『AX アックス』は、表向きは文房具メーカーの営業として働きながら、裏では凄腕の殺し屋としての顔を持つ三宅の物語です。物語は、殺し屋としての生活から抜け出したいと願いながらも、家族を守るために裏の仕事を続ける彼の葛藤から始まります。ある日、彼は友人となった奈野村をターゲットにするという過酷な依頼を受け、その決断を迫られます。
時間が経ち、三宅の息子である克巳は、父の過去と死の真相を追いかけ、家族の絆を確かめようとします。父の隠された部屋にたどり着いた克巳は、様々な謎と向き合う中で、父が自分を守るために尽くしていた事実を知ります。
この物語は、父親としての愛情と殺し屋としての冷酷さの間で揺れ動く三宅の人生を描き、家族のためにどんな犠牲を払っても守ろうとする姿を描いています。
- 三宅が家族に隠していた殺し屋としての裏の顔
- 友人奈野村との出会いと、彼がターゲットにされたこと
- 息子の克巳が父の死の真相を追い始める経緯
- 三宅の隠されたマンションの部屋の謎
- 最後に父の友人・奈野村が克巳に真実を伝える場面
「AX アックス(伊坂幸太郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
第1章: 三宅の裏の顔と人生の分岐点
三宅は幼少期から犯罪に手を染め、やがて「兜」と呼ばれる殺し屋として裏社会で活躍するようになります。しかし、ある女性と結婚し、息子の克巳が生まれたことで、彼の人生は一変します。家族を大切にする気持ちから、彼は文房具メーカーに転職し、表向きは平凡な営業社員として働くことにしました。
三宅が40代の半ばになった現在でも、家族には裏の顔を隠し続けています。妻や息子には、普通のサラリーマンとしての生活しか見せておらず、殺し屋としての活動は全く知られていません。殺し屋としての仕事は、都内の診療所にいる医師から紹介されており、三宅は時折その仕事をこなしています。
5年前、三宅はその医師に殺し屋を辞めたいと相談しましたが、辞めるためには高額な手切れ金が必要とされました。三宅にはその金額を支払うことができず、結果として、殺し屋を続けざるを得ない状況に陥っています。彼は家族のために辞めたいと思いながらも、その思いを果たすことができずにいました。
第2章: 出会いと裏切り
半年ほど前、三宅は営業の仕事で警備会社の社員である奈野村と出会いました。彼らには、一人息子を持つ父親という共通点があり、それがきっかけで親しくなります。奈野村は謙虚で誠実な性格の持ち主で、三宅は彼に強く惹かれていきました。これまで孤独だった三宅にとって、奈野村は初めての友人となりました。
ある日、三宅は医師から特別な仕事を依頼されました。その仕事を成功させれば、ついに殺し屋を引退できるという話でした。しかし、ターゲットとして示された写真には、なんと奈野村の姿が写っていました。友人である奈野村が標的だと知った三宅は強いショックを受け、葛藤します。
百貨店の閉店後、三宅は奈野村と対峙します。奈野村は、自分もまた凄腕の殺し屋であり、息子のために生き延びなければならないと語ります。三宅は奈野村を殺すことができず、その場を離れて逃走しますが、彼が仕事に失敗したことで、家族に危険が迫ることが予想されました。
第3章: 息子が父の足跡を追う
三宅の死から10年後、息子の克巳は妻・茉優と息子・大輝の3人で埼玉県のマンションで生活しています。克巳は自らの家族を持ち、父の死について疑問を抱えながらも、平穏な生活を送っていました。そんなある日、スポーツジムのトレーナーである田辺亮二が克巳の家を訪れます。
田辺は、10年前に三宅が彼を助けてくれたことを克巳に伝えます。当時、小学生だった田辺はいじめに遭っていましたが、三宅がその場に居合わせて彼を助けてくれました。その時、田辺が偶然拾った診察券を手掛かりに、克巳は父の死の真相を探り始めます。
克巳は父の主治医だった医師と面会し、父が亡くなる直前に自分に何かを残したという話を聞かされます。実家に戻り、父の遺品を整理していた克巳は、小さな封筒の中から1本のカギを発見します。それは父が密かに購入していたマンションの一室のカギでした。
第4章: 過去との対峙と報復
克巳はカギを手に入れ、父が隠していたマンションへと向かいます。しかし、突然現れたのは、かつて父の主治医だった医師でした。医師は克巳に拳銃を突きつけ、三宅の部屋に無理やり連れてこられます。克巳が部屋に入る前に、管理人が現れ、「三宅さんが『誰も部屋に入れないでくれ』と頼んでいた」と忠告しますが、医師はそれを無視して部屋に侵入します。その瞬間、扉が開いたと同時に仕掛けられたボウガンの矢が自動的に発射され、医師は胸に矢を受けて倒れます。
その場に駆けつけたのは、今ではクリーニング店を営む奈野村でした。彼は三宅のおかげで殺し屋を辞め、堅気の生活を送ることができたと感謝を述べます。奈野村は、倒れた医師の遺体処理を引き受け、克巳に「父親は何者だったのか」と問われます。奈野村は「ただの、いいお父さんだったよ」と笑顔で答え、克巳は父が自分を守るために全てを捧げたことを知ります。
「AX アックス(伊坂幸太郎)」の感想・レビュー
『AX アックス』は、家族を守るために苦悩し続けた父親・三宅の生き様を描いた作品で、非常に感動的な物語でした。特に印象的だったのは、表向きは普通のサラリーマンとしての顔を持ちながら、裏では冷酷な殺し屋として生きる彼の二重生活です。彼が家族のために全てを捧げ、最後には自ら命を絶つことで家族を守ろうとする姿には、強い父性愛を感じました。
物語の中盤では、三宅が友人となった奈野村をターゲットにしなければならないという究極の選択を迫られます。奈野村との友情が描かれる場面は、三宅の孤独な人生に光を与える瞬間でした。彼が奈野村を殺すことができずに逃げ出すシーンは、三宅の人間性が垣間見える重要な場面であり、非常に胸に残ります。
また、物語の後半では、三宅の息子である克巳が父の死の真相を追い、父が残した手がかりをもとに隠された過去に向き合っていく過程が描かれます。克巳が父の部屋にたどり着き、そこに残された仕掛けによって真実に迫るシーンは、サスペンス性が高く、物語の緊張感が一気に高まりました。
最後に、三宅の友人である奈野村が、克巳に父のことを語るシーンは、物語の締めくくりとして非常に感動的でした。奈野村が「ただの、いいお父さん」と語るその言葉には、三宅が家族のためにどれだけの犠牲を払ったかが込められており、読者としてもその重みを強く感じます。
全体を通して、『AX アックス』は、家族愛と裏社会の葛藤を描いた心に響く作品でした。特に、父親としての三宅の姿勢や、彼を取り巻く人々との関係が非常に深く描かれており、感動と共に物語の世界に引き込まれました。
まとめ:「AX アックス(伊坂幸太郎)」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- 三宅は「兜」と呼ばれる凄腕の殺し屋である
- 家族には殺し屋であることを隠し続けている
- 三宅は殺し屋を辞めたいが、手切れ金が支払えない
- 奈野村とは営業の仕事を通じて知り合う
- 奈野村は三宅にとって初めての友人となる
- 医師から依頼されたターゲットは奈野村であった
- 三宅は奈野村を殺すことができず逃げ出す
- 克巳は父の死の真相を探り始める
- 父の遺品からマンションのカギを見つける
- 奈野村は克巳に父のことを伝え、感謝の言葉を述べる