「あなたの燃える左手で」は、アサトが他人の左手を移植された後の苦悩と葛藤を描いた物語です。
誤診によって左手を切断され、その後に移植された手の持ち主がポーランド人であることが判明します。リハビリを続けながら、アサトは亡き妻ハンナの幻影と向き合い、移植が失敗だったのかと悩みます。
物語は、アサトが左手の違和感に耐えつつ、過去の痛みと向き合う姿を描きます。
- アサトが他人の左手を移植された話
- 左手の移植は誤診により切断された結果
- ポーランド人の手が移植されている
- アサトのリハビリと心の葛藤
- 亡き妻ハンナの幻影と移植の失敗についての悩み
「あなたの燃える左手で」の超あらすじ(ネタバレあり)
アサトは、目を覚ますと病院のベッドに横たわっていました。麻酔がまだ効いている状態で、ぼんやりとした意識の中、ハンガリー人の医師ゾルタンがやってきて、手術は成功したと告げました。アサトは手術の詳細をよく理解できていませんでしたが、時間が経つにつれて、自分の左腕に他人の左手が移植されたことが分かりました。
手術後、アサトの左手は最初のうちはむくんでいて、まるで肉の塊のように見えました。しかし、数日でむくみは引き、手術の成功が確認されました。アサトの左手はうまく接合されましたが、重いおもりをつけられたような感覚で、動かすことができませんでした。
理学療法士の雨桐(あまきり)は台湾系フィンランド人で、アサトのリハビリを担当しました。彼女は毎日、アサトの左手のリハビリを行い、少しずつ動かせるようにしていきました。アサトはこのリハビリの過程で、自分の過去を振り返ります。
アサトは高校生の頃、商社で働いていた父親とともにフランスに来ました。父が日本に帰国した後、アサトはヨーロッパに残り、オーストリアの大学に進学しました。その後、さまざまな経験を経て、ハンガリーの大学で看護学部に入学しました。看護学部を卒業した後、アサトは病院で働き始め、内視鏡センターに移りました。日本人医師の敷島(しきしま)とチームを組み、内視鏡技師として活躍していました。
ある日、アサトは左手に異常を感じ、整形外科を受診しました。診断の結果、骨肉腫か軟骨肉腫という悪性の腫瘍があり、左手を切断しなければならないと告げられました。
アサトの左手は切断されました。手術は成功したものの、その後、驚くべきことが判明しました。実は、アサトに診断された悪性の肉腫は誤診で、本当は良性の骨の異常だったのです。つまり、切断する必要はなかったのです。しかし、すでに切断された左手は壊死してしまい、ドクトルゾルタンは再接合することができませんでした。
誤診をした整形外科部長のウラースロは逃げてしまいました。アサトは内視鏡センターに戻り、義手を使って再び技師として働くことを希望しましたが、誰も彼を受け入れてくれませんでした。結局、アサトは病院の事務職員として働くことになりました。
アサトは過去の出来事を思い出しながら、リハビリを続けます。重い物体をぶらさげているだけのようだった左手も、雨桐の指導によって少しずつ動かせるようになってきました。ドクトルゾルタンは、「左手を屈服させるのだ」とアサトを励まし、リハビリを続けるように促しました。
ある日、アサトはウクライナに住む義父、テオドルに会う許可を得ました。アサトは、ネットゲームの仲間であるネストールと一緒に車でウクライナへと出発しました。ネストールもハンナもクリミア出身で、ロシアの一方的な併合に対して反感を持っています。
アサトとネストールはウクライナへ向かう途中、アサトはクリミア脱出の時のことを思い出します。クリミアがロシアに併合されたのは、アサトが左手を切断された後のことでした。ハンナと一緒に列車で脱出し、国境でロシア兵に捕まらずに無事に脱出することができました。しかし、ハンナの叔父はスパイ容疑で捕まってしまいました。ハンナはロシア国籍になってもクリミアにとどまりたかったと泣いていました。
ウクライナに到着後、ハンナは看護師兼ジャーナリストとして、ドンバス地域の親露派兵たちの様子をカメラに収めていました。ある時、アサトは義父テオドルから呼び出され、テオドルが自爆した女性の死体がハンナだと主張しました。アサトは義父の認知症が進行したと考え、特に気に留めませんでした。
