『玄鶴山房』は、堀越玄鶴という実業家兼画家の晩年と、その家族の複雑な人間模様を描いた物語です。玄鶴が余命わずかとなった中、愛人のお芳が訪れ、家族は次第に不安や緊張感に包まれていきます。
物語は、玄鶴の死をきっかけに家族の関係がどのように揺れ動くかを描いています。特に、娘のお鈴や看護師の甲野の視点を通して、家族の中に秘められられた感情や葛藤が詳細に描かれています。玄鶴の愛人問題や家族の遺産に対する不安が、次第に家族内の緊張を高めていく過程が見どころです。
最終的には、玄鶴の死を迎えた家族が新たな生活を始める中で、愛人お芳との関係や家族の絆がどのように変わっていくかが描かれています。波乱に満ちた展開の中で、人物たちがどう向き合い、どう変わっていくのかが読者を引き込みます。
- 玄鶴の晩年とその病状
- お芳の登場による家族の緊張
- 甲野の冷静な視点と家族の衝突
- 玄鶴の自殺未遂とその後の展開
- 玄鶴の死後、家族が直面する新しい生活
「玄鶴山房(芥川龍之介)」の超あらすじ(ネタバレあり)
第1章:玄鶴山房の静かな日々と病の影
堀越玄鶴は、かつてゴム印の特許や土地の売買で多くの財産を築いた実業家兼画家でした。彼が住む「玄鶴山房」は、サラリーマン向けの住宅街に建つ質素な自宅であり、近隣の人々から親しみを込めてその名で呼ばれていました。しかし現在、玄鶴は肺結核に苦しみ、離れの一室で余生を送っています。彼の病状は深刻で、もはや回復は望めない状態です。
玄鶴には妻のお鳥がいますが、彼女も体調を崩しており、寝たきりの生活を送っています。日常の介護は看護師の甲野が担当しており、娘のお鈴は台所や家事全般をこなしています。夫の重吉は銀行に勤めており、毎日忙しく働いています。夕方には家族揃って食卓を囲むものの、甲野の存在が家族の和やかなひと時に微妙な影を落としています。
家の夜は静かで、甲野が火鉢を抱えながら一晩中玄鶴に付き添っています。玄鶴山房の平穏な外見とは裏腹に、家族それぞれが心に不安や疲れを抱えながら生活している様子が描かれます。この穏やかな日常が、今後波乱に満ちた出来事に飲み込まれていく予兆が感じられます。
第2章:玄鶴の愛人と家族の不安
ある雪の日、24~5歳ほどの女性お芳が、やせた男の子を連れて玄鶴山房を訪れます。彼女はかつて堀越家でお手伝いをしていましたが、現在は玄鶴の愛人として東京郊外で囲われていました。この突然の訪問は、家族に大きな波紋を広げます。重吉が不在の中で、対応に当たるのはお鈴であり、彼女はお芳と息子を玄鶴の元に案内します。
お芳が来た理由は、手切れ金や養育費の問題を解決するためです。玄鶴はお芳に手切れ金を渡し、息子を連れて千葉に帰るよう手配しましたが、彼女はまだ完全に立ち去る気配を見せません。兄の圧力もあって、しばらくの間、玄鶴の看病を手伝うと言い出します。これに対し、お鈴は強い警戒心を抱いています。父が愛人に絵画や骨とう品を送っていることに気づいており、財産が奪われるのではないかと心配しているのです。
この時点でお鈴は、今後の家族間での遺産争いを予感し、家の中に一層の緊張感が漂います。お芳の存在が、家族の絆を崩しつつあることが暗示されています。
第3章:家族の衝突と甲野の冷静な視点
お芳が玄鶴山房に住むようになってから、家族間の雰囲気は一層悪化していきます。特に、重吉とお鈴の息子と、玄鶴の愛人お芳の子供との関係はうまくいかず、家族全体に緊張が走ります。お鈴の母親であるお鳥も、夫の愛人に対しては寛容でしたが、そのストレスを娘たちにぶつけるようになってきました。
そんな家族の中で、甲野だけは冷静に事態を見守っています。彼女は過去に多くの家庭で介護をしてきた経験から、他人の家庭の争いに慣れており、その様子を冷静に観察しています。甲野は家族間の衝突を見つめながらも、その中にある悲劇をどこか楽しむかのように受け止めています。
