秀は、一見すると不釣り合いなほど才能に満ちた絵師でしたが、彼の醜い外見と、けちで、貪欲で、自尊心が高い性格は、彼が屋敷の人々から好かれることを妨げていました。彼の描く絵に関する不気味な噂が絶えず、それらは良秀の評判をさらに悪化させる原因となっていました。

良秀には、屋敷で侍女として勤める一人娘がいました。彼女は外見も性格も父親とは正反対で、愛嬌があり、誰からも慕われる存在でした。娘は、自然と人々を惹きつける優しさと魅力を持っており、父親にはない温かみと人間味で、屋敷の中での彼女の立場を確固たるものにしていました。

この屋敷には、大殿様の息子である若殿様が飼っていた猿が一匹おり、若殿様は冗談半分でこの猿に良秀と名付けてからかっていました。ある時、良秀の娘がこの猿を苦境から救ったことがきっかけで、猿は娘に強くなつき、その結果、屋敷の人々も猿を新たな目で見るようになりました。娘と猿の間に生まれた特別な絆は、屋敷の人々にも暖かな感情をもたらし、良秀の娘が父親とは異なる、明るく穏やかな影響を屋敷にもたらしていることを改めて示す出来事となりました。

良秀は、唯一の家族である娘を心から愛しており、彼女に対する愛情は彼の生活の中で唯一無二の光でした。娘への深い愛情を胸に、良秀は大殿様に対し、娘を屋敷の仕事から解放してほしいという願いを持ちかけます。しかし、娘を特別視する大殿様は、この願いを拒否し、結果的に良秀の機嫌を損ねることになります。この一件は、良秀と大殿様の関係に微妙なひびを入れることとなり、後の出来事への伏線となります。

【第一章】地獄変の屏風と良秀の執念

堀川の大殿様は、自らの屋敷を飾るため、そして自分の権力と富を示すために、絵師・良秀に対し、地獄の光景を描いた地獄変の屏風の制作を命じました。この屏風は、大殿様の屋敷の主要な装飾品として、また訪れる客たちに大殿様の力と洗練を印象づける重要な作品と位置づけられていました。

良秀はこの命令を受け、地獄変の屏風の制作に没頭し始めます。制作期間は約5〜6ヶ月に及び、この間、良秀は作品への異常なまでの情熱を見せます。彼は日夜を問わず作業に打ち込み、周囲の人々との交流も次第に減っていきました。特に、作品に対する彼の執着は、周囲が理解しがたいものであり、彼の行動はしばしば常軌を逸していました。

ある時、良秀は弟子たちに対しても非常識な要求をするようになります。例えば、彼は自らが昼寝をしている間、弟子が枕元で見守るよう命じ、眠りから覚めると、まるで何かに取り憑かれたかのように、恐ろしい表情で独り言を呟き始めます。この異様な振る舞いは、弟子たちに深い不安と恐怖を植え付けました。

さらに、良秀は屏風に描くためのインスピレーションを求めて、弟子を鎖で縛り、その苦悩する姿を何枚も描きました。また、ある時は、人から譲り受けたミミズクを使って、弟子に襲わせ、その恐怖に満ちた様子を描いたとされます。これらの行動は、良秀が作品の完成のためならばどんな非道な行為も厭わないことを示していました。

しかし、屏風の制作はスムーズに進んでいるわけではありませんでした。良秀は屏風の一部について、自分の望む通りに描けないことに苛立ちを感じていました。作品は大半が完成しているにも関わらず、完全には完成に至らず、そのことが良秀をさらに苛立たせ、彼の性格をより一層暗く、荒んだものにしていきます。

この章では、良秀の芸術への執着と、その過程で現れた異常な行動が描かれています。彼の作品への情熱は、彼自身の暗い内面と結びつき、屏風の制作過程そのものが、まるで地獄変を象徴するかのような、不穏で厳しいものとなっていきます。

【第二章】娘の秘密と夜の出来事

地獄変の屏風に没頭する良秀の様子が変わり始める頃、彼の娘もまた変化を遂げていました。屋敷の人々は、いつも明るく愛らしい良秀の娘が、徐々に元気を失い、沈んだ表情を見せるようになったことに気づき始めます。彼女の変わりようは、父親への心配や恋愛の悩みなど、様々な憶測を呼びました。