現在に戻ると、アサトはウクライナから帰国し、ゾルタンがアサトの左手の反射を抑えられないと感じています。ゾルタンは、移植が失敗だったのかもしれないと考え、アサトの状態を憂慮しています。また、アサトが亡き妻ハンナの幻影を見ている様子を見て、ゾルタンは哀れだと感じ、また異様だとも思います。
アサトは左手の違和感に耐えられなくなっていきます。診察を受けた結果、移植された左手がポーランド人の肉体労働者のものであることがわかりました。アサトはゾルタンに対して、左手を切断してほしいとお願いしました。しかし、ゾルタンは日本人が八センチの国境も受け入れられないのかと考えます。それでも、アサトをなだめ、雨桐には日本の童謡を歌いながら手を合わせる遊びをさせるように指示しました。
アサトは夢の中で、亡き妻ハンナの手で自分の体を触られているという幻想を見ます。目が覚めると、手が非常に熱くなっていました。ポーランド人の記憶がアサトの頭に流れ込んでくるのを感じました。ゾルタンが呼ばれ、左手を切断するかどうかの議論が行われました。数日後、アサトは熱が引き、手が軽くなって違和感がなくなったことに気づきます。
ゾルタンはこの手術を最後に病院を去り、アサトは職場に復帰し、内視鏡センターからも再びお誘いを受けました。一方、ロシアの侵攻によってウクライナには立ち入れなくなり、義父の死を看取ることができませんでした。アサトは、亡き妻ハンナの埋葬場所を探しに行きたいと思っています。
「あなたの燃える左手で」の感想・レビュー
「あなたの燃える左手で」を読んで、いくつかの深い感想が浮かびます。
まず、この物語は非常にユニークであり、アサトの苦悩と向き合う姿が心に残ります。アサトが他人の左手を移植されるという設定は、まさに衝撃的であり、その後の彼のリハビリと心の葛藤がリアルに描かれています。特に、アサトがポーランド人の手を移植されて苦しむ様子は、身体的な違和感だけでなく、心の葛藤も強調されていて非常に印象的です。
次に、誤診によってアサトの左手が切断されたことが物語の中心にあります。この誤診は、アサトにとって大きなトラウマとなり、その後の人生にも大きな影響を与えています。誤診をした整形外科部長ウラースロが逃げてしまったことも、アサトの不運をさらに際立たせています。
また、アサトのリハビリを担当する理学療法士の雨桐(あまきり)との関係も重要です。彼女の指導により、アサトの左手は徐々に動かせるようになりますが、その過程での苦労と達成感が細かく描写されています。雨桐の支えがなければ、アサトはリハビリを続けることができなかったでしょう。
さらに、アサトが亡き妻ハンナの幻影に悩まされるシーンは、物語に深い感情的な層を加えています。アサトが夢の中でハンナの手で自分の体を触られるという幻想を見る場面は、彼の心の中でどれほど妻への思いが強いかを示しています。この描写は、彼の精神的な苦痛をより深く理解させてくれます。
物語の終盤では、アサトが左手の違和感に耐えつつ、過去の痛みと向き合う姿が描かれます。職場復帰の希望やウクライナの義父の死を看取ることができなかったことなど、アサトの人生の選択とその後の展開が見事に描かれています。
総じて、「あなたの燃える左手で」は、身体的な移植手術と心の葛藤を通じて、人間の深い部分に触れる感動的な物語です。アサトの苦しみと成長を描いたこの作品は、読む人に強い印象を残すことでしょう。
まとめ:「あなたの燃える左手で」の超あらすじ(ネタバレあり)
上記をまとめます。
- アサトは他人の左手を移植される
- 左手の切断は誤診に基づく
- 移植された手の持ち主はポーランド人である
- アサトのリハビリが続く
- アサトは移植手術の成功に疑問を持つ
- ハンナの幻影がアサトを苦しめる
- アサトは左手の違和感に耐えている
- アサトの過去の痛みが描かれる
- アサトの職場復帰の希望がある
- ウクライナへの訪問と義父の死について考える