そんなある日、玄鶴は甲野に木綿のふんどしを頼みます。甲野は彼が自殺を考えていることを見抜きながらも、その要求に応えます。結果として玄鶴の自殺は未遂に終わり、彼はしばらくの間生き延びることになりましたが、この出来事は家族の絆にさらに亀裂を生じさせることになります。
第4章:玄鶴の最後とその後の家族
玄鶴の健康状態はさらに悪化し、1週間後、彼はついに息を引き取ります。堀越玄鶴は、実業家としても芸術家としても名声を得た人物でした。彼の告別式は盛大に執り行われ、多くの人々が玄鶴の最後を見送ります。お鈴と重吉は、参列者たちとともに玄鶴の思い出を語り合いますが、妻のお鳥は体調不良のため式に出席できません。
葬儀が終わり、火葬場へ向かう道中、重吉は大学生のいとこと再会し、彼とともに葬用馬車に乗り込みます。馬車の中で重吉は、玄鶴の死や家族の未来について考えを巡らせます。その途中、彼は道端に立つお芳の姿を目にします。お芳は千葉の海辺に戻り、息子と共に新しい生活を始めようとしているのです。
重吉はお芳の今後を思いながら、玄鶴山房に残る家族もまた新たな生活を迎えなければならないことを自覚します。馬車は師走の冷たい風の中を静かに走り抜け、物語は幕を閉じます。
「玄鶴山房(芥川龍之介)」の感想・レビュー
『玄鶴山房』は、堀越玄鶴という人物の晩年を軸に、家族や愛人、看護師たちが織りなす複雑な人間関係を描いた物語です。まず印象的だったのは、玄鶴が病に倒れながらも、家族や財産、そして愛人との関係に苦しむ姿です。彼は一見成功者のように見えますが、家族の中にある緊張感や対立が、彼の最期を彩る不安な要素として強調されています。
特にお鈴の視点から描かれる家族の不安や葛藤が丁寧に描写されており、彼女が父の財産や遺産について警戒する気持ちは、多くの読者にとって共感できる部分ではないでしょうか。愛人お芳の登場によって、お鈴の心情がさらに複雑になる様子や、兄の圧力で家族の和を乱すお芳の存在感が物語の緊張感を高めています。
看護師の甲野というキャラクターもまた、物語の中で重要な役割を果たしています。彼女は家族の争いに直接関わることはありませんが、その冷静な視点から家族の内情を観察し、どこか客観的に物語を進行させる役割を担っています。彼女が感じる他人の悲劇への興味が、物語の陰鬱な雰囲気を際立たせています。
玄鶴が自殺を図るシーンは特に印象的です。彼の力が衰えていたために未遂に終わるという描写は、彼の無力感や絶望感を強く伝えています。この出来事を通じて、家族の結びつきが揺れ動き、誰もが自分の心に不安や恐れを抱えていることが浮き彫りになります。
最終的に、玄鶴の死を迎えた家族がそれぞれの新しい生活に向き合う姿が描かれますが、この物語はただの家族の物語ではなく、人間の生き方や人間関係の複雑さを深く掘り下げた作品です。読後には、玄鶴という人物が抱えていた孤独や家族の愛憎に対する複雑な感情が胸に残ります。
まとめ:「玄鶴山房(芥川龍之介)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 玄鶴は肺結核で余命わずかである
- 妻お鳥は寝たきりで、看護師の甲野が介護を担当
- 玄鶴には愛人お芳がいて、家族内に不安を引き起こす
- お鈴は父の財産を気にし、遺産争いを警戒している
- お芳の存在で家族間の緊張が高まる
- 看護師甲野は家族の内情を冷静に観察している
- 玄鶴が自殺を図るが未遂に終わる
- 玄鶴の死後、家族の関係に変化が生じる
- 重吉はお芳の今後について考える
- 物語は玄鶴の死と家族の新しい生活で締めくくられる