ある晩のこと、物語の語り手である私は、屋敷の廊下を歩いていました。そのとき、不意に若殿様がからかい半分で「良秀」と名付けた猿が、尋常ではない様子で私に助けを求めてきます。猿の様子から、何か重大な事態が発生していることを察した私は、猿に導かれるままに進んでいきました。

私たちがたどり着いたのは、良秀の娘の部屋の前でした。突然、部屋の扉が開き、良秀の娘が慌ただしく走り出してきます。彼女の姿はいつもとは異なり、あでやかで美しく、一層の輝きを放っていました。その美しさに私は一瞬驚きを隠せませんでした。その直後、同じ部屋から別の人物が急いで走り去る足音が聞こえますが、暗闇のためにその人物の姿は見えませんでした。

私が良秀の娘に「誰ですか?」と尋ねても、彼女は答えず、ただ静かに首を振るだけでした。その様子から、私は何か不穏な秘密を目の当たりにしてしまったような感覚に陥ります。この出来事は、屋敷内で何か深い秘密が渦巻いていることを示唆しており、良秀の娘に何が起こっているのか、その真相に私たちはまだ気づくことができませんでした。

この章は、良秀の娘が直面している心の変化と、屋敷内での謎めいた出来事を中心に描かれています。屋敷の人々との温かな関係の中で育ってきた良秀の娘が、なぜ悩みを抱え、秘密を隠すようになったのか、その背景には何があるのか、読者に深い謎を投げかける章となっています。

【第三章】絵師の願いと大殿様の決断

地獄変の屏風の制作が進む中、良秀の心の中では新たな闘いが始まっていました。彼は、自らの作品に対する追求心から、一つの異常な願いを抱くようになります。この願いは、良秀自身も理解しがたいものであり、彼の心を大きく揺さぶるものでした。

ある日、良秀はこの願いを実現するため、堀川の大殿様に面会を求めます。面会の場で、彼は大殿様に向けて、屏風の完成のためには、自分が直接見たことのない光景を描かなければならないと語り始めます。その光景とは、「空から牛車が落ちてきて、その中で苦しむ女性の姿」を描くことでした。この奇想天外な願いに、大殿様は当初、驚きとともに不安を感じます。

しかし、良秀はさらに、自分のこの願いを実現するためには、実際に牛車を用意して、その中に女性を乗せ、燃やしてほしいという恐るべき要望を伝えます。この時、良秀の表情からは、彼の絵への情熱と、その実現のためならばどんな手段も選ばない覚悟が窺えました。

大殿様は、初めは良秀の願いに戸惑いを隠せませんでしたが、やがてその狂気じみた情熱に感銘を受けるようになります。そして、大殿様は良秀の要望を受け入れる決断を下します。この決断は、大殿様自身の美への追及心と、良秀という絵師への信頼からくるものでした。

この章では、良秀の芸術に対する執念が、彼をどこまでも追い詰める様子が描かれています。また、大殿様のこの決断が、後の悲劇の伏線となることは明らかであり、読者はこの時点で、物語が暗い方向へと進んでいくことを予感させられます。芸術の追及が極限に達した時、人は何を見失うのか、そしてその代償は何なのか、この章はそんな重いテーマを投げかけるものとなっています。

【終章】地獄変の屏風と最後の悲劇

大殿様が良秀の願いを受け入れたことで、地獄変の屏風を完成させるための最後の行動が取られます。大殿様は、良秀の要望通りに、牛車を用意し、その中に女性を乗せるという驚くべき計画を実行に移します。そして、選ばれた夜、牛車を燃やす準備が整えられました。

この計画の最も衝撃的な部分は、牛車の中に乗せられる女性の正体でした。なんと、それは良秀の愛する一人娘であることが判明します。この事実を知った瞬間、良秀は絶望と怒りに包まれますが、大殿様は既に火をつけるよう命じていました。

炎が牛車を包み込む中、良秀は娘の苦悩する姿を目の当たりにします。その様子は、まさに彼が描きたかった地獄の光景そのものでした。しかし、この瞬間、彼の心には、芸術家としての達成感よりも、父親としての深い悲しみと後悔が満ち溢れていました。

