「きのうの世界(恩田陸)」の超あらすじ(ネタバレあり)

「きのうの世界」は、市川吾郎という特殊な記憶能力を持つ男が、M町という小さな町で自身のルーツを探る物語です。彼は、原因不明の頭痛に悩まされる中、母の言葉を頼りにM町を訪れ、そこで新村家の人々と出会います。

町には不思議な歴史があり、市川がその秘密を追求していく中で、彼の運命が大きく変わっていきます。物語は、市川の死をきっかけに、町の未来と過去が交錯するミステリアスな展開を見せます。

最終的に、M町の地下に眠る秘密と、新村家の人々の決断が、町の運命を左右することになります。この記事では、物語の詳細なあらすじを紹介します。

この記事のポイント
  • 主人公市川吾郎の特殊な能力について
  • M町と新村家の秘密
  • 市川の運命を変えた水無月橋の事件
  • M町の地形と3つの穴の役割
  • 志津と和音の決断による町の未来

「きのうの世界(恩田陸)」の超あらすじ(ネタバレあり)

第1章: 市川吾郎の能力と頭痛の始まり

市川吾郎は、生まれつき見たものをまるでカメラのように正確に記憶できる特殊な能力を持っていました。この能力のおかげで、彼は受験勉強や仕事においても常に優位に立つことができ、東京にある大手電機メーカーに就職し、法人向けの営業を担当していました。しかし、38歳を過ぎた頃から、彼は原因不明の頭痛に悩まされるようになります。この頭痛は日々悪化し、彼の日常生活にも影響を及ぼすようになっていきます。

母親を亡くしてから、市川は彼女から聞いた「記憶力の優れた遠縁の女性」の話を思い出すようになりました。母の言葉を頼りに調べたところ、M町という場所と、新村という一族の名前が浮かび上がってきます。市川はこの町に何か秘密があると直感し、休みを取ってM町へ向かうことにしました。彼は新しく開発された試作品のカーナビを使いながら、東京からM町への道を車で走ります。

M町に到着すると、市川は山に囲まれた静かな風景と、丘に立つ3本の鉄塔に目を奪われます。M町の地図を見ながら、彼は自分がまるで新しい冒険に出たような気持ちになり、久しぶりに心が躍るのを感じました。この町には彼が知らなかった過去や謎が隠されていると確信し、彼の頭痛の原因を探る第一歩を踏み出したのです。

第2章: 新村家との出会いとM町での生活

市川がM町に到着し、まず訪れたのは新村家でした。新村家は、周囲を屋敷林に囲まれた立派な屋敷で、ちょうどその日は法事が行われていました。市川は高校生くらいの少女、新村和音に出迎えられ、彼女を通じて当主の新村志津に会うことができました。志津は、M町に根を張る新村技術という建設会社を率いており、彼女の姉が市川の母から聞かされた「記憶力の優れた女性」であることが判明します。

志津は、市川の特異な能力に興味を持ち、彼の話を親身に聞いてくれます。志津の姉も晩年にはひどい頭痛に苦しんでいたことが分かり、市川は自分の頭痛とこの町に何か関係があるのではないかと感じ始めます。また、市川の上司である櫛田にも相談すると、櫛田は「おまえが遠くに行ってしまうような気がする」と不吉な予感を口にします。

その後、市川は櫛田の送別会の夜、ついに自分の生活を東京からM町に移すことを決意します。志津の協力を得て、M町の丘にある管理小屋を借り、M町の謎を探るために会社を無断で欠勤し始めます。M町での新しい生活が始まり、市川は自分のルーツに向き合う日々を送り始めます。

第3章: 水無月橋の事件

M町での生活を続けていた市川ですが、ある日、悲劇が起こります。若月慶吾は、M町の駅前にある酒造会社の社長であり、老舗の跡取りとしての重責に常に追われていました。彼は、早朝に売り物の一升瓶を手にしながら、しばしば丘の上まで散歩をする癖がありました。ある日、若月は小さな記念碑に酒を注ごうとして、誤って瓶を落とし、ガラスが割れてしまいます。

そのガラスの破片が散らばったままになっていた場所で、市川は朝の散歩中に転倒し、腹部に破片が刺さってしまいました。傷を負った市川は助けを求めに歩きますが、力尽き、丘のくぼみに架かる木造の橋「水無月橋」の上で倒れてしまいます。彼の血のついたガラスの破片は、朝の光を浴びて輝き、近隣のカラスに持ち去られ、誰もその証拠を見つけることができませんでした。

