
ダイナーのあらすじ(ネタバレあり)です。ダイナー未読の方は気を付けてください。ガチ感想も書いています。
蜷川実花監督が描く、極彩色の世界で繰り広げられるバイオレンスアクション。藤原竜也さん演じる元殺し屋の天才シェフ・ボンベロと、玉城ティナさん演じる孤独なフリーター・オオバカナコが出会うことで、運命の歯車が狂い始めます。殺し屋たちが集う、奇妙な食堂「ダイナー」を舞台に、血生臭くもどこか美しい物語が展開されていくのです。
カナコはひょんなことから、殺し屋しか来ないダイナーでウェイトレスとして働くことになります。完璧主義者のボンベロに理不尽な要求をされながらも、なんとか生き延びようと奮闘するカナコ。しかし、ダイナーには次から次へと個性豊かな殺し屋たちが訪れ、カナコの日常は予測不能な出来事の連続となります。
やがて、組織のトップであるデルモニコの死を巡る陰謀が明らかになり、ダイナーはさらに混沌の渦に巻き込まれます。ボンベロとカナコは、迫りくる危険から逃れるため、互いに協力し合うようになるのです。絶体絶命の状況の中、二人の間に芽生える奇妙な絆が、物語に深みを与えていきます。
最終的に、ボンベロとカナコはダイナーを脱出し、新たな人生を歩み始めます。メキシコで再会を果たす二人の姿は、殺伐とした世界の中で見つけた、ささやかな希望のようにも映ります。蜷川実花監督ならではの映像美と、予測不能なストーリー展開が、観る者を最後まで飽きさせない一作です。
ダイナーのあらすじ(ネタバレあり)
両親に捨てられ、祖母も亡くした孤独なフリーター、オオバカナコは、日雇いの仕事で何とか日々を凌いでいました。ある日、メキシコの「死者の日」を祝う一団から絵葉書を受け取ったカナコは、その異国の風景に強く惹かれ、メキシコ行きを決意します。しかし、旅行費用30万円は、カナコにとって途方もない金額でした。そんな時、偶然見つけた「即金30万円」という怪しいドライバーのバイトに飛びつきます。その仕事は、追われているカップルを安全な場所まで送り届けるという、危険な内容でした。
カナコは必死に車を運転しますが、追手に発砲され、車は激突。気を失ったカナコが次に目を覚ますと、廃工場のような場所でカップルと共に吊るされていました。カップルが命乞いをする中、拷問者のブタ男は容赦なく縄を切り、二人を謎の液体に落とします。慌てたカナコは「料理ができる」と命乞いをしますが、ブタ男に殴られ、再び意識を失ってしまいます。目を覚ましたカナコは、殺し屋専門の食堂「ダイナー」にいました。オーナーのボンベロは、カナコをウェイトレスとして買ってきたと言い、役に立たなければ殺すと宣言します。
ボンベロが大事にしている「ディーヴァ・ウォッカ」を隠してしまったカナコは、激怒したボンベロに殺されそうになりますが、「知らずに探すと壊れるような場所に置いた」と嘘をつき、なんとか命拾いします。ダイナーには全身傷だらけの殺し屋・スキンや、子供の姿をした殺し屋・キッド、そして荒くれ者のブロたちなど、様々な殺し屋が訪れます。スキンはカナコに優しく接し、ブロたちから彼女を救い出しますが、彼の注文したスフレの中にはチェスのポーンが入っており、スキンは落胆して帰っていきます。
ある日、組織のトップであるデルモニコが事故死したという情報が入り、ボンベロは幹部コフィからディーヴァ・ウォッカを出すように命じられます。幹部の殺害事件も発生し、スキンはその謎を追って重傷を負いながらダイナーに飛び込んできます。ボンベロはスキンの手当てをし、カナコが異物を取り除いたスフレを提供します。しかし、スフレを完食したスキンはトラウマを思い出して発狂し、自爆を試みたためボンベロに射殺されます。この出来事を機に、カナコはダイナーの仕事に真剣に向き合うようになります。そして懇親会の日、コフィがデルモニコを殺したことが判明し、幹部たちは殺し合い、最後に生き残った無礼図がボンベロをスカウトしますが、拒否したことで殺し合いが始まります。
無礼図たちから逃れ、調理室に籠城するカナコとボンベロ。ボンベロの指示で、カナコは教えられた通りのハンバーガーを作り上げます。完成と同時に扉が無礼図によって吹き飛ばされ、二人は食糧庫へ逃げ込みます。ボンベロはカナコに銀行口座と暗証番号のメモを渡し、排気口から脱出させようとします。カナコは自分の店を開き、ボンベロの席を用意しておくことを約束し、脱出。ボンベロは追ってきた無礼図を見て自爆装置を爆破させます。時は経ち、舞台はメキシコ。「死者の日」で賑わう街で小さなダイナーを開いたカナコは、ボンベロのための席を用意して営業していました。すると、扉が開き、死んだと思われたボンベロが現れます。カナコは喜びながら抱きつき、ボンベロもそれを受け入れるのでした。
ダイナーの感想・レビュー