娘が炎の中で苦しむ様子を見ていると、突如、若殿様が名付けた猿の良秀が炎の中へと飛び込んでいきます。この行動は、猿が娘に対して抱いていた深い愛情と忠誠心の現れであり、屋敷の人々に深い感動を与えました。

屏風が完成した後、その作品は見る者に不思議な厳かさと深い感銘を与えました。しかし、良秀自身は、娘を失った悲しみと自らの行いへの後悔に耐えられず、屏風完成の翌日、自ら命を絶ってしまいます。彼の死により、地獄変の屏風は、彼の最後の傑作として、後世まで語り継がれることとなりました。

この結末では、芸術の追求がもたらす美と狂気、そしてその代償に焦点を当てています。良秀の情熱が生み出した傑作は、彼自身の人生と、最も大切な人を犠牲にしてまで得られたものでした。この物語は、芸術と人生、愛と狂気が交錯する様子を描き出しており、読者に深い感銘を与える結末となっています。

芥川龍之介「地獄変」の伝えたいことは?

芥川龍之介が『地獄変』を通じて読者に伝えたかったことは多岐にわたり、作品を深く掘り下げることで、彼の思索の幅広さが見えてきます。以下は、その主要なテーマと、芥川が伝えたかった可能性のあるメッセージです。

1. 芸術と人間性の狭間での葛藤

『地獄変』では、絵師・良秀が、自己の芸術作品を完成させるためならば、どんな犠牲も厭わない姿が描かれています。芥川は、芸術家の創造的執念とその暗い側面、すなわちその情熱が人間性をどのように犠牲にする可能性があるのかを探っています。この物語は、芸術のためには手段を選ばない良秀の姿勢が、最終的には彼自身と彼の大切な娘の破滅を招くという、創造と破壊の対比を浮き彫りにしています。

2. 美への追求と道徳的境界

良秀が地獄変の屏風を完成させるために、道徳的境界を越えた行動を取ることで、芥川は美への追求がどこにその境界を持つべきか、という問いを投げかけます。この物語では、美の追求が極端な形で表現され、その過程で失われるものが何であるかを読者に問いかけています。

3. 権力と犠牲

大殿様が良秀の要望を受け入れ、その狂気じみた願いを実行に移すことで、権力がどのように人間の倫理を曲げ、不条理な犠牲を正当化することがあるのかを示しています。この物語は、権力がいかにして人間の道徳心を侵食し、犠牲者を生むのかを描き出しています。

4. 人間の内なる地獄

物語の終わりに、良秀が自ら命を絶つことで、芥川は外界の地獄よりも、人間の内面に潜む地獄の方がより恐ろしいという視点を提示しています。良秀の行動は、彼の内なる闘いと葛藤、そして最終的な絶望を反映しており、読者に人間心理の暗部を示しています。

5. 芸術の力と限界

『地獄変』の屏風が完成した後、その美しさが人々を圧倒する一方で、その作品がもたらした犠牲についての深い問いかけも残ります。芥川は、芸術が持つ力とその創作過程での倫理的考察、そしてその限界について読者に考えさせます。

芥川龍之介は『地獄変』を通じて、芸術、権力、倫理、人間性といった複雑なテーマを巧みに絡

め合わせ、これらのテーマが現代においてもなお重要な意味を持つことを示しています。彼の作品は、これらの普遍的な問題に対して簡単な答えを提供するのではなく、それらを深く掘り下げ、読者に対して自身で考えることを促すものです。

まとめ:芥川龍之介「地獄変」の超あらすじ!伝えたいことは?

上記をまとめます。

  • 芥川龍之介の「地獄変」は絵師良秀とその娘を中心に展開される物語
  • 良秀は才能ある絵師だが、その外見と性格で周囲から敬遠されている
  • 娘は良秀とは異なり、屋敷の人々から愛される存在
  • 物語は良秀が大殿様から地獄変の屏風を描くよう命じられることから始まる
  • 良秀の作品制作過程での異常な執念と行動が描かれる
  • 娘の秘密と夜の出来事が物語に深い謎をもたらす
  • 芸術の追求がもたらす美と狂気、その代償がテーマとして扱われる
  • 人間の内なる地獄と外界の地獄の対比が示される
  • 芸術作品としての屏風の完成と、それを取り巻く人間ドラマがクライマックス
  • 芥川が伝えたかった芸術、権力、倫理、人間性に関する深いメッセージが解説される