市川の死は「水無月橋の殺人事件」として新聞に報じられ、M町の住人たちや、東京にいる彼の元同僚たちに大きな衝撃を与えます。しかし、事件の裏にある本当の経緯は、誰も知ることができず、犯人が不在のまま、事件は町の謎として語り継がれていくことになります。

第4章: M町の秘密と未来への継承

M町は四方を山に囲まれており、特殊な地形を持つ小さな町です。雨が降ると、四方から一気に水が流れ込むため、町全体が危険な状態になることがあります。M町の地下には巨大な岩盤があり、その上に町が乗っかっている不安定な状態でした。もし地下に水が溜まれば、町全体が持ち上がる恐れがありました。そのため、古くから新村家の先祖たちは丘の上に3つの水抜き用の穴を掘り、水を排出できるようにしていました。

市川が追い求めていたM町の秘密に気がついた志津は、老朽化した塔を取り壊すために新村技術の力を借り、大規模な工事を行いました。塔の撤去が完了した嵐の日、志津は和音に連絡を取り、ふたりで丘の上の様子を確認することにしました。和音はできるだけ目立たないようにしながら、志津と共に塔があった丘に向かいます。

雨が止むと、ふたりは丘の上から3つの穴から水が勢いよく噴き出す様子を見守り、町が救われる瞬間を目撃します。M町を守るためのこの行動は、町の未来への大きな一歩となり、和音はこの光景を心に刻み、次の世代に語り継ぐことを誓いました。水無月橋で亡くなった市川のことも、町の人々にとって忘れられない存在となっていきます。

「きのうの世界(恩田陸)」の感想・レビュー

「きのうの世界」は、市川吾郎という特異な能力を持つ人物の視点から、M町という小さな町に隠された過去と未来を紐解く物語です。物語の冒頭で、市川は自分の記憶能力がもたらす頭痛に苦しみながら、母親から聞かされた記憶力に優れた遠縁の女性の話に興味を持ちます。ここで彼が辿り着くM町という地は、単なる過去の記憶が息づく場所ではなく、彼の未来をも左右する場所であることが徐々に明らかになっていきます。この最初の設定から、物語が一気に引き込まれる展開を見せます。

新村家との出会いを経て、市川がM町に根を下ろす決断をする場面は特に印象的です。彼の上司である櫛田が「遠くに行ってしまうような気がする」と口にするシーンでは、まるで市川の運命が避けられないものとして描かれており、読者にも不安感が伝わってきます。この不吉な予感が後の悲劇を予感させ、物語にスリリングな緊張感を加えています。

物語のクライマックスとなるのは、やはり「水無月橋の事件」です。市川の死が町全体に大きな波紋を広げ、まるで運命の歯車が狂い始めたかのように描かれます。若月慶吾というキャラクターが、無意識に引き起こした事件の結果、市川が命を落とすシーンは非常に悲劇的でありながらも、偶然が織りなす必然のような感覚を読者に与えます。

最終章では、M町の未来を守るために、志津と和音が奮闘する姿が描かれます。特に印象的なのは、3つの穴から勢いよく水が放出されるシーンで、町が救われる瞬間にふたりがどれだけ強い思いを抱いているのかが伝わってきます。このシーンは、物語全体のテーマである「過去と未来のつながり」を象徴しているように感じました。

最終的に、この物語は、個人の運命と町全体の運命が交錯する壮大なテーマを描きつつも、人間関係や記憶、そして未来への希望を織り交ぜた感動的な作品となっています。市川の死がもたらした影響と、それを乗り越えようとする人々の姿は、読者に深い感動を与えます。

まとめ:「きのうの世界(恩田陸)」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 市川吾郎は特殊な記憶能力を持っている
  • M町には特別な地形と秘密がある
  • 市川はM町で自身のルーツを探る
  • 水無月橋で市川が命を落とす
  • 新村志津は町の秘密を知っている
  • 若月慶吾が事件に関与している
  • 志津と和音がM町を救う
  • M町の地下には水を抜くための3つの穴がある
  • 市川の死が町の歴史に刻まれる
  • 物語は町の過去と未来をつなぐ