蜷川実花監督の作品として、ダイナーはまさにその真骨頂と呼べるような、圧倒的な色彩美に満ちた一本でした。スクリーンの隅々まで計算され尽くしたような鮮やかな色彩は、観る者を一瞬にして作品の世界へと引き込みます。特に、血が花びらで表現されている演出は、グロテスクな描写が苦手な方でも安心して観られる配慮がなされており、同時にその美しさに息を呑むばかりでした。一つ一つの装飾品、小道具、そして登場人物の衣装に至るまで、細部にわたるこだわりが感じられ、視覚的な楽しさは全く飽きさせることがありません。まるで一枚の絵画を鑑賞しているかのような感覚に陥り、映画というよりも、動くアート作品を体験しているかのようでした。
ストーリーのテンポも素晴らしく、登場人物たちの個性的なキャラクターが次々と現れ、予測不能な展開が目まぐるしく繰り広げられます。上映時間がそこそこあるにも関わらず、体感時間はあっという間でした。私は映画館で鑑賞したのですが、ドリンクを一口飲んだきり、あとは呆然と口を開けてスクリーンを見つめていた記憶があります。エンドロールが流れて初めて、飲み干していないドリンクに気づき、慌てて飲み干したほど、作品の世界に没頭してしまいました。複雑な伏線や難解なテーマが詰め込まれているわけではなく、比較的単純明快で分かりやすい物語なので、疲れている時や、気分を上げたい時にぼーっと眺めるのが良いかもしれません。何も考えずに、ただただその色彩とスピード感に身を任せる。それだけで、日常の喧騒を忘れさせてくれるような、特別な体験ができるのです。
藤原竜也さん演じるボンベロは、元殺し屋の天才シェフという異色のキャラクターでありながら、その完璧主義で時に冷酷な面と、どこか人間臭い部分が絶妙なバランスで描かれていました。彼の作る料理が、単なる食事ではなく、時に死を意味し、時に生を繋ぐ象徴となるのが印象的でした。玉城ティナさん演じるオオバカナコもまた、孤独で臆病なフリーターから、ダイナーでの過酷な経験を通して、少しずつ自分を見つめ直し、成長していく姿が丁寧に描かれていました。彼女がボンベロとの出会いによって、自身の内側に眠っていた力を見つけていく過程は、観る者に勇気を与えてくれるでしょう。
そして、ダイナーを訪れる殺し屋たちの個性も際立っていました。窪田正孝さん演じるスキンは、全身に傷を負いながらも、どこか哀愁を漂わせる姿が印象的でした。彼がカナコに優しく接する姿や、ボンベロの作るスフレに狂喜する姿は、彼が単なる殺し屋ではない、複雑な内面を持っていることを示唆していました。本郷奏多さん演じるキッドは、子供のような無邪気さで人を殺めるという、そのギャップが恐怖を煽りました。彼らの存在が、ダイナーという閉ざされた空間を、より一層異質で魅力的な場所にしていると言えるでしょう。それぞれの殺し屋たちが持つ背景や、彼らがダイナーで繰り広げるドラマは、物語に奥行きと深みを与えていました。
ダイナーという作品は、単なるバイオレンス映画としてではなく、どこか寓話的な側面も持ち合わせていると感じました。極限状態の中で、人間がどのように行動し、何を信じるのか。そして、孤独な人々がどのようにして繋がりを見つけ、生きていくのか。そういった普遍的なテーマが、蜷川実花監督の独特な世界観を通して描かれていました。血生臭い描写の中にも、どこか儚さや美しさが宿っており、観終わった後には、単なる恐怖や興奮だけでなく、不思議な余韻が残りました。
また、本作は音楽も非常に効果的に使われていました。場面ごとに流れる音楽が、物語の緊張感を高めたり、感情を揺さぶったりと、観る者の心を巧みに操ります。視覚的な情報だけでなく、聴覚的な情報からも作品の世界観を強く感じることができ、五感を刺激されるような体験でした。蜷川実花監督の作品は、常にその映像美が注目されますが、本作では映像、音楽、そしてストーリーが一体となって、一つの強烈な世界を作り上げていたと言えるでしょう。
ダイナーは、まさに「蜷川実花ワールド」が全開になった作品であり、彼女のファンはもちろんのこと、鮮やかな映像美とスリリングな展開を求める方にはぜひ観ていただきたい一本です。グロテスクな描写が苦手な方でも、その美しさにきっと魅了されるはずです。そして、観終わった後には、あなたの中に何かしらの感情が残ることを保証します。それは、恐怖かもしれないし、希望かもしれないし、あるいは単なる呆然とした感覚かもしれません。しかし、間違いなく言えるのは、この作品が観る者の心に深く刻み込まれるということです。
まとめ
- オオバカナコは孤独なフリーターで、メキシコ行きを夢見る。
- 即金30万円の怪しいバイトで、殺し屋しか来ないダイナーに売られる。
- 元殺し屋の天才シェフ・ボンベロの元で、ウェイトレスとして働くことになる。
- ボンベロが大事にするディーヴァ・ウォッカを隠し、カナコは命拾いする。
- 全身傷だらけのスキンや子供の姿のキッドなど、個性豊かな殺し屋が次々来店する。
- 組織のトップ、デルモニコの死を巡る陰謀が明らかになる。
- スキンがデルモニコの謎を追う中で重傷を負い、ボンベロによって射殺される。
- カナコはボンベロに言われるがままに料理を作り、その腕を磨いていく。
- 幹部同士の殺し合いの末、ボンベロとカナコはダイナーから脱出する。
- 時を経て、メキシコで再会したカナコとボンベロは、新たなダイナーを始める。