「ウエハースの椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

「ウエハースの椅子」は、主人公・美咲の複雑な恋愛と家族の物語です。既婚者である亮太との関係に苦悩しながらも、妹・奈緒との絆や孤独に向き合う姿が描かれます。

失われた家族の記憶や、心に浮かぶ「死」の観念が、美咲の心情を揺さぶり、彼女の人生に影響を与えていきます。

この記事のポイント
  • 主人公美咲の恋愛と孤独
  • 家族との関係性や絆
  • 「死」に対する美咲の考え
  • 妹・奈緒の恋愛と失恋
  • 美咲の心の葛藤と救い

「ウエハースの椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

「私」は、名前を美咲(みさき)と言い、長い間、7年もの付き合いがある恋人、佐藤亮太(さとう りょうた)と一緒にいます。亮太には妻子がいて、彼女とずっと一緒にいることはできませんが、美咲はその現実を受け入れています。美咲は出版社でエディターとして働いており、自立した生活を送っています。たとえ亮太が家に帰るときの孤独感を感じても、彼女は自分の力でしっかりと生きていることを確かめています。

美咲には、唯一の家族である妹の奈緒(なお)がいます。両親を事故で失ってから、姉妹は二人で支え合って生きてきました。奈緒は時々美咲の家を訪れますが、二人の間にはどこか理解しきれない壁があり、完璧にはお互いの気持ちを伝え合うことができません。それでも、姉妹はお互いが支えとなる大切な存在です。奈緒も美咲も、結婚する予定はなく、やがて自分たちの家系が終わるのだと感じています。

美咲の生活は一見穏やかですが、ふとした瞬間に「死」という言葉が頭をよぎります。彼女はこれまでにいくつもの「死」を経験してきました。幼い頃から飼っていた犬が亡くなったとき、父親が急病で亡くなったとき、そして母親を病で失ったとき。そのたびに美咲は深い悲しみを感じましたが、次第に「死」は恐ろしいものではなく、どこか安らかなものだと感じるようになりました。

毎年、亮太と美咲はバカンスに出かけ、二人きりの時間を楽しみます。その中で美咲は、人を好きになること、そして人に心を開くことの喜びを改めて実感します。東京に戻ると、美咲は幼い頃に大好きだったウエハースで椅子を作ったことを思い出します。それは彼女にとって、手が届かないけれども愛しい記憶であり、幸福の象徴でした。

奈緒は旅行が趣味で、海外の恵まれない子どもたちを支援する活動をしています。美咲に対して、時折「姉さんは子供みたい」とか「変わってるね」といった皮肉めいた言葉を投げかけることもあります。そんな奈緒にも恋人ができました。伊豆高原で出会った6歳年下の大学院生、鈴木翔太(すずき しょうた)に夢中になったのです。しかし、奈緒の恋はすぐに終わりを迎えます。翔太には4年間付き合っている別の女性がいたからです。

美咲と亮太は奈緒の失恋を慰めるため、奈緒の「やけざけ」に付き合います。そこで奈緒は、美咲に「姉さんは男に尽くしすぎる」と忠告し、自分はスパッと別れたと話します。その言葉に亮太は余裕のある表情を浮かべながら、姉妹の会話を見守ります。しかし、その後、奈緒は再び翔太と関係を修復しますが、問題は解決されないままです。

美咲もまた、自分の恋愛に対して違和感を抱き始めます。自分が亮太にとって現実の存在ではなく、空想の中の人物のように感じてしまうのです。しかし、亮太は「君が現実だよ」と言います。それでも美咲は、次第に孤独感が募り、自分が閉じ込められているような感覚に襲われます。

美咲は亮太との別れを考え、すべてがうまくいかない自分を責めます。彼女は3日間、ベッドにこもり、シャワーを浴びる以外は何もしません。食事もとらず、ハーブティだけを飲みながら、ただ死を待つような生活を送ります。それでも、心の中はなぜか静かで澄んでいく感覚があります。亮太からの連絡も途絶え、日が経つにつれて美咲の体は弱っていきます。5日目にはトイレに行くのも億劫になり、ただ眠りたいと思うようになります。

やがて美咲は病院で目を覚まし、彼女を運び込んだのが亮太であることを知ります。病院のベッドで、亮太は「すぐに帰れるよ」と言い、美咲を安心させます。美咲は亮太に、自殺しようとしたのではなく、ただ疲れていただけだと説明します。亮太はそれを信じ、もし美咲が「死」を迎えるなら、自分も同じように感じるだろうと言います。

美咲は亮太の言葉に呆れながらも、彼の言葉を信じてしまっている自分に気づきます。そして、また元の生活に戻り、閉じ込められたような場所に戻ってきたことを感じますが、そこが自分の帰る場所であると受け入れるのです。

「ウエハースの椅子」の感想・レビュー

「ウエハースの椅子」は、美咲という女性の心の奥深くに迫る作品で、彼女の孤独や悩みがとてもリアルに描かれています。亮太との関係は美咲にとって大切な支えでありながらも、彼女の心にある孤独は完全には埋められません。妹の奈緒との関係も、家族という絆がありながらどこか距離があり、その微妙な関係性がとても切なく感じられました。

物語の中で、美咲が「死」に対して恐れを抱かないことや、過去の記憶に浸る場面は、彼女がどれだけ多くの悲しみを抱えてきたかを物語っています。奈緒の恋愛に対する奔放な姿勢も、美咲とは対照的で、姉妹の性格の違いがよく表れています。最後に美咲が病院で亮太と再会するシーンでは、彼の優しさと美咲の心の葛藤が交差し、何とも言えない感情が込み上げてきます。

美咲が「帰る場所」を見つけたように見えても、そこが完全な安らぎではないところがこの物語の深さであり、現実の人間関係の難しさを感じさせます。亮太との関係は決して理想的ではないけれども、それでも美咲にとってかけがえのない存在であり、彼女の生きる理由の一部であることが伝わってきます。この作品は、愛と孤独の間で揺れる人々の心を見事に描き出した、心に残る一作です。

まとめ:「ウエハースの椅子」の超あらすじ(ネタバレあり)

上記をまとめます。

  • 美咲は既婚者の恋人・亮太と付き合っている
  • 美咲は妹・奈緒と二人きりの家族
  • 美咲は「死」を恐れず安らかなものと感じる
  • 奈緒は6歳年下の大学院生と恋に落ちる
  • 奈緒の恋人には別の女性がいる
  • 美咲も自分の恋愛に疑問を持つようになる
  • 美咲は孤独感に苦しみ出家を考える
  • 美咲は心身ともに疲れ果ててしまう
  • 病院で亮太に助けられる
  • 美咲はまた元の生活に戻る